(1)福井のうたごえ(福井)
ピアノ/中村はるな ギター/斉藤清巳
「扉のむこうには」
(作詞・作曲/山田文葉)
石黒 寧で真っ直ぐな言葉を積み重ねて、構成のしっかりした歌詞に仕上げています。もう少し言葉の剪定をすると説得力が増します。例えば「ただひたすらまっすぐに」は「まっすぐに」でいいです、前後の歌詞でその真っ直ぐさは伝わりますから。言葉は不思議なものですね、沢山言葉を費やすよりも、ただ一言の言葉に力を感じる時があります。
ところで扉の向こうにある「まだ誰も見たことのない 行ったことのない世界」とはどんな世界なのでしょうか?抽象的なので、もう少し具体性を持たせて書いて欲しいです。
木村 困難に立ち向かおうとする心意気が伝わってくる詩。曲もそれをよく表現している。1番は詩の流れも良く、メロディーも言葉に寄り添っているが、2番は少々無理なところがある。たとえば、「仲間と手を取り 歩き始めた」は困難の予見と解決を同時に示しているようで次に流れていかない。後に出てくる「仲間」を活かすには、ここで「仲間」を使いたくない。「小さな手を取り」など考えてはどうか。
木下 出だしのモチーフは1拍目の和声外音(イ奇音)が効果的でなかなかイカすメロディ。各部分はそれぞれ良いメロディだとおもう。が、メロディラインがどんどん変化してハーモニーも素敵なのだが、全体としてはまとまった印象、説得力が弱い。歌詞も「逆風、焼け付く、凍える」など一般的な表現が多く「なにがいいたいのか」ぼんやりとしたところがあり、それが魅力といえばそうなのだが、詞を整理して、詞や曲のポイントを(表現は曖昧にしたとしても)しっかり押さえてほしい。(ピアノは上手な方かも、と思うが)ちょっと、残念。
全体の構成がまとまっていて、コードの進行も良くできていると思います。いい歌ですね。私が特に好きなところは、“大きな壁が~”と、“とびらのむこうには~”の部分です。ことばと音がぴったりで印象的です。最後の盛り上がりも上手いです。
細かい点ですが、“おおきな壁が”の四分音符のメロディが新しく登場し、新鮮な世界が広がったにもかかわらず、このメロディ素材が一回だけなので惜しい気がします。“一緒に扉を押す~”も、同じ素材でできないかと考えてみました。(譜例1)ありきたりにはなりますから、功罪相半ばかも知れませんが。

“行ったことのない”の部分のラ♭シ♭の登場は、やや唐突な気がします。チャレンジとしては面白いですし、印象深いのですが、「のない」という歌詞とのバランスが悪いのかもしれません。ほかのことばが乗れば面白いかも。
山本 しゃれたイントロは、曲の持つイメージ(どこかロマンチックかつセンチメンタル)と合っていて、それ自体は悪くない。しかし、詩の前半(特に1番)の持つある種の強さと比較すると、詩の訴えを弱めているようにも感じる。終わりの部分のFm「ことのない」と、「新しい世界が」は、曲の訴える力を弱めてはいないか。

(2)おらコンシンガーズ(大阪)
ピアノ/田中玲子 ギター/今西正直
「たんぽぽ」
(作詞/高砂保子 作曲/今西正直)
石黒 物忘れをするようになったお母さんに対する、温かなまなざし、シンプルな歌詞にお母さんに寄せる限りなき愛を感じます。1行目「お母さんと囁くと~返ってきた」「お母さんを抱えると~返ってきた」で聞き手をこの歌の世界に引き込みます、その後の展開も上手いです。
たんぽぽは歌詞によく取り上げられる花ですが、この歌のイメージに良く合っています。とても素敵な作品です、演奏はもっと自信を持って歌って下さいね!

木村 介護施設にいる母親との交流が目に浮かぶようだ。作者の言いたいことをたんぽぽに託したところも大らかさと強さを感じる。たんぽぽ以降のメロディーの展開もいい。
木下 いい着眼で、あったかいのがすてき。気持ちはとても伝わる。ただ、曲としてはややバラバラ。前半に魅力が欲しい。原因は曲の二段目、5小節目のメロディの受け止めがとても難しい歌詞の構成にある、ともいえる。
謳い易いソングの場合、出だしの8小節は曲の風格・味のほとんどを決めてしまう。 たとえば、歌詞の2行目に1行目の語感・リズムと似た「お母さんとのやり取りの、もう一つのシーン」を描いてくれると、一、二段のバランスがとりやすくなって、きっと面白い8小節になった気がする。今の二行目は三行目にしっかりとうたえばいいのだ。
おしまいの8小節はとてもステキだ。この部分を何回も口ずさみながら、出だしのいいメロディを探し出す、ことも大事な攻め方のひとつと思う。お好きなうたの出来方(リズムやメロディのくりかえしなど)を、ぬすんでほしい。(歌曲形式についての本もある。本屋で立ち読みも…。)
暖かくて、懐かしくて、いい歌ですね。特にたんぽぽのからのメロディが素晴らしい!
こころに残ります。 ただ惜しむらくは、全体に音が低い気がします。特に最初の6小節は合唱で歌うには低すぎるのではないでしょうか。(一人で低い声で歌うのなら別です)たとえば2番の「ありがとう」のことばが、残念ながら沈没してしまっています。
カポで3つ上げてB♭調あたりでいかがでしょうか?そうでなければ、前半をご破算にして、考えなのすのは?あまりにも、たんぽぽからがすてきなので、惜しい気がしました。
山本 “お母さんとたんぽぽ”のモチーフが自然な語りで発展してやさしさを伝えた。曲想も無理のない自然なコーダ部分につながり、シンプルながらあたたかい作品に仕上がった。(演奏もまた応えた)

(3)万華鏡(奈良)
ピアノ/柿本淳子 ギター/柿本一志
「ラストスパート」
(作詞・作曲/柿本一志)
石黒 波乱万丈の人生をふりかえる、しみじみとした哀愁もただよう味のある歌詞ですね。
昭和歌謡とでも銘をうちたい歌詞の展開です。歌詞の細部には少し気になる表現もありますが、全体の大きな流れの中では気にならなくなります。
あえてひとつ指摘すれば「季節が若さを 追い越していく」とはどんなことでしょう?時の流れが速いということなのでしょうか。少しこり過ぎ、分かりづらいです。
木村 人生をトラック競技になぞらえたところが面白い。曲も個性的。
ただ、題名は「人生のラストスパート」として方が入りやすいか。最後の「一燐の花」、輪でも凛でもないが、耳からだとそのこだわりは分らない。題を「ラストスパート〜花一燐」とする手もあるか。
木下 開き直った中年の応援歌。こんなのもあっていいかと思う元気なノリだ。
が、音域ははじめから結構広く使っていて、その結果ここぞ!の山がもの足りない。歌詞も「進んでやる」「歴史のひとこま」にいきる心意気はあるらしい…が、「最後の花」とは何なのか,知りたいね。なお、伴奏大きくて。歌詞きこえない。
同じく最終章を生きているものとして、共感しながら聞かせていただきました。
そうだよなぁと。味わい深いいい歌ですね。 ただ全体的に、やや推敲不足の感もしました。たとえば、ラストスパートよ、の部分は歌うには難しい気がします。
たとえば譜例2も考えられます。音の割り振りを、もう一度推敲されることをお勧めします。もっといい節回しができるかもしれません。
山本 演歌調の声ですが、曲想はフォーク調ですね。演歌のメロディーをしらべてください。演歌の節まわしを、例えば出だしの所を

みたいにすると、一節うなれますよ。詩でぐっとつかめる所は「これから~」より「ラストスパートよ」のほうではないかな。曲のポイントをここに持ってきたかった。

(4)ヤネコシンガーズ(京都)
ギター/今西正直、山本義朗
「めざせ100てん」
(作詞・作曲/ヤネコシンガーズ)
石黒 何よりも、歌い続けることの楽しさをたっぷり聞かせてくれる演奏でした。本人の自己評価と妻の評価の大きなギャップにただただ笑えます。しかしこのギャツプをうまく効かせて歌を盛り上げています。
最後の連が一番の聞かせどころです、発想は面白いですが説明的で言葉がてんこ盛り、もう少しスッキリさせた方が判りやすいです。それはそれとして100点取れるまで元気で頑張ってくださいね!
木村 熟年夫婦の楽しい会話が歌になった。歌う方も、聴いている方も楽しくなる。メロディアスにならず、語感の勢いを大切にしているところも夫婦の会話を活かしている。
木下 とても、リアルで面白い。現実暴露ものは時にあるが、この種のうたは結果として白けさせしまうものが多いのに。それなりにオチが用意されていて、それも夢が織り込まれていて、そこがとてもいい。
延々とつづく曲は一種の「阿呆だら教」だが、何度も演奏する中でもっと整理されてくると思うし、歌詞が動けば曲も変るという自在さ、も魅力にして、できれば、単に年齢の積み重ねでなく、社会性のある活動も読み込んでほしい。
とっても楽しい歌で、アイディアも良いですね。私は「印象的な5作品」に選びました。 音楽としては、メロディに対旋律(ズンチャチャ、とかぶーぶーとか)をかぶせたことにはチャレンジ賞を差し上げたいです。ただ、コントとしては合格ですが、音楽的には残念ながら勉強の余地がまだまだあるかと思います。
いくつかの課題を記します。 ズンチャを入れるのでしたら、もう少しはっきりと入れたほうが良いでしょう。最低最初の4小節は、歌に入らずにズンチャだけが歌うのが良いと思います。 メロディの作りにも推敲の余地があります。面白い歌なので、音楽もしっかり作っておくと、広がりができます。次を期待します。
山本 アイデアは面白く、生活の一面を表現している。しかし、「うた」として愛唱できるかといえば一寸むずかしい。詞(ことば)のおもしろさが、曲のおもしろさになるような曲づくりに頑張ってみてほしい。ハモリの工夫は楽しくできている。

(5)第3次辺野古高江うたごえ合宿創作グループ(自治体)
ギター/栗栖慎一 ピアノ/佐藤幸恵
「一歩も退かない」
(原詩/細野悦子 作詞/第3次辺野古高江うたごえ合宿創作グループ 作曲/高畠賢)
石黒 実に力強い歌詞、現地に行かなければ生まれない言葉です。シンプルな歌詞がいいです、迫りくる事態の重大さときっぱりした決意を表現しています。
辺野古・高江の闘いの中から創られる歌には多様性が必要です、大きな闘いだからこそ多くの豊かな歌が生れると思います。「一歩も退かない」と言った後にはどうするのだ?新たな歌が生れます!
木村 さすがの集団創作。現地の勢いが詩と曲に反映している。「退かない」と歌っているのに前進感のあるメロディーがいい。
木下 迫力充分、力ある演奏が圧倒!沖縄の臨場感が詞にも曲にも充分感じられた。
ただ,エンディングは高揚した「絶対!」のほかに、どこかのメロディを使って静かに力ずよく
とても良くできています。一歩も、の「いっぽ」のことばを4拍目ではなく、一拍目に持ってきたことが、何気ないようで秀逸です。力強い決意がそのことで深まるのです。
たくさん何度も歌われてほしい歌ですが、この歌を歌う必要がなくなる日を願います。
山本 前半の“決意を感じさせる”曲想にくらべ後半のもう一段高めたい決意が曲としては“予定調和”のように感じてしまうのがおしいです。前半を引きつぎ発展させる独創的なコーダ部を目指したいです。

(6)眞柴泰久(京都)
ギター/眞柴泰久
「娘のとなりに」
(作詞・作曲/眞柴泰久)
石黒 年頃の娘さんによせるお父さんの思いをたくさんの言葉を重ねて表現しています。「うれしいような さみしいような」これが作品のキーワードです。1連の栗焼酎はリアルそのもの、ただの焼酎でなく珍しい部類の焼酎を持参、というところに彼の気合いを感じますね。「まったく嫌なところがありません」はとても面白い台詞です。嫌な奴だと困るけれど、文句のつけようがないのはまたさみしい、お父さんの矛盾する心の動きがとてもうまく表現されています。タイトルの「娘のとなりに」は象徴的な言葉です。
しかし、よく判らないのが、父親の心理です(私は父親ではないので)、「たくさん料理をします」なんて実に女々しいではないですか?
木村 娘を持つ父親の気持ちの一コマを見事に表現している。歌と語りの微妙なバランスも面白い。
木下 ユウモアがあって、暖かさもあっていいね。有名なxさんの語り口にそっくりだが、良い声で、ことばもよく届いてきて楽しめた。できれば、おとぎの国のお祝いでなく、すぐそこに待っている厳しい現実のことも少しは触れて欲しいのと、一節のすてきなメロディも欲しいな。
同じような年齢境遇の娘が2人いる私としては、共感しながら、娘の顔を思い出しながら聞かせていただきました。36小節目の空白がいいですね。父親の心を伝えています。
いい歌ですが、コードと語りだけではなく、どこか一部分でも(さだまさしのうたにも、どこかには「歌」があるように)音楽としてのオリジナル性(突き抜けたなにか)が出ると、音楽作品としての価値が上がると思います。
山本 親ごころの歌として、語り調が楽しいです。でもどこか、一節男親のこころがうたえるメロディーがほしいです。しかし娘と彼をよく見てるなぁーと感心しました。

(7)岡山合唱団(岡山)
ピアノ/真島優美子
「こんなに悲しいときには」
(作詞/石原みゆき 作曲/佐藤せいごう 編曲/石原みゆき 伴奏編曲/真島優美子)
石黒 とても素敵な歌です。シンプルだけれど、豊かに広がっていく歌詞ですね。1番が特にいいです。「どんなに泣いても~」のフレーズが心憎いです。全部「魚」にしたのはアタリですね。さすが笠木さんです、笠木ワールドにつながるものを感じます。2番、魚が空を飛ぶ日を夢見るのはすごく面白いです。3番、論理に少し無理な飛躍があるように思います、海が「ひとりじゃない」と気づかせてくれるのですか?
木村 詩も曲も完成度が高い。短い詩だが、いろいろ考えさせられる。悲しいけれど夢のある詩、その良さを生かして歌いたい。
木下 すっきりした良い詞と曲です。最後の8小節繰り返したい気もする。
寓意だから着想の深さが大切なのだが、たとえば「こんなに嬉しいときには…小さな喜びの貴重さ…」の1番が欲しかった。その方が想いも広がると、思うのだが…。
ピアノがいいですね。ともすれば平板になりそうな歌に、新鮮ないのちを吹き込んでいる気がします。いい歌だなあと思いますが、私は、元の歌詞のほうがずっと好きです。 全部魚は、おもしろいですがやりすぎだと思います。さなぎ、雨粒、いいですねー。2番はともかく、3番は、一人じゃないと気づかせて、と海に行きたい魚との整合性がない気がします。なんで?という疑問が残ります。
山本 短い詩、ことば少なくても伝えるテーマは大きかった。曲想も歌いやすく、コーダ部分へのつながり方もうまくいっている。演奏時の男・女のkey転換も良かった。

(8)国鉄かあさん合唱団つゆ草(国鉄)
ピアノ/堀井泉
「君とぼくはいつもそばに」
(作詞/北原未来 作曲/たかだりゅうじ)
石黒 福島に寄せる思いを歌詞にした作品。明日への希望をていねいな言葉を重ねて書きあげていますね。構成もしっかりしています。「群青」を彷彿とさせる歌詞ですが、言葉がおしなべて抽象的、君とぼくの顔が見えにくいのが残念です。どうしたらリアリティーがでるんでしょうか?例えば君とぼくの関係は、クラスメイトですか、仕事仲間ですか、君の住むところではどんな風がふくの、空は高いの、星はよく見えるの…こんな疑問に答えてくれるようなフレーズがあるといいですね。
木村 軽快なメロディーに歯切れ良い歌がマッチして、遠く離れた友に想いを送り続ける歌になっている。詩もステキな言い回しが沢山あって上手い。ただ、この想いを伝えるのに3番までの歌詞が必要か。
木下 後半のはばたきはさすがだが、前半との結びつきがどうも気になる。モチーフのねばりが不足していたのかな。歌詞はかなり一般的で、新鮮味にとぼしい。君とぼくの生き様の少しでもつかまえてくれれば、もっと身近かな歌になった気がする。
音楽的には、非の打ちどころがないようによくできています。明るくて、希望が感じられるいい歌だなあと思うのですが、特に前半の部分の歌詞には、この音楽は少し元気すぎるのではないかと、ちょっと違和感を感じました。特にそれを狙っているのであれば別ですが、君と僕は「こんなに離れていても」「にじむ涙こらえながら」それでもいつもそばにいるよ、という後半を生かすためにも、前半は音もテンポも色合いも、もう少し押さえて、伴奏も音を減らしてみるのはいかがでしょうか?さびの、「君と僕は」からが、もっとずっと輝くと思いますが。
山本 良くできている曲に反して詩の内容が一寸浅いのではないか?その意味で詩と曲の一体感がなく、前半はもう少しちがった曲想があってもいいのではないか。どこか調子がよすぎる感がある。

(9)ヒロコ(山形)
ピアノ/鈴木裕子
「思い」
(作詞・作曲/鈴木裕子)
石黒 とても繊細な言葉で紡がれた世界です。散文調なので聞き手に届きにくいのが気になります。3番まである定型の歌詞に発展させてはいかが?「ちっぽけな」が3か所で使われているのでそれを各連のトップに持ってきて「夢」「繋いでくれる者」「大好きな景色」を書いてみる、ぜひチャレンジしてください。
木村 東北の小さな町の自然を派手さのない、無駄のない言葉とメロディーで歌う上げている。詩のテーマ、曲想も新鮮なので、今後にも期待したい。
木下 曲はとても面白い。ピアノもうたも上手。すんなりとまとまっている。が、歌詞がかなり捕らえにくい。「命を繋いでくれる君と」「大好きな風景」はどんな関係なのか、語らない事が多すぎるのでは?もう少し歌詞を煮詰めてほしい。
鈴木さんの新作を楽しみにしていました。この願いこの思いは、私もそうだなあと思います。“ゆきどけの”からの広がりもいいですね。 ただ、音楽を彩る絵具の色が、もう少しあると、さらにいいのかなとも思います。たとえば譜例4のように。
山本 “ちっぽけな”の出だし(モチーフ)がずっと残ります。中間部の「雪どけ~金色」を頭にもって来て曲のイメージを明るくしたくなります。

(10)静香ちゃんと湊町PR隊の仲間達(福島)
ピアノ/横山智代 ギター/遠藤静香 コカリナ(笛)/小檜山ミネ子
「『Minato~私のふるさと~』」
(作詞・作曲/遠藤静香 編曲/小檜山ミネ子)
石黒 まず演奏に聞きほれました、衣装もよかった。さすがPR隊のユニフォームだと感心していました。歌詞ももちろん、素敵な歌詞でした。故郷の風景がシンプルな言葉で、この上ない愛情を込められて語られています。心に残った歌詞は「今日もそこに山はある 湧水をくみに行こう」です。この1行が故郷湊町をぐっと引き寄せます。歌い手の力と、説得力のある秀逸な作品でした。
木村 ふるさとの風景を折り込み、そこに生きる想いを若者らしいリズムに乗せて表現している。歌もギターも上手いので心に染み入ってくる。オカリナも効果的。
木下 面白い語り口、琉球旋法の発展形のような民謡風で音は少ないがリズムがどんどん進む独特の魅力、闊達さがいい。歌詞をもう少し整理すれば音楽ももっとすっきりするはず。そのほうが印象はもっとはっきり鮮明になるはず。
作者の思いが伝わる良い詩ですね。ことばが洗練されていて無駄がなく、始まり方終わり方も良くできています。少し山を隔てた同じ山間地で27年間も暮してきたものとして、こころから共感をします。音楽もコードに9やsus4を使った独特な世界を醸し出していて素敵ですね。創造性があふれる歌だと思います。 ただひとつ、コンサートなどで初めて聞く人には、ことばが伝わりにくい部分があり、そこだけがちょっと残念です。
山本 我が町Songとしておもしろいが、さてみんなでうたえるか?といえば、一寸むずかしい所ですね。コーダ部の“小さい頃は気づけなかった~”からうたいはじめると、曲のテーマがぐっと入ってくるかも知れませんね。

(11)榊原あきひろ(大阪)
ピアノ/加集希世子
「クワンジュよ、5月の風よ」
(作詞・作曲/榊原あきひろ)
石黒 光州は字のごとく光の町と言われています。しかし光州と言わずにクワンジュと呼びかけるのがまずいい。地名はその国の言葉で言うのが一番素敵でしっくりきますね、大邱はテグ、麗水はヨス…エベレストだってサガルマータとかチョモランマと言った方が絶対いい!
クワンジュでは36年前の市民弾圧事件(オー・イル・パル 5・18)を語り継ぐ記念集会が毎年開催され、多くの市民が参加し(若者も多い)新しい歌も生まれています。そんな5月の訪問の印象を作者は素直に書いています。36年前の流血など信じられない、爽やかなクワンジユの朝の光に包まれた作者の瑞々しい決意が伝わります。「きっとずっと」の呼びかけは文字で見ると奇妙でしたが演奏では効果的でした。次作はもう少し掘り下げて、リアルなクワンジュの声を伝えて下さい。
木村 作者の独唱による熱演に、この曲に込められた想いの強さ、深さを感じた。ただ、私のような者にはクワンジュと光州が結びつかず、理解するまで時間がかかってしまった。「光州(クワンジュ)よ、5月の風よ」ではダメなのか。
木下 曲も演奏も力はあり感心。ただ、歌詞はかつての思い出だけでいいのか、光州の闘いの記憶が大切なのは今の闘いに繋がっているからではないのか。「5月の風、平和よ」だけでいいのか?一工夫ほしいところ。
すばらしい作品ですね。榊原さんの思いが、そのまま音になって届いてきます。始まりの音のライン、2度目のクワンジュよの静寂、ことばと音の自然な流れ、2つの「なんて」からのコントラスト、和音の構成、音楽的には課題を見出すことができません。最後のハングルが胸に迫ります。ただ一つ、作品とは関係ないのですが、(申し訳ないですが)歌われる音程が若干心配で、そこをクリアーできると本当によかったのになあと思います。
山本 導入部(うたい出し)が良く生きている。詩と曲想が合っていて説得力のある曲に仕上がっています。演奏も熱演でした。

(12)コンブリオ(宮城)
ピアノ/石垣就子
「いのち いとおしいもの」
(作詞/石垣就子・山口直子・加納尚美・佐々木淑子 作曲/石垣就子)
石黒 子どもがいのちそのものに見えるとは、なんと重い言葉でしょう。いのちの重さ、ありがたさを体験した人にしか言えない表現だとおもいます。
「いのち」そのものを擬人化させる手法は新鮮です、日常生活を簡潔にうまくまとめていますね。詩だけで完結するのであればとても良いと思います。
しかし、メロディーのついた歌になると「いのち」という言葉に寄りかかりすぎ、いささか冗漫に感じました。
木村 震災を巡るエピソードを歌い上げている、現場で活動しているコンブリオならではの作品。毎年こうした作品を創って参加されている活動に敬意を表したい。教育に携わっている皆さんが、心に残った言葉をモチーフにされて展開していくが、私としては、「いのちが」が前半から多用されていて、皆さんと同じような感動に到達しないうちに終わってしまうところがある。
木下 良い着眼の歌詞と、曲も魅力的。とてもいいと思うが4小節目、8小節目に5度の音(F)になってしまうのが、流れをやや窮屈にしている。4小節目をGFとするだけでも堅さは柔らぐと言う気もするが…。
歌詞の着眼は賛成だが「いのち」にこだわりすぎる必要はないと思う。こだわりすぎては折角の発想が死んでしまいかねない。たとえば自然との関わりなどと、最後の部分はもう少し視野を拡げた方が「いのち」の新しい発想が生きてくるのでは?
これまでの石垣さんの作品の中で、一番よくできた素晴らしい作品だと思いました。特に最初の4小節がいいですね。転調もうまくできています。全体にいのちが多すぎるという指摘もありそうですが、私はそうは感じませんでした。広がってほしい歌です。
山本 3ばんの「あの日から~見える」までは、6/8拍子でなくゆっくりと語れる曲になった方がいいかも。詩が少し類型的になって同じことを繰り返している感じがする。“そのものがいのち”をもうひとひねりほしい感じがします。

(13)九条うたい隊(愛知)
ピアノ/柿本真彩子
「吟詠 “雨ニモマケズ”」
(作詞/宮沢賢治 作曲/佐久間義男)
石黒 何よりも美しい声に聞きほれていました。詩吟をこんな形で聴くことがなかったので新鮮でした。九条うたい隊のチャレンジ精神に拍手です!
宮沢賢治はたくさんの詩を残しています、その世界は多様、多面的で豊かな才気あふれるものです。難解な表現で書かれた詩も多いのですが、「雨ニモマケズ」は判りやすく、多くの人に愛されてきました。この詩は賢治が亡くなる2年前、35歳の時に手帳に書かれたものでした。これを人生の終焉を悟った賢治の辞世の句だと言う人もいます。私も法華経の世界にも通じる、欲も、恥も、体裁もすてたこの詩が好きです。(以上愛知の創作発表の講評から引用)
県の発表で聞いた時は詩吟ばかりに気をとられて、後ろに控える合唱隊、ピアノ伴奏まで気がまわりませんでしたが、吟詠に負けずにおもしろく、意欲的でした。
「雨ニモマケズ」は第二次大戦中には戦意高揚の為に取り上げられることがあったそうです、詩を取り上げる人の立ち位置でこんなに変わるのですね。表現に伴う危うさ、心して創作しなければ!
木村 詩吟とうたとピアノの合奏とは驚き。吟じる人とピアニストの力量があってこその演奏。詩吟の持つ言葉を伝える凄さを改めて実感。と同時に合唱の役割は何かも考えさせられる。例えば、「ヒデリノ トキハ ナミダヲ ナガシ」以降をすべて合唱にしてしまうと合唱の役割も見えてくるのではないか。
木下 斬新なステージに挑戦した意欲を買う。名吟朗誦のバックをささえたピアノもよく工夫され、群唱もかなり設計されていて好感。ステージを拝見しての勝手な思い付きだが、ここから発展させて、元詩に創作詩で絡んでゆく…今日的課題を対置してゆく等、…の発想もありかな?ユニークなステージをこれっきりにしない工夫も期待したい。
すばらしいピアノの演奏に乗って、詩吟の雨にも負けず、私は心に響きました。アイディアが秀逸です。オリコンならではの作品ではないでしょうか?
山本 吟詠そのものがアイデアですが、その結果新しい“賢治像”を感じさせていました。ピアノがなかなかの効果的な役割を果たしていました。

(14)統計オンチコーラス創作部(東京)
指揮/高橋一美 ピアノ/澤山早苗 ギター/大熊啓
「私は日本語学校の生徒です」
(作詞/統計オンチコーラス 作曲/大熊啓)
石黒 ずい分前、知り合いの若い子が居酒屋のバイトで面接に行ったらアジアからの外人ばかりだったので「日本人でもいいですか?」と聞いたとか。それ程外国人が多く暮らす町があるんだと驚きました。本作はそんな町で生きる若者たちを上手にとらえています。
演奏の演出も面白かったです。アジアからの留学生の姿をリアルにシンプルに書いて上手い。各国のあいさつの言葉を一つもってくるだけでぐっとその国が近くなるのですね。4番のオチもいいです、秀逸な作品です。
木村 詩のコンセプトが面白い。国際化の側面を日常の視点から描いている。挨拶の母国語を取り入れたことが交流の発展のきっかけを示唆している。
木下 なかなか良い着眼のユニークな歌詞。とてもおもしろい。ここから出発して,何処で歌うとこの歌は一番生きるのか、まで、つまりヘイトスピーチへの返答にもなり得る、1種の実用性まで視野に入れてつくってほしい。このままでも使えるのだろうが、「私たちは手を取り合う兄妹」など端的な覚え易いリフレイン…など。折角の街角での観察を生かしきる配慮が作曲の上でも、ほしい。
この曲も、前曲に引き続き、アイディアがなんと言っても素晴らしいと思いました。オリコンだからできる歌だと思います。大熊さんらしい音楽も印象的でいいですね。演奏側がその音楽を未消化だったのがただ一つ残念でしたが、今回のオリコンで印象的な5曲の一つでした。4番、5番も作ってください。
山本 友好の歌として楽しい。アイデアです。そこで、そのもう一工夫として、たとえば中国の、韓国の、ベトナムのメロディーがひと節入れば、もっと楽しくなると思いませんか?!楽しいノリがいいですが。

(15)うたごえサークル大文字(京都)
アコーディオン/木戸史
「平和信じる誓い」
(作詞・作曲/小林充 編曲/左近允葉子)
石黒 60周年への思いと決意に満ちた歌詞です。地域医療と介護を担ってきた方々の矜持、責務が貫かれています。最終連に地域の名前が出てきますが、イメージを重ねやすくなりますね、成功しています。
少しこなれていない歌詞がありゴツゴツ感が気になります。こなし方として例えば1番を以下のように添削してみました「格差と貧困が いのち蝕むと 気づいた人たちの固く結んだ手 今私たちは手を重ね いのち支えてる 道を開いた先輩の思いつないでる 働く人々と ともに歩むと決めた」。是非再考を。
木村 戦後の福祉事業の草分けとしての誇りが感じられる。「見た事もない先輩の思いつないでいる」という表現がその歴史の長さ、繋いできた人々の想いを示している。地域を照らした“ともしび”とは何なんだろう?
木下 詞曲とも、地域医療を支えてゆくひたむきな思いがギッチリつまっている。良く出来ているのだが、やや型にはっまっていて祝典歌にはいいが…、という感じもある。たとえば、その地域の自然を1行歌い込むだけでも雰囲気が変るかもしれない。メロディは良くまとまっているが出だしの8小節は、ほとんど同じ骨格をもつものが20年程前につくられ歌われていた。無意識だろうが、それに寄りかかってまとめたと推測できる。(思い出すのは松永勇次曲の「ピースウエーブ」) 経験がすくないと良くある事ではあるが、出だしの歌詞の手ざわりがもっと実感のもてる言葉だったら、こんなことにはなっていないはずで、つくりながら「自分の記憶の倉庫に材料があったか?」確かめる事も必要。
実際に自分で何度も歌ってみると、聞いた時よりもいい歌だなあと思いました。よくできています。しみじみとしたいいメロディですね。この調では低すぎるのではないでしょうか。F調くらいで歌うと、もう少し音楽に命があふれて、輝いてくるような気がします。 34小節、Bmのコードは不自然ですね。曲の最後ですから、例えば譜例5のように、変えてしまうのはいかがでしょうか?16小節は楽譜にあるように、Asus4がいいでしょう。この楽譜のアルトパートは修正が必要ですが。
山本 歌いやすいメロディーです。“病院の歴史を語る“からもうひと工夫して例えば、現在点を前にもってきて「見た事もない先輩の~」から始まると、また印象が代わるように思います。記念ソングですから、あまり自在にはならないのかも知れませんが。

(16)いずみの森合唱団(大阪)
指揮/安達裕子 ピアノ/松濱由香
「小さなこの町で」
(作詞/川野和子 作曲/前田光男 編曲/松濱由香)
石黒 日本一小さな町というキャッチいいですね、インパクト有です。その小さな町を愛し誇りに思う気持ちが伝わってくる活き活きとした歌詞です。1番の出だし「さつき通りを自転車で ~ 風の音」このフレーズが聞き手を一気に忠岡町に運んでくれます。2番の歌詞が秀逸、元気な女性たちの笑い声が路地の奥から聞こえて来るようです。 推敲を重ねた作品は魅力、厚みを増すものですね、何より演奏する人が楽しんで歌っているのがいいです。
木村 何気ない街の様子ですが、そこで暮らす人々の想いを良くまとめている。詩が練られていると曲にも無駄がない。
木下 良く観察した丁寧な歌詞、曲も楽しくさわやか、いいかんじ。(前田さん、がんばってるね!)でも、ちょっと単調な感も残っている。なんとかしたい。そんき流に考えると次のようになる。3段めの11、13、15小節の音がみな同じ、だから、気持ちがずっと押さえ込まれているようで、心が晴れない!音の高低は感情の抑揚だから、前の二段で音はほとんど順次進行、飛躍が少ない…だから、11種節目は思い切ってシHにゆきたくなる、13小節はミEだ。15小節もシH。2頁目のエンデイング8小節コレハはどこかの借り物。直前に素敵な山場を作っただけに、むつかしくなった。私だったらという案を以下に、参照あれ。これが最良かどうかは別にして、前田さんはもっと自由に音で羽ばたいてほしい。もう一息だ!(譜例6、オリコン曲集p32、p33より)

まとまったいい歌ですね。つい口ずさんでしまいます。2部へのアレンジも自然です。この感じで、次も次も作ってください。歌にしたいテーマは、私たちの身近なところにたくさんあると思います。
山本 小さな街の様子をていねいに見つめていて、やさしい視点が詞に宿っている。曲もまたシンプルだが愛唱歌になる親しみを感じます。後半の伸びやかさが好感。

(17)C57(宮城)
ピアノ/小林康浩
「花の咲かない季節に」
(作詞/山本芳恵 作曲/小林康浩)
石黒 綺麗な歌詞です。花のないシーズンへの着眼が新鮮です。「花は盛りをのみ 愛でるものかは」と兼好法師も言っていますね。花が無い方がイマジネーションを高められますね。 しかし言葉が冗漫、説明調になっています、もう少し剪定してください。言葉のキレがよくなり説得力を増しますよ。例えば「花は木々はその命は」というフレーズ「木々たちは」で十分伝わります。再考をお勧めします。
木村 美しい言葉とメロディーの中に、とても大切なことが歌われている。4人の実力もあっていい演奏になったが、合唱でも聴きたい曲。
木下 詞はそんなに新しい視点ではないが、いま改めて出てきた所に意味があるのかも。曲もモチーフの扱いも堂に入ってうまくまとめあげている。もうひと押しの魅力が欲しいきもするが、それはやや新鮮味の足りない歌詞ゆえであるか。
詩も内容深いもので、ことばが美しいので歌にしたくなります。もちろん小林さんの音楽も詩にピッタリで美しい。聞いてすぐに、とてもよくできている歌だなと思いました。出だしがまず印象深いですね。この感じ、この色、私も好きです。音楽の全体の構成として、男声に主役が移る部分や、もう少し対位法的に動くところもできたらさらにいいのかなとも思いました。6の次の小節が4分の2になるのは、何か理由がありますか?
山本 詞のテーマ“花を咲かせる夢を見る”がそこに至るまでの“花ことば”に埋もれてしまって、深くとどかないのが残念。歌としての特色が(個性が)美しい“ことば”と“メロディー”に隠されてしまったように感じます。

(18)名古屋青年合唱団(全国)
指揮/藤村記一郎 ピアノ/守光明子
「響かせよう海と空のうた」
(作詞/辺野古合宿の仲間たち 作曲/藤村記一郎 原詩/中谷令子)

石黒 愛媛祭典のイメージソングです。歌詞、メロディーともには大きな広がりをもった明るい祭典歌です。愛媛に集う歌の仲間を鼓舞する軽快な作品はさすがです。またテーマソングの持つ宿命も感じます。祭典が終わっても色々な場所で演奏して育てて欲しい作品です。
木村 拙詩をしっかりと歌いあげていただきありがとうございます。
木下 あらかじめ選ばれた詞と曲に何かを云う意味はあまりないが、歌詞は,この種のテーマソングとしては長過ぎる。悪い言葉ではないし、吟味されてはいるのだが、なくてもいい最後の2〜.3行でないかな?曲も(募集詞だとしたら、仕方がないが)それに付合ってやや締まりのないできあがりにみえる。でもサビからは魅力あり。公募曲でも「各番の最後の一〜二行はカット可」など、作曲者がもっと自由にあつかえるようにした方が良いのでは?
この歌はなんといっても、世界がぐっと広がっていくさびのメロディの伸びやかさでしょう。せっかくいい歌ができたのですから、もっと祭典で歌われても良かったのではないでしょうか?オリコンや交流の部の会場では全員でうたうとか、大音楽会で歌唱指導があるとか…。
山本 詩の持っているスケール感、広さ、深さが曲想に反映していない気がします。音楽の楽しさと詩の意味とが一致してない(音楽のひとり歩き)感があります。

「命の海 命の森 命の山々」
(作詞/きむらいずみ 作曲/藤村記一郎)

石黒 本作は際立った強靭さと緊迫感を持って迫ってくる歌詞です。シンプルな表現で辺野古の様子を伝え、キッパリと明日への展望を語る胸に迫る歌詞です。実際に辺野古に行き座り込みに参加した作者にしか表現できないリアリティーがあります。 闘う現場の中で創作に向き合うことは、今創作活動に求められていることの一つだと思います。(以上愛知の創作発表の講評から引用)
木村 現地に赴いた集団の力が結集された作品になっている。この曲だけでひとつのミュージカルのように現状描写、歴史的背景、音楽的文化の深さを感じさせる大曲だ。
木下 緊急に、辺野古へ集まった創作隊の仕事らしく、臨場感のある歌詞と曲、気力に満ちた演奏で今年の収穫のひとつ。私には前奏から一貫して「レミゼラブル・民衆の声がきこえるか」の下敷きが聞こえるが、それはそれで、いい影響だろう。タイトルの気持ちはわかるが、やはり長い気がする。
4行目の命の海からのメロディと、転調の巧みさは学ぶところが大きいです。 この曲の感想ではないですが、藤村さんの作品や小林さんの作品からは学ぶところが多いですから、ぜひ研究をしてみて下さい。 このような、同名調(ハ短調とハ長調のような関係)どうしの転調は、転調の一つ典型ですので、初学者の方は是非マスターをして下さい。どちらの調にとっても、ドミナント(主和音と最も重要な関係である和音)である「Gコード」を橋わたしに転調をします。(この歌なら16小節)
山本 「マーチ、堂々と」とうたうには曲づくりが少し細かい感じがします。太いラインもほしい所。

(19)北の国から合唱団と北海道の仲間たち(北海道)
指揮/高畠賢 ピアノ/山田しのぶ
「いのち育む大地 ―十勝野の明日へ―」
(作詞・作曲/合唱団エルデ・山本忠生 編曲/高畠賢・佐藤幸恵)

石黒 海道、十勝の自然が目に浮かぶリアルで秀逸な歌詞です。シンプルでよくまとまっています。じゃがいもの花に白と紫があるということを初めて知りました!北国の冬の厳しさをもう少しリアルに書いて欲しいです、厳しさの中でも育まれる自然の恵み、歌にも厚みが増しますよ。
木村 北の大地の自然と暮す人々の想いを歌い込んでいる。詩が良く練られていて、曲も、演奏もいいので感動。
木下 素朴で素直な歌詞、曲は一見まとまりが無さそうだが素朴ながらもなかなか力が有り、秀作。4段目をくりかえすことで安定する形で、三番まで、それを引き延ばしている。演奏もしっかりしていた。
いい歌ですね。5小節目への和音進行はちょっと不自然な流れなのですが、それがかえって新鮮さを生んでいるのかもしれません。最後の「十勝の宝」のメロディが、何ともいいですね。これでこの歌はぐっと引き締まっています。ピアノ伴奏も素晴らしい!
山本 集団創作ということで、後半の部分がはじめの30分くらいで生まれてきたのを思い出しました。みんなの意見や知恵を集めるのは内容を豊かにしますね。

「ブロックを積み上げろ」
(作詞/河地俊広 作曲/高畠賢 編曲/高畠賢・佐藤幸恵)

石黒 沖縄をテーマにした歌です。今回は沖縄をテーマにした作品が多く生まれましたが本作もその一つです。短いフレーズを繰り返す判りやすく力強い歌詞です、まさにブロックを積み重ねるような構成ですね。舞台は多分沖縄だと推測できますが、沖縄での闘いをイメージする歌詞をもう一工夫して欲しいです。
木村 沖縄の現地で創られた詩と曲は、短い言葉の中に闘いの現場を表現している。演奏もいい。創りっぱなしにせず、北海道で歌っていることを感じさせる。だが、創作の経緯をうたごえ新聞で知っている人たちばかりではない。「2016年○月高江にて」等のサブタイトルのようなものが欲しい。
木下 臨場感にあふれた迫力のある演奏できかせた。実際にどんなシーンで力を発揮できるか見当もつかないが、単純だが思いのこもった作品。
この歌も良くできています。ブロックを積み上げろのメロディが耳から離れなくなります。 ピアノを含めたアレンジも秀逸です。5行目の掛け合いもいいですね。
山本 どこかで沖縄を感じさせる音があれば、はじめからよくわかるのですが。元気だけでは保てない現場の空気を曲想に込める工夫も欲しいですね。

「記憶されるべきもの」
(意訳・作曲/高畠賢 編曲/佐藤幸恵)
石黒 オバマ大統領の広島でのメッセージを歌にするという着眼点に敬服します。タイトルはもっともっと意訳して「平和への記憶」というのはいかがでしょうか?
木村 意欲的な作品だが、当のオバマ氏のメッセージと現実の行動との隔たりの中で、どう整理するか難しかったと思う。その点、「記憶しようではありませんか」と静かに問いかけているのがいい。オバマ氏に聞かせたい。3曲とも合同演奏でしたが、作品も演奏も良く、北海道の創作活動の高まりが感じられました。
木下 良い着想、それにつきる。この訳でうたいつげるのか、とても疑問。けれど、この新しさ、センスは買いたい。
このスピーチを歌にしようとした発想に拍手です。16分音符が続いたあとの、ひろしまとながさきを、の部分がとても印象的です。このスピーチを歌にすることで、私たちの心に記憶されますね。
山本 オバマ大統領のスピーチを“とり上げる”意図をもう一回転させてオバマ大統領に“返すことば”として曲づけするとどうなるのでしょうか?後半からエンディングにかけてもっと強い決意になるかも知れませんね。


(20)山上茂典とその一座(広島)
ギター/山上茂典 フラットマンドリン/高橋仁 ブルースハープ/田中活
「ふるさと愛して 夢を運ぶ三江線」
(作詞・作曲/山上茂典 編曲/たかだりゅうじ)
石黒 三江線の風景が次々に浮かんでくる歌詞、余分な言葉はなく、シンプルできりりとまとまった作品です。作者の三江線によせる気持ちが伝わります。3番の宇都井『天空の駅』は偶然ですがTVで見る機会がありました。いかにも鉄道オタクが好みそうな風情の駅です、しかし随分高い所にあり、エレベーターもなく年寄には大変な駅です。もう少しこの駅の様子を描いて欲しい、ただ「116段」ではもったいないです。
木村 軽快な言葉とリズムで魅力的な演奏。三江線もこの歌のように安定して走り続けられるといいのだが。この歌が人々の願いとなって広まり、廃線阻止の力になって欲しい。
木下 三江線のあれこれを歌い込んで調子もよくたのしい山上ぶし。とても良いのだが、前半の偶数小節でF音に執着する点を改善したい。たとえば、6小節目を8分音符で1拍目にG音をはさむだけでも、やや自由になれると思うが…。(オリコン曲集、第1頁の出だし参照)
数年前に広島から三次にいくためにJRに乗りました。田舎のローカル線、いいですね。私も大好きです。採算は取れなくても、走り続けてほしいものです。歌いやすく、聞きやすく、懐かしさもあっていい歌ですが、もうひと工夫があってもよいでしょうか?ちょっと安易な感じがします。たとえば、4小節目から7小節目の2拍目まで、延々14拍もB♭が続くのは、いくらのんびりしたローカル線でも飽きてしまいます。
5小節目はGmでいくとか、6小節目にはDmを挟むとか、7小節め2拍めまではC9にするとか。 山と海をつないで、からの6小節はいいですね。すごく好きです。ただ、最後の2小節は、急に「岬めぐり」を思い出してしまうので、ちょっとほかに逃げてほしい気はします。
山本 サビ前のB♭→F7は、B♭→D7→Gmの方が自然ではないか。3ばんの詞“百十六段階段のぼる”は、意味が伝わらないです。サビがもうひと工夫、走ってみてほしかった。

(21)紫陽花を歌う合唱団(青年)
指揮/高畠賢 ピアノ/佐藤幸恵
「紫陽花」
(原詞/大野悦子 作詞/2016創作講習会集団創作・大野悦子・隅広智子・佐藤大介・高畠賢 伴奏編曲/佐藤幸恵)
石黒 きれいな、細部までこだわった歌詞です。紫陽花に心象風景を重ねて成功しています。カタツムリの足あとがほほに流れた涙のように感じる感性で書ききった作品ですね。私はカタツムリの足あとは、葉っぱに印した銀色のアンダーラインのように感じるのですが、感じ方はそれぞれですね。「ゆっくり進んで~」の歌詞がいいです、ほっと安心できるオチです。
木村 ステキな詞と曲。演奏もいいので気持ちよく聞くことができたからなのか、「ゆっくり進んでいいんだよ」と教えてくれたのはなぜなのか、美しい言葉の中に埋もれてしまったような気がする。
木下 やさしい語り口の詞によりそって無理に4小節に詰め込まないでメロディの流れを生かした自然な節作りが成功している。集団創作ではつい焦って纏めてしまいがちになるのに、何回も歌って確かめたにちがいない粘りがつたわってくる。後段のどこかでもう少しは気持ちの晴れるれる節が欲しいが、このままでも一つの達成には違いない。
タイトルも悪くはないが、花そのものが主題ではなにので、たとえば「…の花影で」等の方がふさわしいかも…。
しっとりした6月の雨の朝のような、紫陽花色のいい歌ができたなと思います。
私自身の評価は高いのですが、その上で、しいていくつか気になった点を言えば、
  1. ピアノ伴奏が全曲を通して、ほとんど終始八分音符で刻んでいますが、この歌の雰囲気を考えると、ゆったりと弾くとか、動かない部分もあっていいのでは?たとえば25小節や28小節の2拍めなど。
  2. カタツムリはスタッカートで歌うとかわいいですが、あのぬめりが無くなるような気がしませんか。
  3. 28小節目、メロディを生かしたいなら、上のラララソソのメロディはないほうがいいのでは?下のメロディがとても魅力的ですから余計に。
  4. 最後のドミソシ(メジャー7コード)は、しゃれていますが、ここで必要でしょうか?素朴なとってもいい風が吹いていたのに、、ここで急に別の世界が登場するような気もします。たとえばGの音で、全員ユニゾンとか、CとGの5度の乾いた響きにするとか。
(私の個人的な感覚なので、あまり深くとらえないでください)
山本 詞のやさしさにふさわしいやさしいメロディーがいいですね。メロディーが低音部にあるのが特徴ですけど、何か工夫があってもいいかな…と.

(22)風(愛知)
ピアノ/夏目順子
「かぜのでんわ」
(作詞/清水則雄 作曲/藤村記一郎)
石黒 とても有名な話です。マスコミに何度も取り上げられ、テレビドラマにもなり、もちろん絵本にもなり。それだけ「風の電話」の存在は大きいのでしょう。その有名な「風の電話」のイメージを膨らませた、切なさのあるシンプルで美しい歌詞に仕上がっています。言葉に押し付けがましさがないのは、無理のない言葉運びをしているからでしょう。
そして雰囲気にあったすてきな演奏でした。「りんりんりんと すずのねが」えっ、鈴じゃないよベルだろうとふと思いましたが、彼岸と比岸をつなぐ電話だから鈴の音に聞こえるのですね。(以上愛知の創作発表の講評から引用)
木村 胸に迫る詩、曲、そしてソロシンガーの歌。すべてが素晴らしい。心が動かされるというのはこういうことかと実感。
木下 つぼを心得たやさしい詞、情感のあるいい感じでまとまっているが、歌い出しに少し忙しい感じもあるのは、「伝えられない」「誰にも云えない」というその言葉に、私にはもっと戸惑いや逡巡の思いを感じるからで、詞の語り口とは関係なく、曲がサラサラと畳み込んでほしくない、のおもいも残るからだ。このようなメルヘンの詞では、作詞の挑戦を曲もステキに受け止めてほしいのだ。
絵本にしたり、歌にするのにふさわしいテーマですね。そのひらめきがまず素晴らしい。心に響くいい歌ができました。女声コーラスなどにアレンジすると、あちこちで歌われるのではないかなと思います。ぜひお願いします。
山本 すばらしい歌唱でした。曲がよろこんでいるでしょう。

(23)ちいこまコーラス(青年)
ギター/大熊啓
「小さな声を」
(作詞・作曲/大熊啓)
石黒 狛江が元気になる応援歌ですね、軽やかなノリで、すぐに覚えられそうな歌です。このような性格の歌にはシンプルさが一番。狛江という部分を他の場所にしても十分いけそうな歌です。演奏も心が温まるものでした。ところで、歌詞の中に「明日のあした」とありますが、どういう意味なんでしょうか?
木村 解り易さ、歌い易さ、楽しさ、共感を呼ぶ3要素を備えた作品。言葉が詰まっているところとゆったりしているところの使い分けもいい。
木下 地域でうたい役立てているらしい活気やノリの良さが身上の大熊ブシ。ギターのリズムにのっける魅力にも、琴線にふれる一節をうたいこんでほしい。今更の古い話しながらビートルズなどももっと盗んでほしいものだ。大熊さんそろそろ、作品を大切に!
現実的な意味のある、そして親しみやすい良い歌だと思います。テーマがはっきりしていて、歌う方向(誰に向かって歌うか)が明確なのもいいですね。 一つだけちょっと気になるのが、音域が6度の中に納まっていること。(2番で一回だけDが出てきますが、これは「い」というそれほど重要な部分ではないですね。)
使用の音域が狭いのは歌いやすいですが、表現の幅を阻害していないでしょうか? 良い歌なのに、音楽の印象がどことなく薄い気がするのも、そこに起因するのかもしれません。どこか突き抜けるところ、具体的には、どこに最高音を置くか、という視点も必要かもしれません。良いかどうかは別として、譜例7をご覧ください。「ひとりじゃないよ!」で、それまでの世界を突き抜けたい気がします。

山本 このようなコマーシャルソングはどこにもほしいですね。宣伝効果としては、後半は、もっと短くしてもいいかもしれませんね。

(24)合唱団北星(東京)
ピアノ/宮津日留人
「森の四季唄」
(作詞/十三与太郎 作曲/山田千賀子 ピアノ編曲/宮津日留人)
石黒 森の四季の移り変わりを手際よく、上手くまとめています。とりわけ1番の歌詞は秀逸です、一気に早春のブナの森に誘ってくれます。それ故に2、3番はいささかたよりない、類型的な表現が気になります、針葉樹・広葉樹といわずに具体的に樹木を書いた方が森の表情が豊かになります。4番の「真っ赤に染める見事さは」というフレーズは少し説明的ですね「色とりどりの あや錦」みたいな方がいいのでは?
木村 たっぷり、ゆったりの森のうたは東北の田舎の特技と思ってたが、都会の合唱団の創作と知って嬉しくなった。ただ、ラストを「森讃歌」としてまとめてしまうのは詩としても、曲としても、無条件で賛美しているようで引っ掛かる。
木下 どこかにのびのびとしたものが感じられていい感じ。ただ中盤以降の2声の運びはとても気になる。譜面で見る限り、下段は男声パートとおもうが、もっと歌い試してほしい。タイトルからするとソングをめざしていると思えるが、作詞の行数は揃っていても「各行のつながりや自然な発展が仕掛けられているのか」これも大切。森への讃歌なら、唄の二段目の旋律線はツライ!ここが粘りどころなのだ。どこかに苔の湿度も感じられる新鮮な世界をめざしてほしい。創るということは自分のなかに新しいものを発見する事、逃げないで!
歌に大切な願いが込められていて、その願いを叶えるような、素敵な歌に仕上がっていると思います。ピアノパートも良く考えられていて美しいですね。
細かい点ですが、歌の始まりである5小節に主和音Fが出て以来、いわゆる音楽的終止(文章で言う句点や読点の区切り)の部分にFがずっとなくて、曲の最後21小節でようやく出てくるのは、さすがにちょっと長すぎるかなと思います。文章で言えば、「、」が延々続いているわけで、「。」がもう一度くらいはあったほうがいいような気がします。
さらに細かい点ですが、(音楽として世に出す以上必要だと思いますが)10小節目の4拍目、メロディのソ♭はファの#が良いでしょう。(ミ♭のほうはそのままでいいのですから音楽理論はややこしいですね。)音楽としてはこの部分いいですね。好きです。
さらに作品のことではないですが、この歌を輝かせるために、歌の練習もさらにお願いします。
山本 ゆったりとした自然感にふさわしいメロディーに仕上がっています。記譜F→G♭→G♮よりもF→F♯→Gの方が自然に感じます。

(25)名古屋青年合唱団うたの学校 アガトス&100期(愛知)
指揮/武藤佳子・脇谷直樹 ピアノ/入江文子
「ふるさと」
石黒 ふるさとは創作一般でよく取り上げられるテーマですが、抽象的な“ふるさと一般”のような歌詞を時々見かけます。しかし本作はリァリティーある表現でご自分の故郷の様子をしっかり描いています。「馬にゆられた雪どけみち」作者の叙情あふれた語り口に引きこまれていきます。ふるさとの情景は父母の姿と重なりいつまでも色あせずそこにある。秀作です。(以上愛知の創作発表の講評から引用)
木村 日本の原風景とも言える“ふるさと”を歌っているが、「馬にゆられた雪解け道」が出てくるのでビックリ。それだけ幅広い人達が参加しているうたの学校ということか。東北の片田舎山形市でも、小学校低学年までは馬車で木材を運んでいる人がいた。満天の星も今は見えない。でも心の中にはずっと変わらない風景があるのですね。
木下 詞はみんなのおもいが良く生かされて多彩、いいね!曲もわるくはない。統一感がやや弱いが、4段目の旋律がとても良い。ここを二回くりかえして、コーダはこのメロディを拡大してもっと歌いきれるものにしたい。そんきの案をだしてみる。参考まで。(譜例8、オリコン曲集p50より)
しみじみとしたいい歌ですね。特に私が好きなのは、7小節8小節と11小節12小節です。歌詞とメロディが自然でぴったりです。これでこの作品は成功しています。 ご参考までに、さらに次の作品をつくるためへの感想ですが、まずコードとメロディの関係について、私たちが普通歌うメロディは、コード(和音)を必ず内包しているといって良いでしょう。ですが、2小節目から3小節目にかけての和音とメロディの関係がややあいまいな気がします。(譜例9参照) 12小節の和音がDのままですが、ここは別の色で染めたいところです。曲の山場ですし、歌詞もいいところですから余計に。(譜例10参照)

曲を一応完成した後、「校正」「推敲」「再吟味」されることをお勧めします。「もっといい音はないか、もっといいコードはないか」と。
山本 モチーフの中に林学さんの空気を感じます。おしまいのCodaが、女声だけにしたのは何か意味があるのかな?
(作詞・作曲/井上友子、臼井文子、長田尚彦、佐々木美砂、竹内八重子、田中直子、渡辺育代、脇谷直樹 原詩/井上友子)
「わたしの声」
(作詞・作曲/野呂とも子、古澤尚江、勝初美、滝田杏、渡辺千紘、安藤教子、穂積邦子、水谷英三、和田一成、吉川玲子、入江文子 原詩/吉川玲子)
石黒 合唱団の練習風景を彷彿とさせる歌詞、超リアルな歌詞です、おもわずクスッとしてしまいます。自分の声がイヤという人程意欲のある人です、無い人はこんなことを考えないです、オチもしっかりあっていい。何よりも会場の聞き手の心をしっかりつかんでいましたよ。(以上愛知の創作発表の講評から引用) 今回会場の反応を見ても面白い歌だと感じました。最後のオチ「私は私の声が 好き!」講評委員の中でも意見が分かれました「このままがいい」「いや、安易に好き、とまとめてはイカン」等々、話が盛り上がるのは作品の力でもあります。私は「…好きになれるかな?」くらいがいいと思います。
木村 面白い、楽しい、思わず大声で笑ってしまった。当然、“オチ”への期待が高まるが、あっさり「好き」で終わってちょっとがっかり。難しいとは思うがもうひとヒネリを。
木下 おもしろい!着眼の勝利。結構リアルで、ネタワレもなく、聞かせるところが抜群。ただ、ラストの「好き!」がいけない。これはこの作品の一切の努力を台無しにしてしまう。このうたのほんとの狙いは何なのか?単なるダジャレ、一時の座興でいいのか? もちろん卑下しておわることはない。「みんな違ってみんないいって言うじゃない」とか「この声でしか歌えない曲をください!」とか…工夫を望む。「たとえば」と案も書いて、後は歌い手たちの創意にまかせる手もあるかも?
面白い歌ですね。背筋を伸ばして、こんなに高い音なのがいい着想でした。こういった思い切った着想は、アマチュアの特権ですね。今回のオリコンのアイディア賞でしょう。さらに推敲をするとすれば、頭の数小節が、ちょっと低すぎることでしょうか。 あきらめないで勉強・練習すれば、作曲もさらにいい歌ができるようになると思います。
山本 出だしのワンフレーズで聴き手をつかんでしまう、詩とメロディーです。楽しくて面白い。後半の掛け合いが、とても楽しくて、どこにもないこのチームの歌の誕生です。おしまいのオチも決まっています。でも別の驚くようなオチがあるかも…ですね。

(26)フリーダム(岡山)
ギター/原田義雄
「シュプレヒコール(沖縄レクイエム)」
(作詞/原田義雄・井上葉子 作曲/原田義雄)
石黒 「宝」をこれほど重ねてもくどさが無く、シンプルな歌詞がひたひた押し寄せる波のように伝わります。それは沖縄から世界に押し寄せる波、効果的です。最後の連で様々な国の名前を呼びかけるフレーズ、今後も色々な国が加わるかもしれませんね。サブタイトルに「レクイエム」とありますが、讃歌のように感じました。
木村 宝に凝縮された言葉の展開はサスガ。沖縄から世界を見る視点もいい。だが、歌唱力があるのでここまで惹きつけられるが、誰もがそうはできない。後半は大勢のシュプレヒコールというイメージか。
木下 単純だが力ある旋律で、押し切っているのがいい。モチーフとしても可能性を秘めた出だしのメロディだから、この音形そのものを発展させてゆく冒険も試みてほしい。歌の中でもっと高揚したい!のだ。
音をあまり動かさず、シンプルにあえて抑えることで、原田さんの狙いが成功しています。あまり動かないことで、伝えたい思い(シュプレヒコール)がより強く伝わる気がします。 最後、アジアから始まる連呼の糸が辺野古を経てアメリカにつながっているところに、この歌の深さを感じます。何度も聴きたい名曲です。
山本 大切なものを伝えることで、辺野古を考える、深さを感じます。さすがです。

(27)白鷹うたう会(山形)
「あなたのやさしさに」
(作詞/工藤浩子 作曲/谷口仁志 編曲/小林康浩)
石黒 多くの言葉を費やしてかけがえのない友によせる思いを書きあげています。タイトルには「あなたのやさしさに」とありますが、やさしいのは友に心を寄せる作者ですね。しかし、どんなシチュエーションなのか今一つわかりにくいです。「お帰りなさい コンサートに」これがキーワードですね。このキーワードを柱に、言葉を整理していけば、埋もれているテーマがはっきり見えてくるはずです。
木村 郷愁を誘う詩と曲。少人数ながらしっかりと歌ってくれました。カラオケCDだったのが残念。来年は石川に生ギター演奏で行きましょう。
木下 世の中に 愛の歌というのがある。さりげない言葉に思いをこめた愛の歌もあるが、アケスケな言葉でうたう愛のうたもあり、それは歌だから言えるので、普通の会話にはそぐわない、ある種の濃い人間関係の中でしかでてこない言葉たちだ。
この詞はどんな愛なのか?「あなたのやさしさに おかえりなさい」が何故なのか、この言葉で出てくる情況が、きいていてむねに落ちない。わざと説明しないのも手だが、詞はこころのこもった想いがあるのに、メロディの始まり方は、すでにある種の世の中の『愛の歌』のシーンではじまっている ように思える。もとより、それが悪いわけではないが、この詞の情景をそのように受け取って良いのか?と私は疑問におもう。だから、この詞の切実さにくらべて音楽は安易でないか、と気になる。歌ってみて、人間達が見えて来ない、とおもう、どうだろう?
歌をつくりなれている感じで、よくまとまったいい歌だと思います。最初の部分は特にメロディと言葉がぴったりで、自然で、印象的です。私も最近まで近くの西置賜に(27年)住んでいましたから、白鷹の街並み、葉山、白鷹山、最上川、フラワー長井線、、情景が浮かびます。 細かい点ですが、中盤の16分音符がやや無理があるかなと言う点と、11小節「かけがえのない」の部分のコードがやや不鮮明ですね。ここはたとえば譜例11ではいかがでしょうか?2番以下も同様に。
山本 前半の詞の変化を々メロディーで表すと、歌いわける力が求められますね。“お帰り”と“コンサート”の関係が良くわからないのですが。おしまいの“あなたのやさしさにもういちどかえりたい”を、もうひと工夫ほしい表現です。

(28)小春日和(石川)
エレクトリック アコースティック ギター/北野俊裕、北野早苗
「心のマフラー」
(作詞・作曲/小春日和)
石黒 素敵なタイトルですね、インパクトがあります。自分の来し方をふりかえりながら、明日への希望を確かめる静かな語り口調のモノローグ、サビの歌詞がいいですね、ほっこりします。「またがんばれる」と言っても決して片意地をはっていない。自然体です。 何よりも、二人で演奏できるということ、いいですね。
木村 ご夫婦で歌えるっていいですね。出会った人々に感謝する気持ちが軽快なメロディーと共に伝わる。でも題名になっている「心のマフラー」との関係がよく分らない。
木下 二ヶ所にある4分の2の小節が、メロディを引き締めて、たんたんとした語り歌をまとめている。詞も曲も悪くはないのだが、どこかで想いを出し切りたい、のではないか。私だったら、このあとスキャットでたっぷりとしたメロディで4小節程つづけたい、そして最後のフレーズに戻って来る…そんな手もあるよ。
さわやかで美しいメロディとハーモニー、いいですね!一度聞くと、もう一度聞いてみたくなります。メロディとことばがぴったりですね。何気ないようですが「うまいなあ」と思います。実に自然に流れていますね。 一つだけ、23の曲に書いたことと共通な問題提起を一つ。音域がほぼ1オクターブですが、一か所でも、もう少し突き抜けるところがあると印象深くなるのかとも思います。42小節43小節で、ことばとメロディが若干不自然なのと、曲の最高音を意識して、譜例12のような考えもないでしょうか? 次の曲もぜひ来年金沢で聞かせてください。楽しみにしています。
山本 二人の歌の世界を創り出す、しゃれた小品です。演奏も個性的で好感します。

(29)我ら黒ラブ合唱団(教育)
指揮/藤村記一郎 ピアノ/夏目順子
「私は黒ラブ盲導犬」
(原詩/寺西美予 詩曲/寺西美予・松本允韶・脇谷直樹・藤村記一郎 編曲/藤村記一郎)
石黒 実際に盲導犬を間近で見ている人にしか書けない視点の歌詞です。仕事はじめて早7年とはベテランですね、人間でいえば働き盛りとでもいうのでしょうか。夏の暑い日は地面に近い分辛い、盲導犬だって道にまようことはあります、どれもリアルなエピソードです。深刻に考えてしまいそうな現実を、時とすると啓発キャンペーンになるような事実を、さらりと書いているのがいいです。全て盲導犬の日常なのです。日常と言えば黒ラブが仕事から解放されたOFFの時はどうしているんでしょうか?興味がわきます、次にはそれも書いて下さい。
しかしこの歌詞で一番印象に残った言葉は“てちてちあるく”です。面白い、不思議な響きがあります。舗装された道、建物の屋内の床などでは爪音が響いて、確かにてちてちと聞こえます。てちてち最高!この歌を通じて盲導犬を見る目がもっと暖かくなりますように。(以上愛知の創作発表の講評から引用)
合唱団の名前新しくしたのですか?愛媛の舞台にたった黒ラブ君、みんなの注目を浴びていましたよ。
木村 盲導犬の視点で描いたのが画期的。「てちてち歩く」という表現も一緒に歩いている作者ならではの表現でいい。
木下 創作運動のメッカ愛知の曲ならではの、視野の広がりにまず、感心。うたいあげる視点もいい。音楽も軽妙でたのしい。
てちてち歩く、これが心に残ります。いい表現ですね。私も将来の盲導犬(の子犬)を身近で飼って(育てて)いたので、盲導犬にはいつも特別な関心があります。この黒ラブちゃんは、いい歌ができて幸せですね。
ただ、まだまだ社会には受け入れてもらえない部分もあるので、「私は静かに」からの部分をもう少し強く訴えても良かったのでは?とも思いました。
山本 “てちてち歩く”の日常性がよく出ていていい表現だと思います。じっとしている盲導犬が何か考えているようで楽しかったです。

(30)洛北青年合唱団(京都)
指揮/富森琢也 アコーディオン/木戸史
「笑顔につつまれて」
(作詞・作曲/小林央絵、富森琢也、村川恵理、山本忠生 2016.2.13-14洛北青年合唱団第32期研究生創作合宿 編曲/富森琢也 原詩/小林央絵)
石黒 「笑顔につつまれ ~ 穏やかに旅立つ」のサビの歌詞がいいです。実際にお仕事で高齢者と関わっているケアマネさんならではの歌詞です。あれこれ言葉を費やすのでなく、シンプルなフレーズでまとめています、よく伝わります。人生の締めくくりは自分もかくありたいと思える作品でした。
木村 こんな風に「穏やかに旅立つ」と、ゆったりとしかししっかりと歌えたら幸せ。高齢化社会の中でこういう歌がもっとあっても良い。
木下 ねらいはとてもいいのだが、いろいろ材料が多過ぎて今のままでは覚えにくいと思われる。この詞をまず職場で意見を聞いてみる、ぜひ試してみてほしい、どこが問題かすぐにわかるはず。一番大事なところを大切に再度構成してみてほしい。そして、ゆったりとしたあたたかいメロディをぜひ!
さりげない歌詞や音(メロディ)の中に、人生の深さがにじんで聞こえてくる気がします。
アコの入れ方も上手いですね。いい役割を果たしています。また、一度だけ出てくるA7が実に効果的です。音域がほぼ1オクターブですが、23や28にも書いたことと重なりますが、もう少し広がっても良いのではないかと思います。実際の演奏でも、上のCより上には出ていませんが、1カ所か2ヶ所、突き抜ける部分があると、曲全体がもっと引き締まり、表現の幅が出て、印象深くなる気がします。譜例はここで入れませんが、推敲をしてみてください。
山本 シンプルな詞の中に、しあわせ感があっていいですネ。さて、おだやかに旅立てるかなァー、と考えました。

(31)ミュージカル「青い目の人形」合唱団(愛知)
ピアノ/夏目順子
「青い目の人形」
(作詞/川村ミチル 作曲/藤村記一郎)
石黒 ミュージカルのテーマソングとして普遍性のある歌詞です。従来からよく知られている野口雨情の「青い目の人形」はシンプルで好きですが、その歌につながり、更に発展させた歌詞です。人形が世界中の平和につながって行くという歌詞の展開は、国際紛争・テロ・難民、おびただしい課題をかかえた21Cの現代に涼やかな風を送るものです。 あえて指摘すれば、歌詞の各所に挿入される英語のフレーズ、何を言っているか判らない。発音、イントネーション等外国語は難しいですね。(以上愛知の創作発表の講評から引用)
木村 愛知、中でも藤村氏の幅広い創作活動に驚き。瞳や髪の色が違ってもわかりあえる、というところが英語の言葉と重なっているところがとても面白い。
木下 自分のことしかない、変な世の中に、今とても大事なものを提起する良いテーマ。ぜひ成功させてほしい。歌詞に工夫があって曲も一応、それに応えている。良い曲とおもえるが、このお話には『青い目をしたお人形…』という、よく知られた歌が有る。それに気づかないフリをするのも、とても気になる。ミユージカル全体ではそのことも語られるだろうが、テーマ曲ななのだから、前奏にでも香りがする等、気は使ってほしい。
ミュージカルのテーマ曲にふさわしい、明るくて希望があふれる歌ですね。途中に、童謡の青い目の人形をちらっとはさむアイディアもありそうです。 私たちがこの曲から学ぶ点(音楽理論)は2種類の転調です。一つ目は♭5の調(A♭のコード)から#4つの調への転調です。ガラッと音楽の雰囲気(色)を変えたい時などに有効です。私も時々使います。この場合はA♭の音をG#と読み替えて転調しています。(異名同音の転調) 2つ目はその直後の#4つからF調への転調。これはAのコードを「同名調」のAmにつなぎ、それをつなぎ(橋渡し)にF調へ行くものです。これの仲間も転調の「定番」です。 中級者向けですが、どちらも是非チャレンジしてみてください。(私もですが)
山本 ミュージカルの一場面なので、歌としての成り立ちを感じにくいですが、♩=150のTempoは、早すぎませんか?

(32)佐々木伸介(国鉄)
ピアノ/小林康浩
「大臣様の流行語2016」
(作詞・作曲/佐々木伸介)
石黒 楽しく、魅力的な演奏でした。「甘利」という名前は、言葉遊び、掛詞にぴったりの名前ですね。いじりやすい。しかし昨今の政治の動きはとても早く「甘利」さんの話は随分昔のように感じてしまいます、このタイプの歌はネタの新鮮さが勝負とみました。
木村 昨年に続く風刺の利いた流行語で爆笑。世相をうたう姿は唖蝉坊、生真面目なおかしさは植木等、うたの上手さを加えたら、二人を超えるエンターティナーになれそう。
木下 これだけの歌詞にしてまとめあげる、そのエネルギーに脱帽。それに張りのある良い声だ。当方の勝手な思い付きだが、「そーだ、そーだ、まったくだ」などと、聴き手の声援部分も創作して巻き込んでゆく…。そんな発展形もあってもいいかも?ご健闘を祈る。
このシリーズ昨年に引き続きですが、昨年以上によくできていて、今回のオリコンの優秀賞とも言えそうです。一つだけ、時事ニュースを扱う流行語の宿命で、甘利があまり新しくなくなってしまったことがちょっと残念でした。 メロディのつくりで云えば、ぐっと上に上がる21小節のFの音がうまいです。(23、28、30に書いたことです)次作を期待するのは、高畠さんや私だけではないでしょう。
山本 エンターテイナーとしての佐々木さんでないと表現できない歌ですね。まいった、まいった。

(33)宇宙人(教育)
ピアノ/堀井泉
「世界遺産の歌」
(作詞/箱崎作次 作曲/佐藤香)
石黒 世界遺産の理念をテーマに取り上げるという着眼点が新鮮でおもしろいです。簡単に世界遺産と言ってもこんなにしっかりした理念があるのですね。しかし全体が解説風でなじみにくさは否めません。歌は聞いて理解できるということが大前提ですが、本作は理解しにくいのが残念です。次作は“小学生でもわかる世界遺産”にもチャレンジしてください。
木村 二人の教育者の熱意が見事に結集した作品。どんなものでも教材にし、平和の意味を見出して伝える、この尊い作業に邁進する二人には、”歌唱百科事典”すら視野にありそうだ。だが、”百科事典”で意味を知るだけではなく、繰り返し繰り返し歌いたくなる作品も期待したい。
木下 扱いにくい歌詞を一つの緊張感を持ってまとめあげるちからはすごい。できれば、くりかえしもできる1行の詞、…たとえば「こころに灯をともす人類の宝、孫や曾孫のその先までも、平和な世界につないでゆこう」などの歌いやすいリフレインを仕込でほしい。そこだけはみんなが歌えるように…。
この歌を聴くことで、また歌うことで、いままで知らなかった新しい、そして大切な世界を知ることができました。これはオリコンならではのことだと思いました。着想がいいですね。貴重な歌です。音楽もしっかりと完成されていると思います。
山本 語り歌としての中に、うたえる部分がもう少しほしい気がします。

(34)熊本のうたごえ(九州)
指揮/内山幸夫 ピアノ/田島えり子 ギター/重本弘二
「あきらめないで」
(作詞・作曲/内山幸夫)
石黒 説得力のある、共感を感じる演奏でした。心にしみる歌詞ですが、とりわけ2番の「泣きたいときは ~ 空を見上げよう」は心に残るフレーズです。ストレートな言葉が決め所に、ストンと落ちています。「あきらめないで」は熊本から全国、世界へと発信したい言葉です。
木村 「希望 それはあなた」以下、命、愛、今日ときっぱりと言い切って並べている所に決意の強さを感じる。「あわてずゆっくり」と歌える逞しさが素晴らしい。
木下 ともに励ます応援歌。いいね!これで充分、いい!とも思うが、歌っているうちにもう一息もりあげたくなるのでは?と言う気がする。そこで、最後の二段だけ、かえてみた。ご参考まで。(譜例13、オリコン歌集p70)

今年のオリコンのもっとも象徴的な歌の一つでした。あきらめないで、で始まる最初の8小節も悪くはないですが、なんといっても長い休符を挟んでの9小節目からの音楽の形がいいですね。新鮮で、よくできていて、耳から離れないメロディです。一つ課題があるとすれば、それに続く「今は」からの数小節で、まだまだ推敲の余地があるような気がします。もっと良いものがきっとあるはずです。「あきらめないで」より良いものを発見してください。長く残っていく歌になる可能性を持っている歌だと思います。
山本 切実な思いの詞ですが、曲づけは簡単に感じてしまいます。現実を支える力を表現する重さがあってもいいのでは。1ばん“あのよるがー”のFコード、A7にすれば少しイメージが変わるのでは。

(35)合唱団この灯(東京)
指揮/長久真実子 ピアノ/岩崎結 ギター/吉田勝彦
「空」
(作詞/山下実季奈 作曲/慶野未来 編曲/長久真実子)
石黒 とてもセンスのいい歌詞です。しかし歌詞というより散文と言ったほうがいいかもしれませんね。言葉が冗漫だと、聞き手に届きにくいです。整理すると「空」というタイトルの意味がはっきりしますよ。短縮例「武器なんてものに愛情はない」→「武器に愛情はない」。言葉の力はシンプルな形にこそある、私が最近たどりついた答えです。
木村 大学生の詩と聞いたが大変素晴らしい。特に出だしの2行の問いかけがいい。暴力の連鎖では何も変わらないということを、身の回りの状況を織り交ぜてよく伝えている。
木下 この詩はとてもわかる。こう叫びたい気持ちもわかる。だから、読む詩として書く意味はあるかも…。けれど、歌にして伝える世界ではない、と私にはおもえる。歌にするのだったら、もっと端的な詞、心が動くことばに煮詰めて、「理屈でなく、心で感じてもらう」ように努力したいと思う。別の言葉で言えば「音楽で論理は運べない」とおもう。この歌に費やしたエネルギー、作曲や演奏の…その総量をわたしは推測する事ができるつもりだ。それは貴重だし讃えたいと思う。 曲としては、ことばの一つ一つに丁寧にむきあっている。時としてとても魅力的な一節に出会う事もある。けれど全体に音楽として燃焼して火がつくというのとはやや違う次元の事だ。 端的に言うとしたら、詞はどうしても必要な言葉まで煮詰めること。音楽でつたえることの経験を深めて欲しい。「たとえば…」で始まる詩、これは、そのあとのどの言葉と響き合っているのか?カッコウのいい出だしだが、ほとんど意味をもっていない、と思える…など、など。 「どうしても、原詩どうりでないと…」に作曲するときもあるが、それほどに、詩の力が充実しているときだろう。(未来さんはその才能にきたいしている一人、この詞のどこに惹かれたのか、曲の分析もしてはみたいが…)以上は、もちろん私の歌への向き合い方に過ぎない。
細かいところにも配慮がされていて、魅力的なメロディが随所にあり、よくできている名曲だと思います。私が一番好きところは、まず、桜の木からの数小節と、人は言葉を持っている、というところのメロディと伴奏の形です。とてもいいですね。参考にもなります。 ただ一つ、若干気になることは、作曲者も伴奏者も、相当な力のある方のようですので、私などが言うべきことではないですが、少し全体に盛り込みすぎかな、と。もうすこし「普通」のところもあってもいいのかなと。抽象的な感想で申しわけないですが。
山本 詩も曲も観念的に感じたのですが、具体的に表現したいテーマに到達してないように感じます。
「地球はもっと素敵になれる」
(作詞/高校生平和ゼミナール参加者・吉田勝彦 作曲/吉田勝彦)
石黒 タイトルがすごくいいです。さすが平和ゼミナールの高校生の視点です!しかし欲張って書きこんでいるので説明的になっています、言葉の整理をしてください。例えば「だから」「けれど」等の接続詞は不要、詩に接続詞を持ち込む場合、余程考慮して用いないとキレが悪くなります。何より言葉で100%書ききる必要はありません、メロディーをつける必要が無くなります、イマジネーションが羽ばたける余地を残してください。再考をお勧めします。そうすればもっと素敵になります。
木村 高校生らしいメッセージが胸に迫る。多くの高校生の話し合いでまとめられたことが率直に表現されている。思考の過程を大切にすれば、どれも大事な言葉ばかりで省略できなくなってしまう。だが「地球はもっと素敵になれる」というステキな題名に繋がるようにシンプルに迫ることも考えてみたい。
木下 6小節目、歌集の二段目、「世界は」の「は」の音は?D?E? 歌詞は高校生らしいすてきな着眼、ほほえましい。曲もそれなりに工夫もあって伝わってくるものがある。けれど、きっと長過ぎるはずだ。これだけの量を歌いきるのは覚悟がいる。そうしたら、詞をもっと検討する、いろんなことを詰め込みすぎていないか?。詩が纏まっている、と言ってもそれは「目で読む」世界の事で、音楽の世界に移した時には作曲者が責任を持たねばならない。(作詞者にはなすこともふくめて)「誰にうたってもらうのか」「だれに聞いてもらうのか」のねらいがあって創作活動があるので、なんとなく出来てもコマルのだ。けれど貴重な経験のはずだ。次作を期待。
高校生たちが、自分たちでこのとても大切なメッセージを歌に乗せたことに、何より大きな拍手を贈りたいと思います。音楽もきちんとした形になっています。今武器を捨てて、からのメロディは特にいいですね。 そのうえでの感想ですが、詞が少し直接過ぎて、またやや盛りだくさん過ぎて、印象が薄くなっている気がしました。また、直接作品の評価ではないのですが、伴奏のギターとピアノが重複しているのが気にかかりました。そのリズムが微妙に合わないので、この歌は損をしてしまった気がします。そこも含めて、作品を作り上げ、練り上げることが求められます。いい歌だけに惜しかったです。16分音符の使い方は難しいですね。合唱になるとなおさらです。細かいところですが、24小節目の「けれど」の音とコードにやや無理がありそうです。コードを取れば大丈夫かもしれません。
山本 言葉から詞へ、もうひと努力してみたい。伝えるにはポイントをしぼることも必要ではないでしょうか。