(1)へいわってすてきだね合唱団(千葉) 指揮/安藤由布樹 ピアノ/戸梶江吏子
「へいわってすてきだね」(作詞/安里有生 作曲/安藤由布樹)
木下:沖縄でやったように、こどもたちの声で聞きたい。大人がいてもいいから子どもが主人公でおとなは時々のサポートのみに徹したい。素朴でかわいこども思いを大人だけの声にのせると、曲はよく考えてあるのだが、残念にも逆効果で全く生きない、演奏は丁寧だったが。4〜5人でもお孫さんでも共に歌えていたら良いステージになったはず。考えてほしいのは誰がうたい、だれに聞いてもらう為にこの曲を委嘱したのか?と言う事。その方針によっては、(原作を表記したうえに)原詩のままでなく短い4行詞三連に改編することもあり得たのではないか。これが悪いわけではないが、“ステージングまで見通した創意”がほしい。そうしていたら皆が飛びついて歌うものになったかも?
石黒:3年前の沖縄戦没者追悼式で朗読された与那国島の小1、安里有生くんの詩は大変感動的でした。キラキラした目で世界をしっかり見つめている有生君、平和に対する自分の気持ちを真っ直ぐに表現して素晴らしいです。その詩に感動して絵物語が生まれ、歌がうまれ、たくさんの人に歌われる、平和のリレーですね。そのリレーに積極的にかかわった皆さんに敬意を表します。
大竹:fpなどの強弱、歌い方の優しさや厳しさなど、もっと変化をつけると訴えたい部分がもっと明確に見えてくるでしょう。3拍子のワルツが持っている円運動の勢いを歌い方に加えることができるともっと良くなります。ユニゾンの部分とハーモニーの部分は訴える力がどう違うのか工夫してみてください。顔を見合わせる振りは適当ではなくきちんと統一してやったほうが効果が増します。
黒坂:現地まで出かけていく活動そのものに感動。音楽はそれがあればもう充分だと思います。曲が、ちょっと洗練されすぎていて、子どもの詩にあってないかな、という印象を受けました。もう少し、子どもらしく、たどたどしくても良いかもしれません。
武 :まずこの企画がすばらしいですね。その中から生まれた、親しみやすいメロディのいい歌だと思います。子どもたちが歌うと、さらにいいでしょう。ただ、曲の長さから考えると、音楽的にはもう少し変化があったほうが良いかとも思います。あまりにすっきりと歌ができすぎていて、心に引っかかる、心が「おっ」と動く部分、「きゅっ」と震える音があってもいいのではないでしょうか。
(2)愛知子どもの幸せと平和を願う合唱団(愛知) 指揮/藤村記一郎 ピアノ/夏目順子
「かがみ」(原詩/橋歩 作詞・作曲/寺西美予・高橋広美・雨宮都与子 編曲/藤村記一郎)
木下:女の子らしいかわいい詞。曲も創意を凝らし面白い、が詞の段階でもう少し行をととのえて二番程のソングにするとよかったかも?このままでは、ややまとまりが悪く覚えきれないのではないかな?導入部の「唱えことば」でリフレーンをつくれていたら、原詩のねらいはバッチリ決まったのでは?
石黒:女の子らしい楽しい詞ですね。「鏡は心を映すもの」と言われていることを、具体的な動きで簡潔に表現していますね。3連目、鏡を擬人化しているので、他の連でも擬人化した鏡を出してもいいように思いました。一方通行にせずに、交互通行のほうがいいかな?
大竹:子ども達の歌っている間、大人がどうするか工夫が欲しいです。可愛らしい世界でした。笑顔いいですね。
黒坂:言葉がすんなり入ってきてとても楽しい歌。子ども達の発想に感動。でも、もっと聴きたかったのにすぐに終わってしまった。昼の鏡、夜の鏡、深夜の鏡などもっと想像と創造をして2番3番も是非、創ってください。聞きたいです。
武 :楽しい歌ができましたね。短すぎて、もっともっと聞いていたいような気がしました。何歳の方が作ったのでしょう。歌がきっとすきなのでしょうね。こども作曲賞を、ぜひさしあげてください。アレンジもすばらしいです。
(3)チームてきってき(愛知) 指揮/藤村記一郎 ピアノ/夏目順子 三線/清水則雄
「てきってき」(作詞・作曲/橋和輝・橋康秀・寺西亮馬・高羽あかね 編曲/高羽あかね)
木下:とてもいいアイディア。だが、この種の歌は言葉が完全に伝わらないと意味が無い。「的」という字を「てき」から想像するのはかなり無理があり、プラカードに書いた「積極的平和」などの文字をかかげるとか工夫が必要かも。演奏に使ってゆくといい工夫も生まれるはず。ノリの良いうたで、それはいいことだが、ノリすぎて言葉を伝えることがおろそかになったのでは困る。オモシロイが短くてややあっけない、演奏で使うことを実践しながら一考しいてほしい。
石黒:自己紹介文の通り、コミカルな響きが面白いですね。そういえば〜的とよく使いますね、これは日本語独特の言い回しでしょうか。鋭い観察眼、豊かな発想に脱帽です。このセンスを大切にして下さいね。「的つけて敵かくす」なんてみごと!「ことばどろぼう」よりも「ことば詐欺師」「ことばペテン師」の方が的をえていると思います。
大竹:せっかくの言葉でのリズムなので「てきってき」の「っ」はもっと強調して良いと思いました。「てきっ」のきを短くすることでできるかと思います。足踏みが2回とも速くなってしまいました。
黒坂:沖縄的旋律に乗せたコミカル風刺ソングは発想としては実に面白い。でももっと聞きたい。楽しみの渦の中に巻き込んでくれて、ほったらかしにされてしまった感じ。さらなる展開、とオチがあったら大成功だったのに。3番も4番も創ってください。諦めずに。
武 :詩が面白いですね。ほんとうにその通り、共感します。ここに目をつけたのがすばらしい着想でした。前半の沖縄「的」メロディはうまいですが、「ほんとうにこれでいいのか」以下のメロディが今ひとつ印象が薄い気がして、ちょっと残念です。
(4)愛知教職員合唱団きぼう(愛知) 指揮/藤村記一郎 ピアノ/森崎裕美子
「鳩は飛んだ」(原詩/伊藤武和 作詞/愛知教職員合唱団きぼう 作曲/藤村記一郎)
木下:格調たかく鳩を象徴としてよく吟味された詞だとおもう。鳩に託した思いもわかるが、各連のどこかにうたい手自身との個別的な感情・きずなを感じさせる1行がほしい。その関わりをさぐってほしい。曲は魅力もあるが、でないと整っているだけにきれいごとに聞こえ、迫力・伝播力にかけてしまうのでは…。
石黒:平和の象徴の鳩に思いを託した歌です。人類の歴史に大切な役割を託されてきた鳩の姿を簡潔に表現し、うまくまとめています。とりわけ2番の戦争に利用された鳩の話があるので、平和の大切さがより伝わりました。
大竹:ピアノに歌詞を先導するドラマチックさが欲しいところです。最後の「飛べ」を盛り上げるのではなく小さくした意図がわかりませんでした。
黒坂:詩も曲もとても完成されていると思いました。ただ歌いこなれていないせいかもしれませんが、何かが伝わってこない。震えるような平和への思い、「ああ平和が欲しい」という感覚が来て欲しいと感じました。歌詞が楽譜を見ないと分かり難いところがありました。
武 :スケールの大きな、良く練られた作品だと感心しました。まず最初の3小節のメロディがすばらしいです。これだけで一つの世界に引き込まれます。その後15小節まで完璧ですね。「くちに」からも自然なメロディですが、この部分からはもう一工夫が欲しい気がします。ここから先ほとんどすべて二分音符と4分音符の形が続くのですが、詩が壮大なだけに、だんだん音のほうに冗長感が漂い始めるような気がします。たとえば、譜例1、2のように、ここぞ!というところでリズムを変えてみるのはどうでしょうか?(譜例はあくまで参考、「こんなアイディアもありますよ」という意味で、このほうがいいというわけではありません。)
(5)創作部企画1(2015日本のうたごえ祭典in愛知イメージソング)(全国) ピアノ/藤村記一郎 ギター/榊原あきひろ
「おんぷリンちゃんのうた」(作詞/間瀬滝子 作曲/藤村記一郎)
木下:なんの歌か?困った。ネーミングはしかるべく検討されたのかもしれないが、ねらいがスベッタ感あり。でもこの種のうたとしてはよくできているかな?それにしてもリフレインの歌詞はこんなにオシツケないほうががいい。今のタイトルはサブタイトルにして曲名は「君と会うと」や『君と歩く』くらいにして、リフレインも踊ったり駈けたりする詞にして、大事なところでこの名をいれるほうがいいのでは?うたの生かし方、必要性?の論議も作品の質をきめるとおもう。
石黒:初めて聞きました。もっと広げてほしかったですね。楽しい歌だけれど、少し印象が薄いのは、おんプリンをしっかり書き込んでいないからでしょうか。
大竹:大人数でのステージでしたが、少し元気がなかったようです。せっかくのイメージソングですので、もっと会場全体が盛り上がれるようにできたらいいですね。
黒坂:楽しい曲。キャラクターソングとしてはピッタリ。どうせだったらもっと普段歌に使われないような言葉を勇気をもって入れたら、もっと刺激的になった様な気もします。うたごえでどこまで許されるかわかりませんが。
武 :さすがに藤村さんの作品、かわいらしくて歌いやすくてすてきな歌ですね。「おんぶリン」という言葉が持つリズムや音の響きが、ぴったり音符になっています。ゆっくりになるところの演奏が少し難しいか。
「今 あなたと」(作詞/橋雅子 作曲/榊原あきひろ)
木下:一応、えらばれた歌詞で簡単だが要所はおさえてある。曲もうたいやすく、音域にも気をくばったところがいい。1カ所だけ気になるのは、第二小節目。3、4拍の「ドシソミ」は『ドシラソ』になりそう。第3小節目のリズムも今の音で1拍目のウラの「い」を1拍に、「た」は2拍目のウラ、三拍目に「い」を2分音符で。もちろん、作者が決める事ですでに公表されていて無理に、というつもりはない。こだわりも判る気がするが、ここだけみんなの声が歴然とひっこんでいる気がするので…参考まで。
石黒:シンプルでよくまとまった、歌いやすい歌詞ですね。祭典イメージソングとしての存在感があります。
大竹:こちらの曲はみなさん曲と歌詞を良く理解して歌っているのがわかりました。
黒坂:皆で歌うにはとても良い曲ですね。この歌が祭典を盛り上げたと思います。
武 :いい歌ですね。最初8小節で「決まり!」という感じです。歌詞にぴったりのメロディです。前奏もすてきですね。新鮮です。世代を超えて、これからも歌って行きたい歌です。
(6)市民合唱団PeaceCall(大阪) ピアノ/南村知佐恵
「明日への坂道」(作詞/松本喜久夫 作曲/前田光男 編曲/松濱由香・榊原あきひろ)
木下:寡聞にしてこのご本を知らないので、歌詞への意見はやめる。が、「夕日にぬれてる」はおもしろい表現。さて、曲は比較的単純な同じ音型のくりかえしなので、やはり単調さはまぬがれない。譜面の2段目を前と同じにしたところがその原因だろう。はじめの4小節を受け止める2段目の4小節は、前を受け止めながら次へ世界をひろげてゆく事が役割。結果として三段目までのフレーズの終わりがみんな同じF#になってしまった。合唱の編曲はまずまずとしても、2ヶ所程、気をつけたいことがある。4段目の第2小節と2頁目、三段目の第2小節(いずれも平行5度)。どうしても使いたいならいいがよく聞いてほしい。
石黒:言葉に無駄のない、きりっとまとまった力作です。甘い言葉はないのですが、人間の優しさが行間からにじみます。また2・3番の「夕日にぬれてる〜」「朝日にめざめる〜」はこころにくい表現ですね。
大竹:長い音符が多い曲です。その長い音符をどう表現するか、もしくはもう少し動きを付けたメロディにすると良いかと思います。
黒坂:美しいメロディ、やさしく物語を展開していいですね。8分の12拍子が良く生きています。言葉も伝わってきます。導入から数小節が久石譲氏の「坂の上の雲」に似ていると感じてしまったのは私だけでしょうか?
武 :情感溢れる、しみじみとしたいい歌だと思いました。言葉とメロディの関係もうまくできていると思います。ただ、全体にリズムパターンが同じなので、覚えやすいですが、ちょっとメリハリがない感じもします。ピアノの伴奏は、最初からちょっと刻みすぎ、動きすぎの気がしますが、いかがでしょうか?盛り上がる最後にとっておきたいです。
(7)洛北青年合唱団(京都) 指揮/富森琢也 ピアノ/篠田恭子 アコーディオン/木戸史
「ビールがうまい」(作詞/山田憲治 作曲/斉藤清巳)
木下:こんな歌があってもいい。賛成!だが、「ビールのあては、なにもいらない」でなく「仲間の笑顔」ぐらいにはしてほしいんだが…。でないと、せっかくのうまい!の気勢がそがれっちまう!
石黒:うまそうにビールを飲む姿が迫ってきます、きわめてビジュアル的ですね。作者は本当にビールが好きなんだなーと感心しました。きりり上手にまとまっています。「ビールのあて〜」がキーワードですね。特に4番のオチがいいです。ところで「あて」というのはおつまみのことですよね。関西ではよく使われているようです。私はこの言葉を数年前に知りました。語源は酒にあてがうものから来ているとか。「つまみ」と言うより「あて」とした方が粋ですね。しかし「あて」は日本酒のイメージ、ビールは「つまみ」というのは私の勝手な思い込みか?
大竹:アウフタクトの始まりが低い音からの場合、言葉が潜りやすくなります。聞き取りやすいメロディラインを探してみてください。ビールを飲んで「うまい」というときのご自身のテンションと、今回のステージでのテンションを合わせてみてください。アコーディオンが少し大きかったですね。
黒坂:なんとも大胆な発想と切り込みに唸りました。ただここまで切り込んだ以上、どうなるかな?とオチに向かって気持ちは高ぶります。それが最後に「何もいらない」と実に虚無的に。太宰治のような真の虚無を狙うには前が楽しすぎます。どうせなら「何もいらない」と言っておいて「ただ平和があれば」とか言ってくれたら、気持ちは落ち着くのですが。それとも「ビール」の言葉と掛けて「ビールのあてはシールズのうたごえ」とでもやれば、オチはバッチリ決まると思うのですが。勝手なことを言ってスミマセン。
武 :ビール好きの私としては、今回のオリコンの中で一番うれしくなる歌でした。衣装、アコーディオン、アレンジもビール以上に旨いです。あー旨い!のところのきりかた、リズムが秀逸です。ただ、今この時代に、ビール飲んで歌っていていいのか、という声が私にもどこからか聞こえてきました。
(8)みなと合唱団(東京) 指揮/高橋一美 ピアノ/亀井奈緒美 ギター/小山龍雄
「聞こえますか 〜被災地 仙台・荒浜にて〜」(作詞/愛久澤トキ 作曲/亀井奈緒美)
木下:はるばるご苦労様。東京でも書いたが、やはり「きこえますか」は何を「聞いてほしいのか?」しりたい。それによってはタイトルも変えた方がいいかもしれない。さて、歌は歌詞にメロディがついたものだが、楽器を扱える人には、言葉に曲をつけることは誰にでも簡単にできることだ。でも、「目で読む世界」と「音で聞く世界」はかなり違うわけだから、「詞の世界をその内容にふさわしく音で定着させる」ことは簡単ではない。無限の可能性もあるし、それぞれの限界もある。この詞の場合、1番で「今、現在の風景」と「過去の思い出」が並列されている。目で読めば、一字落としに書かれていて、作者はその二つを意識している。曲になった時は別の手立てが必要。まず、このままソングにはならない。歌曲には可能だろうが、それだけ手をつくす必要があるか?もう一つは、2番を全部「過去の思い出」にして、時間的次元を切りはなすことを試みる。そこまで、作詞者と作曲者は相談してともに苦労をしてほしい。その中で云いたい事がさらに鮮明になることがままあるのだ。次作を期待!
<東京オリコンでの評——全国のみなさんのために抜粋>(講評 木下そんき)
『聞こえますか』 福島への関心を 行動にしながら詞にまとめてきた集中が演奏にも 見えて とてもよかった。曲としては 二番が曲としても成功しているのは 歌詞に無理が無いからだろう。歌詞の 未整理は 三番にもあり 「全てを失った けれど私は生きている」この言葉を どう読むのか これは何通りもの想いを重ねることができるが、ここから さいごの「新しい夢に」に向かう 強さや明るさは やはり 少し唐突だ、と 感じる。 詞は 適当に行分けがあると 整っているようにみえるが、内容のながれ を読み取らないと 無理がおこりやすい。経験の無い詩人には その矛盾がわからないが、作曲者は 音の流れとの関係を詩人に理解してもらい 行替えや書き直しを相談すべきだと思う。 歌詞は音の流れの中ではじめて生きることば なのだから…。経験にしてほしい。タイトルの「聞こえますか」は 何を いいたいのか?これを みんなで論ずるだけでも、歌詞はもっと豊かになったのではないか。
石黒:実際に被災地を訪問した人の目を行間に感じます。5年目になり人々の関心が薄れていく中で被災地の姿を書きつづける意欲を高く評価します。枯草を渡る風、黒く枯れた松、リアリティーのある表現ですね。3番は生きる人のここで暮らす姿が希薄、もう少し顔を見たいです。震災で故郷を追われた方が夢をもって新しい明日の扉をたたくのは、はかりしれない悩み、苦しみを乗り越えてのことと思います。最後「手を取り合って〜新しい夢に向かって」は締めの言葉としては的確だと思いますがもう一工夫ほしいところです。
大竹:とても深く表現をされていてよかったです。思いが伝わってきました。ユニゾンを和音にする部分はそれによって表現が変えたいところだと思います。もう少しこだわっても良いかと思います。
黒坂:美しい合唱です。被災地の情景が絵のように浮かんできます。ただ、曲が詩に引っ張られすぎと言う感じも受けました。ドンドン違ったメロディへ行ってしまうのでなく、テーマ(主題)となるフレーズをもっと大切にしてそれを何度も繰り返し発展させていく作曲法を試みたらどうでしょう。また、悲しい場面も必ずしもマイナーで表さなくても、逆に詩の悲しさをメジャーで表現することにより、詩と曲が対峙しより言葉が引き立つと言うこともあります。フォークシンガーの横井久美子さんが歌っているアイルランドの曲「私の愛した町」(フィル・コーター詞、曲)などはその良い例です。戦車と銃剣をメジャーで表現してより強く言葉を伝えます。参考までに。
武 :この歌は、震災がテーマの歌を作ってきたものとして、自分自身の作品についても色いろと考えさせられる歌でした。今起こったばかりのこの悲劇を歌にする場合に、その現実に応えられるメロディ、音楽になっているかどうか、深く問われているように思います。さて曲の感想ですが、「かさかさかさ」はいいメロディですが、2回欲しい気がしますがどうでしょうか?余韻が残ります。「はやくおきなさい」のメロディは、リズムなどをちょっと変えてみるのはいかがでしょう?これが私の町〜の部分はいいですね。ぴったりの音の世界だと思います。この作品だけではないですが、日本語の歌の作曲では「っ」の音処理の仕方はいつも課題です。55、56小節の「失った」は、やや無理があるように思います。譜例3はいかがでしょうか?
(9)吉田病院うたう会(奈良) 指揮/一村好郎 ピアノ/黒瀬えり
「私は ナース」(作詞/吉田病院・一村好郎 作曲/一村好郎)
木下:明るくてかわいくてすてき(歌い手が?)。ただ、経過が順調な人ばかりではないはず。2番にそんな人をはげます詞も考えてほしい。
石黒:職場の歌が最近少なくなって寂しい思いをしているのですが、初めての参加で、職域から、嬉しいです。まず演出が成功しています。赤いハートの楽譜が効果的、指揮の一村さんは本物のドクターに見えましたよ!歌詞はよくまとまっていますね。この作品が書いているように患者さは看護師さんの笑顔を呼んでいるのですね。うまいオチです。これからもどんどん創作してください。次回はみなさんの顔、患者さんの顔がもう少し近距離で見られるといいですね。
大竹:歌詞カードのハート、いいですね。セリフにしたところ、1回だけではなく増やしても良いかもしれません。温かい病院の空気を感じました。
黒坂:優しい看護婦さん達の優しい声でうっとりしながら聞かせていただきました。でもあっと言う間に終わってしまった。もっと聞きたいです。恋をする看護婦さん。おかあさん看護婦さんの苦しみ。悩み。とても全部は歌えないでしょうけど「吉田病院」だって良いことばかりじゃなくて色々あると思います。それも少しでいいから歌ってくれたら、歌がより広がります。
武 :楽しい歌ができましたね。私も必要なときには、この病院に入院したいです。ことばとリズムの関係は新鮮でよくできているともいますが、和音の使い方が、もう一工夫されると、さらに良い歌になりそうです。3つのコード以外の和音にもチャレンジしてみてください。
(10)D51合唱団&C57(国鉄) 指揮/小林康浩 ピアノ/小林康浩
「虹が生まれた日」(作詞/山本芳恵 作曲/小林康浩)
木下:楽譜に(短縮版)とあった。なにを現しているのか?自然の様々な現象を擬人化して現実の暮らしと交差させる、一つの格調のある詩だ。この切り込み方はどうしても暗喩にならざるを得ないので、とても傍観者的にきこえる。作者や歌い手はどこに居るのか?もっとストレートな言葉が良いとは云わないが、どこかに“ともに生きる熱いおもい”をしのばせてほしい。曲は手際よく長い詞をまとめあげている。
石黒:美しい大きな広がりのある歌詞ですね。国を司る人たちに思いを届けるとありますが、こういう表現ならばアレルギーなく届くかもしれません。「気まぐれな風」はいささか弱いかも。
大竹:とてもステキな声です。曲も美しい。広めたい曲だと思いました。ピアノとのバランスが難しかったですね。頑張ってください。
黒坂:言葉にひとつひとつ深い意味があり、その言葉に合った曲が付けられ、素晴らしい作品です。高校生の合唱曲などになったらいい、と思いながら聞きました。女子高校生のコーラスなどでもきいてみたいですね。このお二人のコンビで、合唱曲と言うよりもっとシンプルな「うた」と言えるものを創ったらどうなるかな?と想像しました。主題(テーマ)となるメロディもハッキリさせて…。もうあるのかな?
武 :ほんとういい詩ですね。内容はもちろんですが、すぐに歌が生まれそうな、予感を持っている詩でもあります。小林さんの曲もすてきです。特に13小節〜の音の色が好きです。
(11)佐々木伸介(宮城) ピアノ/小林康浩
「大臣様の流行語」(作詞/佐々木伸介・安広真理・斉藤範雄 作曲/佐々木伸介)
木下:はじめ、この詞はもっと悲憤慷慨!していて作者の怒りだけが全面にでて説得力、伝播力を欠いていた。みんなの意見でおなじ内容を、みんなに伝わるようにと三人で改作して見違えるように面白くなった。この経験に学んでほしい。演奏は力演だったが、やはり三人位はいないと、後半のラップ調のところがお客にとどかない。工夫して演奏につかってほしい。
石黒:作者の思いにまったく共感します。時の為政者たちの言葉を揶揄して歌詞まで高める、見事です。〜的という言葉をひにくった「てきってき」という作品もありましたね。漢語を使い相手を煙に巻く為政者の厭らしさを痛烈に皮肉っています。言葉のもつ面白さと限界に挑戦しているのです。3番に「平和的の言葉は魔法」とありますが、的確でセンスがいいです。私は「遺憾」という言葉が気になります「それはいかんだろー」なんてね。それから「衷心より」という挨拶の枕詞をずっと「センター」だと思っていました、何しろ台の真ん中に立ってしゃべっているからね。
大竹:皮肉の効いたノリの良い曲です。素晴らしい歌唱力とリズム感、そして演技に引き込まれました。シュクシュクのクが聞き取りにくいのがもったいないなと感じました。ピアノは少し大きかったですね。ラップ部分はピアノを少し省略するとなお効果が出ると思います。
黒坂:明治の演歌師添田唖蝉坊を彷彿とさせる詞曲、歌い方に引きずりこまれました。是非、路上で演歌ヴァイオリンと一緒にやってみてください。人々が立ち止まって拍手をするでしょう。
武 :面白い着想のいい歌です。詩も良く練られていて、良くできているなあと思います。佐々木さんがいつも新しい世界を拓いていることに感動します。次の安広さんの作品と2つ合わせて、このスタイルをオリコンに登場させた「特別アイディア賞」ですね。
(12)創作部企画2(2015東日本創作講習会好評曲)(全国) ピアノ/小林康浩
「Syuku−Syuku-To」(作詞/佐々木伸介・斉藤範雄・安広真理 作曲/安広真理)
木下:うえに同じ取り組みの中から、うまれた。その初演、自作自演が圧倒的にステキだった。歌い方はもっと工夫が必要。簡単な伴奏譜をつけて、すぐにでも全国でつかってほしい。この種の情報、うたに今人々は餓えていると思う。
石黒:同じ歌詞なのに全くちがった歌になるのが楽しいですね。浮揚感があり面白い曲ですが歌い手にとってなかなか手強いかもしれませんね。16ビートで、音がくっているし。
大竹:11番の曲より人数が増えたことで、さらに力強いリズム感が出ても良いと思うのですが、逆に表現が平坦になってしまったのが残念でした。拍の持つエネルギーを感じることができると、この曲の良さがもっと出てくると思います。
黒坂:「大臣様の流行語」を聞いた後に聞かせていただきましたので、ちょっと印象が薄れました。ジャズっぽい流れになっていて面白いのですが、詞が流れてしまって入ってこない感じがしました。「大臣様…」の方が直に言葉が入ってきます。
武 :安広さんのすてきな作品群の中でも、特筆すべき好作品だと思います。あとは上と同じですので省略。
(13)福原やす子(宮城) ピアノ/小林康浩
「みんな幸せに なれるといいね」(作詞/リュウイチ 作曲/小林康浩)
木下:詞は一般的なようだが、ひとつのひらめきがあり、曲も丁寧に寄りそってつくられてる。曲名に大事な歌詞をそのまま使うのは悪いわけではないが、やや説明的に感じるところがある。「みんなで幸せになりたい」でもいいような気もするが…。
石黒:心にしみる言葉にあふれた歌詞です。キーワードは「人はだれでも孤独なランナー」、人間の淋しさを知ったうえで、人に対する信頼と愛情を表現してあまりある説得力があります。
大竹:気持ちが込もっていて大変良いです。ハーモニーの部分をもっと効果的に行けると良いですね。ピアノと歌のバランスが気になりました。
黒坂:最初からマイナーじゃなくて、もっと明るくメジャーで歌った方が逆にこの詞の悲しみが伝わるように思うのです。ちょっと歌謡曲のようになってしまって、それが爽やかさを欠いてしまっている感じがします。でもこれは好みの問題かも知れません。是非、作詞者の遺志を継いで歌い続けてください。
武 :福原さんのすてきな声と、小林さんの弾き語りにうっとりと心を奪われてしまい、曲の感想がなかったのですが、あらためて録音を聴き、いい歌だなあと思いました。リュウイチさんに聞かせてあげたかったですね。
(14)フリーダム(岡山) ギター/原田義雄
「つばさ」(作詞/高橋雅子 作曲/原田義雄)
木下:詞はいまの心境をまっすぐ伝えていて心地よい。ただ、「今はたたんでおこう」で終わるのでなく、“夢はもう子ども達とともに力強くひろがって”など明るく終わるソングにしてみないかとも思う。曲も「いつの日」や「まけない」などに原田さんのノリがあって楽しい。
石黒:作詞の高橋さんは名古屋青年合唱団で長く活躍されている人です。今回の祭典テーマソング「今あなたと」の作詞者、共通するのは深い愛情・信頼に裏打ちされた明日への希望。本作品は子育て奮闘中のママにあてた優しいメッセージ。オリジナリティーのある表現で秀逸。最後の「今はたいせつにたたんでおこう」オチがいいです。
大竹:とてもココロに響く歌でした。いろいろな人に聞いてもらいたいですね。最後のハーモニーだけ惜しかったです。歌全体のユニゾンとハーモニーのバランスがとても心地よかったです。
黒坂:美しい曲ですね。詞も良く入ってきます。「今は大切にたたんでおこう」の終わり方。画期的だと思います。ただ、「なぜ?」「どうしちゃったの?」「たたんで締まっちゃわないでよ」とも思わせます。せめて「まだ羽ばたけないけど」とかならないのかなあ?と感じました。
武 :いつものようにいい歌ですね。演奏もすてきです。全体の構造から言えば、いつの日にか、からのメロディはもう一度(或いはもう2度)歌いたいですね。詩の関係で難しいのかもしれませんが、ちょっと「あっけなさ」が残りました。たたんでおこう、と歌った後、もう一度「いつの日にか〜」はいかがでしょうか?蛇足ですが、いつの日にか、の「つ」はA♭ですね。まけないの「け」も同じです。
(15)福井のうたごえ(福井) ギター/斉藤清己 三線/山田文葉
「平和の」(作詞・作曲/山田文葉 編曲/斉藤清巳)
木下:ぶっきらぼうだが、もっぱらみんなで歌う事をめざしていていい。タイトルはやはり「平和の海を」とか「平和を子どもたちに」とかにしてほしい。三段目を二回くりかえす必要があるかも…。うたいながら付点のリズムになってもいい。
石黒:シンプルできれいにまとまっていますね。まるで浜辺に波が寄せるようにシンプルな言葉をくりかえすことで、歌詞を高める手法は効果的です。実際に辺野古に行き座り込みに参加したことが今回の作品に生きていますね。収まりを意識したのでしょうか、いささか盛り上がりに欠けているのが残念です。
大竹:せっかくの踊りのメロディなので、流して歌ってしまわないでステップを踏む感覚で歌うともっとリズム感が出て良くなるでしょう。歌詞が少々ストレートすぎるかもしれません。何かに例えるなど、一捻り欲しいところです。
黒坂:単純明快なシュピレヒコールのような歌で、デモや集会の時に大合唱で歌ったらみんなの気持ちをひとつに出来ると思います。こんな歌が必要ですね。
武 :今回のオリコンで、私が一番心に残った歌です。シンプルなのに、どこか心に響ひびきます。言葉ではうまく説明ができないのですが、うたのこころをつかんでいるというのでしょうか。
(16)葛原 縁(大阪) ピアノ/南村知佐恵
「笑顔のアルバム」(作詩/葛原縁 作曲/榊原あきひろ)
木下:詞は創作の動機からじっくりと情況をひきだしていて、「明日へつながって」いるのは、とてもいい。他の作品では、おなじ思いを短絡的につなげているものが多いなかで、タイトルの選択もこれはなかなか自然。だた、原発の事故が現実の恐怖の中心であることもしっかり視野にいれてほしい。曲は詞の長いフレーズや、心の中の大きなドラマの振幅を良く努力してささえている。演奏はりっぱだったが、もっとさらさらと歌い出したい。次回は、これらの内容を行数を5行ほどの詞に整理して、みんながうたえるソングに…どうしても外せない言葉をにつめて木下航二曲の「死んだ少女」のような、短いがドラマをもつソングに挑んでほしい。ソングが欲しいのだ。
石黒:震災を表現した作品を、一人称で表現されています。当事者でない人が当事者意識を持ち、歌詞にするには力、勇気がいったことだと思います。アルバムを通して、明日への思いを真っ直ぐな表現で語って、好感の持てる作品に仕上げていますね。
大竹:希望を持たせてくれる詩ですね。前半、中盤、後半と持って行き方がステキでした。ドラマを見させていただきました。
黒坂:被災地へ「アルバム」という形で迫ったのはとても良いと思います。ただ、ドンドン違ったメロディへ行ってしまうので、言葉がなかなか入ってきません。テーマ(主題)となるフレーズをもっと大切にしてそれを何度も繰り返し発展させていく作曲法を試みたらどうでしょう。また、悲しい場面も必ずしもマイナーで表さなくても、逆に詩の悲しさをメジャーで表現することにより、詩と曲が対峙しより言葉が引き立つと言うこともあります。フォークシンガーの横井久美子さんが歌っているアイルランドの歌「私の愛した町」(フィル・コーター詞、曲)などはその良い例です。戦車と銃剣をメジャーで表現してより強く言葉を伝えます。参考までに。「笑顔のアルバム」の最初の美しいメロディがもう出てこないのは勿体ないです。
武 :メロディを書く力が榊原さんは豊かなので、この歌でも良いメロディが、詩にふさわしい色彩でついてはいるのですが、どこか聴き終わったあとにしっくり来ない、100%の共感がしにくいのはなぜだろうかと考えました。部分的にはそれぞれ良くできているのですが、全体の統一感がやや不足しているのかもしれません。またもしかしたら、短い時間の中で、くるくると色が変わりすぎるのかもしれません。また、たとえば、当たり前にからあなたを探してまでの部分が、このコードの色だけで表しきれるのか、という課題もあります。この言葉にふさわしいマイナーの世界を一生懸命探しているのは伝わりますが、案外メジャーコードで歌ったほうが、そのなかで音を探したほうが、心に響くメロディがあるのかもしれません。悲しみが深く伝わるのかもしれないです。古い例ですが、フォーククルセダースの「イムジン河」や「悲しくてやりきれない」はメジャーの世界ですね。ともあれ次の作品を楽しみにしています。
(17)合唱団この灯(東京) 指揮/長久真実子 ピアノ/岩崎結
「明日の空は」(作詞/梅澤幸子 作曲/慶野未来 編曲/長久真実子)
木下:詞、曲とも力作で、現地での交流のいぶきが感じられ今年の収穫のひとつ。ただ、エンディング…曲はかなりおさえてあってあまり不自然さはないが、その三行の詞語はやや舌足らずに思える。「希望」という耳慣れた言葉でなくその想いを引き出してほしい。「希望をたくせる きざし」を人々のなかに拾い上げる。そんな情況をみつける努力がもっとほしいともおもう。おなじ意味をべつの言葉で想起させてほしい。それが本当の個性になるのだとおもう。でも力ある集中した演奏で見事!
石黒:震災から4年以上経過して被災地の映像を放送するメディアも少なくなりましたが、当初とは異なった深い悲しみの映像が作詞者の心に届き、生まれた作品です。映像を見た自分のイマジネーションで仕上げていくわけですから、大変な作業だと思います。丁寧に書いているのでかえって説明的になってしまうのが残念ですね。もう少し言葉の整理をするとキーワード「明日の空は」が生きてくると思います。
大竹:言葉、単語の持っている重さの違いを表現してみてください。せっかく和音にしても全てのパートが同じ動きをしていては面白くありません。ぜひパートごとに動きを変えてみてください。「なにいろ」のように母音続きで「に」と「い」が来た時はかなりしっかり発音しないと伝わりません。
黒坂:素晴らしい曲です。歌詞は見事にフクシマをとらえています。その歌詞をメロディが生かしています。「原発」という刺激的な言葉も、このメロディに乗ると違和感なく体に入るから不思議です。これほどフクシマを見事に表現した曲に会ったことがありません。アレンジも素晴らしい。またそれを言葉ひとつひとつを丁寧に歌う合唱団が素晴らしい。であるが故に最後の2小節がなんとかないらないか、と思ってしまいました。ありきたりじゃなくて、ハッとさせ、観客に後はゆだねるような終わり方を。これだけ観客を魅了する曲ですから、何をやっても大丈夫です。もっと客を信頼してください。この曲は全国の合唱団(うたごえだけじゃなくて)が歌うべきです。
武 :このうたの世界が私は大好きです。詩はもちろんですが、作曲とアレンジ力がすばらしいですね。ありきたりのようでいて、実はなかなか新鮮です。シンプルなのに、心に深くしみてきます。3番まで、同じメロディなので、普通はちょっと飽きそうですが、それもない気がします。「明日の空は何色」の終りがDでなくAで終わるところ、特にいいですね。作者の感覚のよさを感じます。次の作品もお聴きしたいです。
(18)いのちをはぐくみ平和を願う合唱団「ほっと・夜明け」(愛知) 指揮/浜島康弘 ピアノ/中川ゆう子
「うさぎ ねこ いぬ」(作詞・作曲/伊与田桜)
木下:とても、とてもスッキリしていいよね。まず詞がいい。でも、出だしのメロディが「チューリップ」と似過ぎなのはこまる。私はすこし変えたい。メロディは誰かの曲の記憶の集積から出てくるので、このような事は大人でもザラにある。だから曲の主な性格に影響しない少しの変更は提案した方がいい。「第二小節4拍目をソ」に「四小節三拍目をレレ」に、「六小節おなじリズムでソソドソソミ」これだと「ねこ」も少し救われるのでは?以上もちろん、参考まで。
石黒:小学校1年生の視点で面白い歌詞です。タイトルはそのものズバリ。動物それぞれの個性を簡潔に表現してうまいです。作者はうさぎ、いぬ、ねこは好きですか?作者の気持ちを書いたらもっと楽しいよ。
大竹:童謡として面白いです。「うさぎ」というフレーズに無理に「ねこ」「いぬ」を入れてしまわないで、2番と3番はメロディを変えたほうが聴きやすいかもしれません。
黒坂:もっと聞いいていたい。この後10番まで創ってください。タヌキも、カラスも、ブタも、ヘビも、ミミズもいいとこ見つけてやってください、さくらちゃん。
武 :かわいらしい良い作品ですね。特にいいのが最後の2小節、「それが○○のいいところ」というところが、この曲の一番「いいところ」です。これからもたくさん曲をつくってくださいね。
(19)ノンシュガー(岡山) ピアノ/河内眞弓 ウクレレ/石原みゆき
「Love 肝臓」(作詞・作曲/山ア典子 伴奏編曲/真島優美子)
木下:着想もいいし、実用的なのも賛成。だが、この歌の土台には無意識にだが元歌がある、と推察する。(たとえば、青山義久さんの「あそび虫」)上の(18)曲にのべた同じ理由で私は一部改作を提案する。「第4小節の3拍目をソ」に、三段めの「第4小節の3拍目もソ」に。原曲のキュウクツさが少し減るのでは?
石黒:毎日の仕事が歌になったケース、楽しく判りやすい啓発ソングに仕上がっています。とても勉強になりました。歌に伴うストレッチ、Tシャツも良くできていて、花も実もある作品になりました。キーワードは「小さなつみかさね」ですね、身に染みる一言でした。
大竹:ウクレレの調弦よろしくお願いします。いい体操曲になりましたね。覚えやすくていいです。楽しそうで良いステージでした。
黒坂:「うたごえ祭典」でこんな曲を聴かせていただくとは思いませんでした。楽しく、体が動いてきました。肝臓大事にしなきゃ、と思いました。ただ、せっかく度肝を抜くような「Love 肝臓」タイトルなのに、その言葉が歌の歌詞の中に出てこないのが残念です。もう4小節ぐらい創ってその度に「Ilove 肝臓」とかやったらどうでしょう?
武 :この歌はこのまますぐに使えますね。この歌にのせて体操ビデオをつくってください。私も毎日歌いながらやりますので。こんな楽しい歌を、これからもたくさん作ってくださいね。
(20)岡山市役所エゴラド合唱団(岡山) ギター/原田義雄・高畠尚樹
「ぼくらの保育園」(作詞・作曲/高畠尚樹)
木下:創作の動機はとても良いお話しで、それをとても生真面目に詞にしているとおもう。でも、詞の情況が変化していないので三番までは要らないのでは?曲はまとまっているが、メロディを付けることにこだわりすぎた感じもある。(作曲の経験が少ない時には誰もがよくやること)たとえば、六小節目で、気持ちのタメもなくいきなりシにゆく。禁止ではないが、4段目のはじめのシの音は、おかげで二番煎じになり盛り上がよくない。誰が歌ってくれるのか?この言葉はどんな気持ちなのか?から出発して歌い出す事が大事、経験にしてほしい。演奏はしっかりうたっていてたのしい。
石黒:6年たっても保育園のことを懐かしむのは、保育園に余程楽しい思い出があったのですね、また現在の小学校が少し辛いのかな。この保育園はとても優れた保育実践をしているのだと感じました。少年の手紙を上手にまとめて、構成がうまいです。次回は保育者の視点でも創ってください。
大竹:小6の若さが出るメロディになるといいですね。少々中年のフォークソングになってしまったのがもったいないです。
黒坂:ほのぼのと保育園の思い出を語ってくださって、気持ちが穏やかになりました。もっと思い出を聞きたいと思いました。ですから2番、3番で前半を同じフレーズを繰り返すのは、なんとも勿体ないです。「僕は中学生です」とか「身長は170センチです」とか「ひげが生えてきました」でも思い出すのは保育園のこと。などと展開したらどんどんイメージが膨らむと思います。
武 :いいうたですね。ソロのかたの歌も素直な声で魅力的です。全国の保育園の先生たちが、とても喜んで歌いそうな気がします。こんな素直なうたを、これからもたくさん作ってください。
(21)ノンアルコール(岡山) ギター/山ア義昌 アンデス/河内眞弓
「こめつくり」(作詞・作曲/山ア義昌 編曲/石原みゆき)
木下:地味でやや単調なフォーク調だが、ぶっきらぼうでおもしろい味がある。つぶやきのような詞を三拍子にのっけたのがよかったのか。エンディングがもの足りない気もするがこれも魅力の一つかな。
石黒:米作りの苦労、楽しさを丁寧に書いています。田植えから収穫までの過程はドラマティックですね、要領よくまとめる手際は秀逸です。田植えをすると「緑の線がついていく〜」というのは実にリアルな表現ですね、ここが気に入っています。
大竹:苦しみと喜びの違いが歌い方やメロディで表現できるといいですね。
黒坂:笠木透さんが提唱していた、フィールドフォークをそのまま受け継いだ様な曲で嬉しくなりました。これが本当のフォークソングですね。農業従事者の皆さんを励ます歌だと思います。米作りへの誇りが伝わってきます。うたはそれで良いんだと思います。
武 :曲も素直な旋律ですてきですが、演奏も歌もとても良かったです。私も米つくりを実際に(手植えで)していたことがあるので、この歌はとても身近で印象的でした。4番まで同じですが、(悪いわけではないですが)3番はたとえば違う色で創ってみるというのもありそうですね。
(22)岡山合唱団(岡山) ピアノ/河内眞弓
「誕生日に」(作詞・作曲・編曲/石原みゆき 伴奏編曲/真島優美子)
木下:結構のびやかで、いい線いってる、詞のねらいもいい。ただ、詞の二段目「めでたくないというあなた」の「あなた」は「おじいちゃん」の方がうれしい、むろん二番は「おばあちゃん」。また、この歌の主人公はきっとかなりの高齢者だとすると、時にある前乗りのリズム型は難しくないか少し気になる。実際にたしかめてほしい。
石黒:思いを直球で伝える歌詞、シンプルですが中身の濃い歌です。誕生日にありがとう、は素敵な言葉ですね。誕生日を迎える方の表情をもう少し伝えて欲しいです。
大竹:ハーモニーの美しい曲ですね。「誕生日にありがとう」の何回目かをささやきかけてみてはいかがでしょうか。
黒坂:良い切り口だと思います。こんな歌をプレゼントして貰ったお年寄りは元気になることでしょう。もうそれだけで歌として素晴らしい。欲を言えば3番まで聞きたい、と思いました。もしくは、繰り返し部分をもう少し違う言葉にして(たとえばですが、一番が「あなたと一緒だから豊かな人生」だったら2番は「あなたと一緒だから苦しみ越えられた」とか3番は「あなたと一緒だから今の私がある」とか少し変えるだけで世界が変わります。是非、お年寄りを前に歌い続けてください。
武 :高齢者の誕生日というテーマが新鮮ですね。伴奏もきらきらしていてすてきです。ゆたかな人生、で4小節延ばすのは、特別な意味(意図)がありますか?普通は2小節でしょうか。(3番のように)和音を変えるなら4小節もありそうですが。でも、この長さがいいという人もいそうですね。
(23)コーラス3びきのくま(大阪) 指揮/山本則幸 ピアノ/花井悦子
「へいわってすてきだね」(作詞/安里有生 作曲/伊東多嘉子 編曲/花井悦子)
木下:この詩には昨年もいくつかの作品があった。ここでは作曲にあったっては編みなおされている。そして、子どもらしいメロディへの配慮が曲と演奏に意識されていて、その点では成功したとおもう。これはこれで生かしてほしいのだが、合唱団がうたう歌でなく、子ども自身がうたう愛唱歌として編詩の仕事を発想してほしかった、とやはりおもう。そうしたら、歌いじまいはもっと余裕のある子どもらしいエンディングになるだろうし、そんな歌を子ども達も待っているように思えてならない。
石黒:歌詞の講評は(1)と同様のために省略しました。
大竹:短い文章が連なって平和の情景を映し出している歌詞です。もう少しそれぞれの情景が表現できると良いですね。せっかくなので掛け合いなど、ハーモニーを重ねられるようなアレンジになるとさらに深みが増すでしょう。
黒坂:出だしでハットさせられます。最初のメロディがとても生きて、流れるように子供達の声で詞を語っていきます。それだけで大成功。子供達と大人の合唱が混ざり合って素晴らしい発表でした。ただ、悲しい場面も必ずしもマイナーで表さなくても、逆に詩の深刻さをメジャーで表現することにより、詩と曲が対峙しより言葉がより引き立つと言うこともあります。フォークシンガーの横井久美子さんが歌っているアイルランドの歌「私の愛した町」(フィル・コーター詞、曲)などはそのとても良い例です。戦車と銃剣を美しいメジャーのメロディで表現してより強く言葉を伝えます。たとえば、試しにこの曲のマイナーになった部分「戦争は恐ろしい ドドーン ドカーン、爆弾が落ちてくる 怖い音 お腹が空いて 苦しむ子ども」この部分を最初のメロディで歌ってみてください。僕にはその方がずっと伝わります。でもすでに完成された演奏のようですので、是非歌い続けてください。
武 :この印象的な詩には、何人もの方が曲を付けていますが、この歌は特に最初の4小節の入り方が秀逸です。その後も言葉を生かした素直なメロディがいいですね。子どもたちもはいった演奏もすてきでした。ただ、この詩を曲にする難しさは「戦争は」から始まる部分です。これはなかなか難しいですが、少なくともどかーんは、声ではないほうが良いような気がします。戦争の重さを音にするのは難しいですね。私も直面している大きな課題です。
(24)999の会(大阪) 指揮/佐藤恵美子 ピアノ/安宅由実
「歌の神秘」(作詞・作曲/999の会 編曲/原田義雄)
木下:面白い着眼、いい詞だ。だがタイトルがよくない。たとえば「うたは いつも」位のほうがいいのでは?曲がスタコラと急いで通り過ぎるので、エンディングはやはり伸ばしたくなるのだが、あと2〜3行の詞をつけてコーダにして、8小節程たっぷりしたメロディで終わらせた方が良い。たとえば「うたよ ぼくらのうたよ 一人で悩む娘の胸に、さびしく暮らすあばあさんのふところに うたよとどけ」と言った具合に…。きっと傑作になるよ!演奏はちょいお粗末だったか…。
石黒:生れて初めての歌作り、お疲れ様でした。日頃歌っていても、なかなか考えないテーマに正面から取り組んで新鮮です。私もなぜ詞を書くのか考えずになんとなくやっているので、この切り口に清々しさを感じました。素直な歌詞ですが若干言葉足らずを感じます。3連、歌詞の前に「うたの翼が肩にとまれば」と入れてみたらどうでしょうか?(うたの)でなく(不思議な)もいいかと思いますが抽象的ですね。これからもがんばって創作してください。
大竹:「うた」の「う」は響きにくいので鳴りやすい音の高さで表現できるといいですね。掛け声はハッキリゆっくりになるようにしないと聞き取れないです。
黒坂:研究生らしい、爽やかな歌ですね。メロディもとても覚えやすい。この歌でみんながひとつになれるでしょう。ただちょっと同じリズムの繰り返しで、単調な感じです。もう少しメロディに変化があっても良いかなと思います。後半はもの凄いロングトーンにしてしまうとか。それとせっかく「うたってなんだろう?」と問いかけたのだから、もっともっと突き詰めて欲しいです。谷川俊太郎さんの「生きる」のように。たとえば、「うたって私かな?」「うたってあなたかな?」「うたって空かな?」「うたって愛かな?」「うたって産声かな?」「うたって平和かな?」とか。そうすれば、「歌えば楽しい」だけじゃなくて「歌えば歩ける」とか「歌えばやすらぐ」とか色んな言葉が出てくると思います。素敵なタイトルの歌ですので、さらに発展させて6番ぐらいまで創ってください。是非。
武 :歌ってなんだろう?これは私の問いでもあります。この壮大な問いを歌にするというアイディアがいいですね。前半と後半で変わる音楽のコントラストもいいと思います。良くまとまったいい歌です。ただ、欲を言えば、最初の2小節の「主題」が、音を変えても4回繰り返されるのは、ちょっと飽きる感が否めません。「いつもうたは」の部分、たとえば譜例4のようではいかがでしょうか?
(25)コーラスちばりよ〜沖縄(大阪) ピアノ/安宅由美
「希望のみちへ」(作詞/鬼崎良弘 作曲/会沢芽美 編曲/鬼崎良弘・北村光延 伴奏編曲/山下和子)
木下:琉球の旋法をつかってしっと落ち着いた良いうたになっている。リフレインの二行目の旋律が少しありきたりでおしい。別の手もありそうなきがする、検討してみてほしい。たとえば4段目の第1小節「おさなご」はシドシソしたい、1番2番とも言葉の抑揚が自然になる。4段目の最後、「うみも」をミレド、6段目第三小節3拍目「いのち」の「い」をレに。その先「かえってー」をミミレレーに、変えたらどうか。
石黒:実際に沖縄の連帯支援ツアーに参加されて多くの物を見、話を聞き、体験された人でなければ書けない気迫が伝わります。とりわけ3番、「押し寄せる波」は実際の波と全国からの連帯の波、両方に意味を持たせる豊かな表現です。1番で「あの」という言葉が多用されているのが気になります。
大竹:一番訴えたい箇所はどこなのかを明確にしてみてください。せっかくAメロを琉球音階にしたのに、その後にその流れが生かされていないのが気になりました。
黒坂:「青い空は」を彷彿とさせる、40年ほど前のうたごえの歌のようですね。このような曲想はすっかり姿を消してしまったようです。でもこれがうたごえです。これでしたらすぐに皆で歌えます。最近なくなってしまったこのような曲想の歌を創り続けてください。ただ、沖縄の旋律が生きているかどうかは疑問です。あえて沖縄ふうにしなくても良かったのでは?ちょっととってつけたようになってる感じもします。
武 :今もっとも大切な場所を守り闘う人たちへの壮大な賛歌ですね。良くできたいい歌です。ただ、前半が少し明るすぎるようにも思います。なじみやすい、覚えやすい平易なメロディで、果たして本当に沖縄の現実や悲しみの深さを歌えるのか、これは私の課題でもあります。また、沖縄の旋律を使うことの理由は何でしょうか?
(26)教育のうたごえ なごみーず(福島) ピアノ/佐藤香
「私の家」(作詞/細山啓子 作曲・編曲/佐藤香)
木下:ある切実さをもって福島の情況がうたわれて迫ってくるものがある。詞はタイトルにあるように「私の家」の昔と今の様子なのだが、本当の主題は「心をあの家に置いたまま」の苛立ちだろう。紹介コメントにあった「20ミリシーベルト以下だからと、援助うちきりの政府への怒り」をこそ歌いたかったのではとおもう。このうたは心にひびくものがあるが、本当のテーマにむかってもっともっと作り続けて欲しい、このうたの続きを…。わたしも立ち向かってゆくつもりです。だからタイトルも変えるべきかも?
石黒:一年間の被ばく限度が20msv以下―原発労働者並みの基準を押しつけて(一般人は1msv以下と国の基準があり、チェリノブイリでは5msv以上は強制移住対象)、帰還しないのは個人の勝手であるから支援はしないという、福島の人々の命と生活を無視した政府の横暴。この現状から発信された「遊んでいたわけじゃない」という言葉をかみしめたいです。核災にみまわれる前のシンプルに書かれた日常が後半の現在の家族の姿を際立たせています。当事者にしか表現できないものです。東北の震災、福島を忘れかけている人に、訴え続けていくことの大切さを痛感します。その人たちに「届く言葉」を書き続けて下さい。本作品最後の1行「私たち帰れない」はその前に家族の様子を書いているので十分に伝わっています、家の様子を、例えば「明りの灯らない私の家」のみたいな方が適切です。次回は家族とコロそれぞれの5年間を伝えてください、総論⇒各論です。
大竹:変化に富んだ曲になったと思います。「遊んでいた訳じゃない」の意味がわからなかったです。「帰れない」は和音が明るすぎて苦しみの表現に届いていないかもしれません。
黒坂:これは何かの組曲の一曲なのでしょうか?この後に続く歌はないのでしょうか?「帰れないの」ことばのあとに、何もないのでしょうか?だとしたら辛すぎます。せめて「今は帰れないけど、いつか」とか「帰れないけど心に家を建てる」とか、どうしても希望が欲しい。私たちは福島を励ましてきました。コンサートに何度も行かせていただきました。その中で、どうしようもなく大変な中で、わずかな希望の光を見いだそうともがいている福島の皆さんに励まされ、また支援に行こうと思いました。是非、これとセットの希望の歌を創ってください。
武 :福島のどこにでもある現実が歌になり、そのかなしみがひしひしと伝わってきます。置いてきたコロのところが一番切ないですね。その部分の音楽もうまくできていると思います。ただ、よくできすぎているというか、全体に音が美しすぎるような気もしました。たとえば最後の「私たち帰れない」は、もっと余韻の深く残るメロディやコードがないでしょうか。コードがないという終わり方もありますね。ユニゾンで音が消えて終わるとか。福島を発信できる貴重な方なので、更なるレベルアップとこれからの創作に期待します。
(27)港新婦人コスモスコーラス(東京) 指揮/酒井崇 ピアノ/町澤恵
「希望」(作詞/小澤アイ子 作曲/町澤恵)
木下:詞にはひとつの力があり曲もその良さをよく引き出している。前に聞いた時よりもその感をつよくもった。がやはり、もっと生活のなかからのことばがどこかに一行ほしい。そうしたらここにある美しい言葉はもっと力をもつにちがいない。
石黒:とても大きな視点で地球を俯瞰している歌詞、きれいにまとまっています。美しいのですが、全体的にリアリティーが感じられません、なにかこつんとひっかかる言葉が欲しいですね。
大竹:訴える力のある曲でした。せっかくステキなステージ配置だったのですが、あの配置の意味が生かせていないというか、何のためにあの配置にされたのか歌からは読み取れませんでした。指揮者は声を出さないほうがいいですね。
黒坂:なんとも哲学的な歌と感じました。一生懸命理解しようと努力しないと理解できない高尚さ。「なんの歌だろう?」と思いながら聞き続けました。そこへいきなり極端にリアリティアーのある言葉「原発」が飛び出してくる。殴られた気分でした。今回の作品の中で最も難解の歌と思います。でもこんな歌があっても良いと思います。「肩に負わされたマイナス 重すぎるけど ゼロへの坂道のぼって行こう」これだけでも名句だと思います。
武 :曲のあちこちに、「おっ」と思うような素敵な音の世界がちりばめられていて、いい歌ですね。作曲者のセンスのよさを感じます。原発いらないの繰り返しのところ、特にここがいいですね。詩も、これまでと立つ位置、視座がちょっと工夫されていて、とてもよい詩だと思います。
(28)群馬県教職員合唱団「こだま」(教育) ピアノ/長井学
「今日の給食なんだろう」(原詞/強矢朝子 作詞・作曲/井上八千代・斉藤峯子・強矢朝子
補作詞/藤村記一郎・長井学)
木下:素朴なうただが給食の仕事への気持ちがよく伝わってくる。願わくば、三小節目のメロディはこれでなくてもいいはず。他のうたのほうへ引っ張られそう。最後に短いコーダ「さあ今日もがんばろう!」の一節がほしい気もする。
石黒:おいしそうな献立がずらりと並びおなかが鳴るような歌詞です。こんなにも工夫して学校給食に取り組んでいるのですね。当節風に言えば「食育」の歌でしょうか。給食を食べる子供たちの顔が浮かんでくる楽しい歌に仕上がっています。3番の「ピーマンきらいだったよ」は「にがてだったよ」の方がよいのでは、きらいという断定的な言葉が随所に登場していますから別の表現を。もう一つ欲張ると、友達と一緒に食べている子どもたちの様子も知りたいです。
大竹:子どもらしい歌詞なのですが、メロディが大人のノリになっている感じがしました。子どもたちが歌うならばと想像してみてください。掛け声などがあっても良いかもしれません。
黒坂:給食の風景が良く現れていていいですね。ほのぼのと聞きました。できれば、何かリフレインがあればもっと1番から4番までリフレインを支柱のようにして歌が発展していくと感じました。
武 :良くまとまった、いい歌ができましたね。子どもたちと一緒に給食を食べている人しか書けない歌です。子どもたちも喜んで歌いそうですね。欲を言えば、もう1、2行歌詞があって、ちょっとだけ違った要素のメロディが入ると、もっといい歌になって「みんなの歌」でも取り上げられそうな気がします。(その必要もないかな)
(29)絹の道合唱団(東京) 指揮/入田元人 ピアノ/戸梶江吏子
「変えてゆこう」(作詞/名嘉司央里 作曲/金井信 改編/藤本洋・金井信)
木下:焦点のたたかいをさまざまな形で作品化するうえで、この取り組みも必要な活動だとおもう。演奏も団の力を発揮して迫力も抜群。あえて、気になる事をいえば、テーマのすばらしさに比して歌詞がかなり紋切り型で、概念語であること。きいていてすぐには伝わらない。詩はもう少しうたう詞として深められる努力がもとめられる。原詩の選定に無理があったかも?でも、歌詞の弱点を作曲がさまざまにフォローしているのはさすが。なお、エンデイングのフォルテシモは必要か?叫べば想いはとどくのか、それほど簡単ではないはず。さらにいろいろな所でうたって磨いてほしい。できれば、今の闘いの焦点に的を絞った創作を団の中でもぜひ取り組んでほしい!
石黒:名嘉司央里さんの詩、沖縄の過去と現在に真っ直ぐに向き合った若い人の言葉のすがしさ、胸打たれます。前に登場した「へいわってすてきだね」と同様に若者からの真摯なメッセージ。その平和のリレーをつないでいるのですね。
大竹:とても素晴らしい曲です。ソロから合唱の流れ、合唱の中での音の重ね方、キレイです。男声だけの動くところが聞き取りにくいので、その辺りがうまくいくと尚良いでしょう。
黒坂:大作ですね。作曲技術もとても高く、独唱も合唱も素晴らしい。でも立派すぎて少し引いてしまいました。もしかしたら、この詞は高校生が普通に読んだ方が意味が伝わるかも知れない。
武 :沖縄の心を歌い、希望の溢れる名嘉さんの詩と、合唱団の企画・演奏力、作曲者のこころと力量がハーモニーした、すばらしい名曲だと思います。全国の合唱団の皆さんでも歌いたいですね。
(30)ひまなスターズ(奈良) ギター/ダンディ今井 パーカッション/ジュリー川村 ハーモニカ/ジョイフルケイコ
「しんどいなんてゆうてられへん」(作詞/ダンディ今井 作曲/ジュリー川村 編曲/ひまなスターズ)
木下:けっこう切実な歌詞、ギターの調弦のせいか元気だが、かなりノンビリに聞こえる。時々調子のはずれもご愛嬌、これもこのグループの持ち味なのか妙に近親感があった。
石黒:目の前に立ちふさがるしんどい現実ストレートに書き、をコミカルに切り抜ける、中高年の応援歌。歌詞の力強さがいいです。面白いのは3番、「大学出たのに芸人めざして〜」最近若い人にとって芸人はあこがれの職業のひとつです、芸人の社会的地位が向上しているのです、でも親の年代ではトホホな状況なんですね。一つ一つのフレーズの表現をもう少し簡潔にするとキリリと締まります。言葉のブラッシUPをお勧めします。メンバーの名前が遊び心満点でどんな方が登場するのか楽しみにしていたのですが、案外まじめな(!?)お顔で演奏していましたね。
大竹:打楽器のリズムは変化が欲しいところです。メロとサビでリズム、ノリ、音域などが変わると良いでしょう。
黒坂:楽しいリアリティーのある歌詞。ぐんぐん胸に入ってきます。メロディも楽しいですがもうちょっと変化があるともっと楽しめると思います。少し同じメロディの繰り返しが多すぎるかも知れません。
武 :現実の厳しさや悲しさも乗り越えて、明るい明日に向かおうとするいい歌だと思います。毎年少しずつ歌つくりのちからが成長されているのがわかります。せやけど、の展開がうまいですね。
(31)Part Time(岩手) ギター/高屋修
「名もない人生」(作詞・作曲/高屋修 編曲/高屋修)
木下:とても良い声の女声のソロ、メロディラインはカンツオーネ風。伴奏のギターがフォークソングだったような、そんな落ち着きのなさで損をしたか…。自分のおやじさんにしては実感の薄いことばのように思う。「マイ
ウエイ」と違うのは書き手の生活から出た親父との関係が見えないからか。いいメロディだがこの詞とはやや違和感がわたしにはある。途中からはいる男の下声は要検討。
石黒:父母へのオマージュ。シンプルな言葉の中にご両親にたいする深い愛情と尊敬がこめられた歌詞。さりげないのですが、温か、とても好感がもてます。「組合ならばあったほうがいい」「戦争だけはやってはいけない」泣かせる言葉です。これは名もない私たちへの応援歌でもあります。
大竹:温かい歌ですね。「名もない人生」という響きが賛歌としてありなのか少し心に引っかかりました。とは言え、訴えたい内容はとても良くわかりました。メロディはあまり変化がない方がこの歌詞に合うのではと感じました。
黒坂:場面が見えてきて、涙が出てきそうになりながら聞きました。こんな歌を創っていただいた故人は幸せですね。せっかくなら3番も聞きたいと思いました。なぜ戦争だけはやってはいけないと言い切ったのか?どんな時「組合ならばあった方が良い」と言ったのか?この人はどんな思いで今の時代を見ていたのか?どんな言葉を残してあちらの世界に言ったのか?もっともっと聞きたくなりました。たとえ故人が口に出していなくても、高屋さんの想像で良いので、詞にして欲しかったです。是非、3番も4番も創ってください。
武 :演奏も歌もすばらしいです。私も今年父を亡くしたので、共感しながらうっとりと聴かせていただきました。お二人のハモりもけっして悪くはないのですが、できれば男性が上のほうが、より響きがいいと思います。(メロディという意味ではないです。実際には音は下ですが、幅が狭くなり響きがよくなるのです。あえて、そうではない世界を狙うのなら別です。)
(32)北の国から合唱団と北海道の仲間たち(北海道) 指揮/高畠賢 ピアノ/岩井沙織
「ばらをいちりん」(作詞/細野悦子 作曲/高畠賢)
木下:短くて言い過ぎずにバランスのよい秀作、小品だが中身の広がりは充分にある。フォルクローレの味だがわるくない。縦書きの詩の漢字は原詩の通りか気になる。
石黒:モノクロ画面に真っ赤なバラが一輪、そんな強い印象を残す歌詞ですね。多くの言葉を費やするよりも一輪のバラだけで語らせる手腕、秀逸な作品です。
大竹:素晴らしいです。ぐっときました。男女が一緒になるのは5小節目ではなく和音になる9小節目からの方がハッとすると思います。
黒坂:短いフレーズ、美しいメロディの中に必要な言葉をすべて載せて、心に迫ります。特に難しい和音を使うわけでもなくシンプルに表現しているのも憎いです。「百万本のバラ」より「一輪のバラ」の重さを教えてくれます。素晴らしい曲です。
武 :これはいい歌ですね。まず最初の2小節「バラを一りんください」がうまい。2行目で、あえて上に上らず、押さえ気味なのもいいですね。これはなかなかできないことです。全体の短さもいいです。俳句とか短歌の世界を思わせます。3番のわすれたくない、うたのために、はメロディラインをちょっと変えてもいいのではないでしょうか。
「砂漠の花」(作詞/細野悦子 作曲/熊谷和男)
木下:すてきなタイトルだが、砂のある種の象徴なのか、実在の花の名前か。メロディはきれいだが、うたの第三小節目でもう感傷的・諦めに似た無力感がただよう。そう思って詞を読むと「私の街」とはいうものの全部外から見ている。どこか遠くの砂漠の子ども達への同情しかないようによめる。思いを馳せるのは悪い事ではないが、この「私」は何才なのか?書き手はどこにいて何をしたいのか?彼らの代わりに嘆いてあげるのか?歌は情緒を押さえて趣ふかく終わっていて、なにかの映像のバックの作品だったらわかるが…。
石黒:シリアからヨーロッパに逃れてくる難民の長い列がこの作品に重なりました。作者の温かなまなざしを感じる歌詞です。歌詞全体が砂の色に覆われた印象があるのは作者の意図したところだと思いますが、子供たちの表情、声等が感じられるといいなと思います。タイトル「砂漠の花」と歌詞の中の「砂の花」はどう関連しているのか読み取れませんでした。
大竹:学校と笑顔、1番と2番で内容が違い過ぎないでしょうか。2番と3番の笑顔と平和のようなバランスを1番にも是非。
黒坂:悲しい歌ですね。確かにこれが現実なのかも知れません。でも聞く方としては自分の心の中の「砂漠」ともオーバーラップして、なんとか希望を見つけだしたい、と必死になります。どこかに希望がないのか?何度も詩を読み返しました。「砂の花」の「花」に気持ちを寄せようとしましたが、砂ですから崩れてしまいました。せめて「砂の花」を一輪で良いですから「生花」にならないでしょうか?又は、最後だけでも「明日という花だけはある」とか「あなたのエールが花として咲きました」とかで終わってくれないでしょうか?でも、この町(どこか特定はできませんが)では、本当に皆が皆、「絶望的」なのでしょうか?どうもそうでないように思うのですが…。人間は。
武 :ちょっと悲しすぎる、これが第一感でした。でもそれが現実なのですね。歌としては良くできています。まちかど、ふくかぜ、のところが詩も含めて私は特に好きです。
「うた」(作詞/札幌のうたごえの仲間有志 作曲/タテヤマユキ)
木下:長い歌詞に面白くメロディがついている、演奏もすてき。歌詞はシャンソン風に読むと、3、2、1の順番にならべた方が物語になりそう。タイトルも悪いわけではないが、おなじものがやたらと多い、「あなたと歌と…」にした方がいいかも。ただ、協奏のアコーディオンの使い方はもっと面白くしてほしい。今や、アコを使う団体は稀少なのだから。
石黒:まるでシャンソンの歌詞のようです、ゆったりとそれぞれの歌との出会いを語っています。言葉がいささか多めな個所もあるので少し剪定をお勧めです。
大竹:アカペラにはアコーディオンを重ねない方がアカペラの効果が出ると感じました。
黒坂:具体的な言葉で、まるで映画の場面を見るように物語が展開していき、しみじみと聞かせていただきました。「うた」に励まされて来た人々の気持ちをとても良く表現されています。いい「うた」です。
武 :詩とメロディ、それに作者たちの支えだった「あなた」への思いが、うまく溶け合っていると思います。「あなたはさきに」から「それはあなた」までのコードの流れがすてきですね。ただひとつ残念なのは、その方のことを思えばたくさん語りたい、というお気持ちもよくわかるのですが、歌としてはやや長すぎるかなと。外に発信をする歌とすれば、推敲の余地がありそうです。
「カジノいらない音頭」(作詞/苫小牧わたぼうし 作曲/長谷川好枝)
木下:この種の歌大歓迎!おおむね使えそうだが、三段目の後半が低いのはこの歌の趣旨に反する。せめてラドドラソラーあたりにして気勢をあげてほしい。はやし言葉は掛け合い等工夫しないと全く聞こえない。エンディングの旋律も上記の通りだが、その上にラミミレドレーを重ねて派手に終わりたい。いかがかな?
石黒:音頭と名前のついた作品は今回は「カジノいらない音頭」だけでしたね。元気になれます。「霧がはれたらよ〜」で始まる1番、苫小牧の雄大な景色が目に浮かんできますね。サビの部分は言葉がいささか固いのでもっとかみ砕いた言葉をあれこれ連呼するほうが効果的かもしれないです。
大竹:楽しそうなステージなのですが、申し訳ないくらい歌が全く聞こえてこなかったです。ラップ部分も工夫しないと聞き取れません。
黒坂:声高に「反対!」を叫ぶより、歌のほうがより人々に「そうだ!」と言わせる力がありますね。音頭にしたのがさらなる効果を呼んでいる感じがします。是非市民の間に広め、皆で歌ってカジノをくい止めてください。
武 :お年寄りから若者、こどもまで親近感のある、明るく元気な「音頭」に載せて思いを伝えるのはいいですね。たくさん歌って、「カジノなくても楽しいこの町」を発信してください。前半の「ことば」が聞き取りにくかったのが残念。
(33)緑高校PTAコーラス(愛知) 指揮/藤村記一郎 ピアノ/中村好江
「いのちをつなぐ」(原詞/丹羽記久子・丹羽優香理 作詞・作曲/緑高校PTAコーラス 編曲/藤村記一郎)
木下:実際のできごとからつむいだ詞らしくおもいがあふれている。曲もさりげないがとてもいい。ただ、ひとつ提案がある、1番の後半「あいがとう」からの母の部分はカットした方がいい。気持ちは解るが、くどすぎるより簡潔が良い。二番のうたで充分に伝わる。ご検討を!
石黒:母と娘の対話という形式で展開していきます、とても上手いです。タイトルにこめられた思いを十分に書き込んでいます。その分セリフは長すぎ、簡潔にした方が歌が生きてきます、無くてもいいと思いますが。
大竹:娘と母の会話という設定での舞台配置が面白いですね。音域も娘と母で変えた方が聞いていて会話がわかりやすくなるかもしれません。ピアノが大きかったのが気になりました。
黒坂:覚えやすいキレイなメロディに載せて、生活の詩を語る。情景が浮かんできます。清々しい、温かい風が心を駆け抜けます。いつまでも聞いていたい歌です。ただ、譜面を見ないと、この部分は誰が主語なんだ?と混乱してしまいます。そこがなんとかお客さんに伝えられたら、もっと良いのに、と思いました。
武 :母と娘のある日の会話が、そして母の深い思いが、大きく広がって歌のことばになり音になり、こうして発信されることはすばらしいですね。自然なメロディもすてきです。
(34)親と子のみどりの盛々合唱団(愛知) 指揮/藤村記一郎 ピアノ/広江さき
「今日 こそは!」(作詞/高木朋子 作曲/藤村記一郎)
木下:おもしろく楽しいのだが、自虐の心配をしないですむように、ユーモアにしたいよね。結局のところなにを云いたいのか、につきる。思いつきの裏や横にいいたいことがあるはずで、表現はいろいろでも本当のテーマをだんだん見つけていってください。
石黒:コミカルな作品、大いに共感しました。「今日こそは」という言葉のけなげさ!(男性はけなげと思わないかもね)。最後の「こんなわたしも わたしはすきよ」でおおらかな居直りを決めるとこも楽しいです。子どもにからかわれながら家族の要、お母さん。余談ですが、ラジオのフィットネスセンターのコマーシャルに、大急ぎで駆けてくるお母さんの姿に子どもが「ボヨ〜ン ボヨ〜ン」と声をかけると「お母さんに変な効果音つけるのはやめなさい」とお父さんにたしなめられる、というのがあります。何回聞いても笑ってしまいます。
大竹:楽しませていただきました。盛り上げるステージには持ってこいですね。真ん中の子どもさんの張り切りようが脳裏に焼き付いています。
黒坂:子ども達も一緒になってお母さんの「ブヨブヨ」を身振り手振りで歌ってしまう。実に楽しい演奏でした。でもすぐに終わってしまった。もっと聞きたいです。このお母さんはその後どうなったか?ダイエット成功したのか?しないのか?何度失敗したのか?簡単に「こんな私もスキよ」と諦めないで欲しい。「今日こそ」の次には「明日こそ」「いつかは」と入れてみたらどうでしょう。もっともっと歌詞を創って聞かせてください。
武 :楽しい歌!親子三代が登場する詩はなかなか新鮮ですし、「たるんたるん」とか「ぶよぶよ」といったことばが、ぴったり歌とあっています。なによりアレンジも含め構成がいいですね。最後の一行がこのうたを引締め、また聞いてみたいなと思わせます。
(35)2015西日本創作講習会・伊方原発見学ツアー隊(愛知) ギター/榊原あきひろ
「自然エネルギ讃歌〜伊方にて〜」(作詞・作曲/山口直子 編曲/榊原あきひろ)
木下:かなり自然な情景をきりとってあまり力む事無く原発への態度をうたっていてその努力はとてもいい。曲も一応まとまっていて使えるとおもう。ただ、5段目の二小節つづくソの音、気持ちは解るがやはり三拍にして。全音符をカットしたほうがいい。伴奏がなくても歌え、素人にも歌い易い。その段の最後の全音符の音はラに、6段目のはじめの二小節はそのまま三ド上げる。次の二小節「たいようのひかり」を「ラソファファ ファファ ファソラ」に変更。理由はフレーズを沈んだ表情にしたくはないから。そして、さっそく使ってみてほしい。使う中で次の作品が見えてくるはず。
石黒:伊方原発を見学した作者が一番に感じたことは、瀬戸内の美しい自然の中に突然現れる原発施設が不気味で異様だった、とのことです。その印象を作品に表現していますが直截に原発はいらないと言わず、豊かな自然エネルギーを活き活きと書くことでより強いメッセージが伝わります、力作です。タイトルが固いので再考を。
大竹:全編通して同じような動きになってしまいましたので、メロとサビでリズム感に変化を持たせると良いかもしれません。
黒坂:タイトルにビックリ。でも歌になったら瀬戸内ののどかな風景が広がってきました。このような形で原発に対峙するやり方もあるのだなあ、と感心して聞きました。ただ、歌詞に出てくる「エネルギー」という言葉がどうしても唐突に聞こえてしまったのは私だけでしょうか?たとえば「その力」とかではダメでしょうか?
武 :いい歌、いい演奏でした。その中でも私は詩が特に印象的です。味わい深いことばです。メロディも自然で歌いやすいです。一人でもみんなでも歌えますね。私が特に好きなのは「愛がふりそそぐ」で、音楽が4分音符でゆったりと動くところがうまいと思いました。以下、アドヴァイスというよりは個人的なつぶやきです。最高音がDですが、詩の後半の壮大な世界を表現するのに、もう少し上まで広げたいと思いました。エネルギーからあと、EかFまで拡がる音が考えられないでしょうか?私も作ってみました。ご笑覧ください。譜例5
(36)国鉄横浜うたう会とサポート隊(国鉄) 指揮/高田龍治 ピアノ/三好敬子 アコーディオン/内田與明
「もし あなたに出逢ってなかったら」(作詞/岡田 尚 作曲/たかだりゅうじ)
木下:詞の着眼はいい。けれど、「私に人生と云えるものが…」のように中高年のおばちゃんでも引っ張り込めるようなセンスの歌にしてほしい。だから二番の三行目は「たたかい」でなく「ともに働き」にでも。この歌で決定的に大事なのはリフレインだ。私の案は4段5段を必ず繰り返すメロディにする事。カッコ1の音をG音にすることでこの歌の味がやっとでてくる。短いのは賛成だが、1番だけでも気持ちを込められるようにすることがもっと大切、ダンチにいいうたになるはず。タイトルに「もし」はいらない。「あなたに出会ってしまったから」でも良いのでは?
石黒:弁護士人生の中で出会った人に感謝するという視点にまず心うたれます。人、人生に対する謙虚さが清々しいです。タイトルにもなっている、「もしあなたに出会っていなかったら」という言葉が多用されているので少し気になります。
大竹:この歌のキーワード「もし」が低い音で16分音符になっていることによって聞き取りにくくなってしまっています。もったいないです。サビに入る時に音の高さも和音も同じなのでサビに入った高揚感が感じられませんでした。何かしらの工夫を是非。
黒坂:もの凄い励ましを与えてくれる歌です。詩もメロディも素晴らしい。前半の16分音符の流れと後半のロングトーンが対照的で広がりを持たせてくれます。後半は何千に人という人で大合唱したら素晴らしいでしょうね。傑作です。
武 :アコーディオンの音色にぴったりの歌、音の世界ですね。後半のメロディが特に好きです。自然な流れなのに、心に深く響きます。この秘密を私も学びたいです。
(37)合唱団エガンスとその仲間たち(広島) 指揮/高田龍治 ピアノ/三好敬子 三線/松井瑞江
「ゆらり…沖縄の青い海」(作詞/三川浩子 作曲/たかだりゅうじ)
木下:奥行のある詞で柔らかく良いメロディだがもう一つ、きりっとしない。理由の一つは一貫して入るオブリガートの「シドソ」「ドシソ」「シラソ」の配置の混乱の故と思う。具体案はあるが、煩雑で書けない。ただ、効果なのだからある程度一貫した音型にして印象的につかうこと、いまのままでは邪魔になる。折角の詞、どこかに想いをこめられる芯のある節を探しだしてほしい。
石黒:キーワードは「ゆらり」、シンプルで広がりのある素敵な歌詞です。声高に叫ぶのではなく、ゆらりとリフレインすることで「青い海を守るぞ」という決意に昇華していきます、秀逸な作品。「島人の芽吹く生命の産湯だろうか」というフレーズが好きです。
大竹:Ah-は初回からではなく3番だけの方が良いかと思います。「ゆらり」とAh-が毎回Bbに落ち着いてくるのがくどくて辛いです。変化を付けてみてください。最後の和音も主和音ではない違う和音を探してみましょう。
黒坂:沖縄の海に抱かれたような歌、沖縄旋律も無理がなく、すんなりと入ってきます。もっとずっと聞いていたい曲です。5番ぐらいまであってもいいのでは?ただ「沖縄の人々の」という日本語の響きがよそよそしく気になります。「ウチナンチューの涙だろうか?」じゃダメでしょうか?もしできれば全て沖縄弁に変えたモノを聞きたいです。
武 :いい歌です。会場で聞いたときよりも、録音で何度も聴いて、自分で歌ってみて、そのよさが伝わってきました。最初の2小節「この青い海は」で、この歌つくりは既に成功しています。間奏部分のOhとAhの揺らめきあいが絶妙ですね。おおぜいでも、また何度でも歌いたい歌です。
(38)緒方一夫と仲間たち(広島) ギター/緒方一夫
「おいらの人生三分の一」(原詞/2007郵便のうたごえ創作会議 作詞/みのちゃん・緒方一夫 作曲/緒方一夫)
木下:職場の雰囲気が匂ってくるようで、曲の中間部で工夫も有りなかなか面白い。さて労働歌風の3拍子で久しぶりにお目にかかる感じ。3拍子は元々推進力があるのでスイスイと行ってしまう。特にこのうたのように同じようなリズムの運びだと、3番まで行っても思いの丈を出し切れないで単に嘆き節で終わる、感があるのではないか。コーダをつけて「1拍の休み、付点四部音符、8分音符」次の小節の頭「付点8分、16分、2分音符とタイで結ばれた付点2分音符」などでたっぷりした音を歌いきってほしい、そのメロディは作れる筈。この譜面の書き方は間違いではないが見づらい、1拍目の三連音符を普通の付点音符に書き、「3連音符のように」と曲頭に記すのが、一般的。(曲集のp106の楽譜冒頭にあるように)
石黒:作者も書いているように「三分の一」のキーワードを随所で効果的に表現しています。「おいら」という一人称は、深刻な現状を語っても「やられっぱなしじゃないよ」と顔をあげるしぶとさを感じさせます。3番、ソフトな言い回しに秘めた決意、「残りのおいらをかえしてよ」が決まっていますね。「ゆうメイト」なんて軽やかな言葉で本質を隠ぺいする敵はしたたかです、私たちも負けないよう言葉を鍛えなければなりませんね。
大竹:「もらう給料三分の一」の部分を歌の中でもう少し何度か主張しないと、三分の一の意味が伝わりにくいかもしれません。
黒坂:「三分の一」という言葉を支柱にして、面白く歌を作りあげ、契約社員の現状を訴えて下さっています。リアリティがあり、凄いプロテストソングですね。ただ、「もらう給料三分の一」の後にすぐに「彼女の笑顔も三分の一」と来たのにはドキッとさせられました。どの程度の関係の彼女か分かりませんが、まだそれが「女房の笑顔」とか「お袋の笑顔」とかなら、すんなり受け止められるのですが恋愛状態にある「彼女」だったら「三分の三」いや「三分の六」にならないかと思いました、たとえば「もらう給料は三分の一」でも、「彼女の笑顔だけが三分の六」というのは無理なのでしょうか?
武 :まず最初の口上がいいですね。この歌を聴く心構えができます。私もフリーターで20年近く生きてきたので、まさに年金は3分の一です。作者の怒り、嘆きはわかります。3番の「負けるわけにはいきません」からが、この歌にいのちを吹き込んでいると思います。
(39)どすこい(広島) ギター/栗栖慎一 ハーモニカ/二見伸吾
「ちむぐりさ -いまあなたと-」(作詞/どすこい 作曲/栗栖慎一)
木下:しっとりした琉球歌の風情で長さをわすれて聞かせてしまう、いいうただ。方言はなじむまで丁寧に説明してほしい。
石黒:沖縄の闘う友へのエール、沖縄の風を感じる完成度の高い作品です。ハイビスカスを仏桑華としたのはさすがです。ハイビスカスという言葉の持つドライ感はこの歌詞にはなじまないです。作品の随所にウチナーグチが登場しますが、なじんでいるのは作者が沖縄の言葉をよく咀嚼しているからです。言葉も十分に咀嚼しないと消化不良を起こします。
大竹:美しいメロディでしっとりと心に染み入る歌でした。最後、星マークの繰り返しはユニゾンではなくハーモニーにするとなお良いかと感じました。
黒坂:灰谷健次郎さんの小節「太陽の子」にも出てくる言葉ですね。同情でもなく、痛みを共に分け合うに近い素晴らしい言葉。それを見事に表現しています。メロディもシンプルで且つ新鮮。とても覚えやすい。最後の「どこからか聞こえる 見知らぬ友のエール」の一言で、沖縄との連帯を見事に表現しています。「ちむぐりさ」の言葉を日本中、世界中に広めたいですね。素晴らしい歌です。
武 :いい歌がうまれましたね。これまでの栗栖さんの作品の中でも一番印象的です。出だしのチムグリサの繰り返しがいいですが、その中でも「いま」の音の作り方が絶妙です。他の皆さんが推薦曲に選ぶ気がするので、私は遠慮しようかと思いましたが、やはり入れました1票。このうた歌い継ぎましょう。
(40)広島〜s(青年) 指揮/高田龍治 ピアノ/神辺真希
「広がれ世界に 憲法第9条」(作詞/廣島東竜・宇城昌里子 作曲/宇城昌里子)
木下:落ち着いたどくとくの風格、大事な言葉がやや下の音域で、いそがしく歌われるのがややつらいが演奏の工夫も有りおもいは良く届いてきた。詩の内容としては間違ってはいないが、世界によびかけるのなら、もう少し広い視野でかつての侵略戦争の側面にも想いを馳せた方が良いかもしれない。
石黒:今年のオリコンで唯一ラインナップされた9条の歌です。毎回どなたかが創作されている9条の歌、改憲を公然と口にしている安倍内閣、今9条を守ろうという気持ちを高める上でも大切な歌です。出だし「聞いてください世界の友よ」は戦火の止むことがない世界に発信していくという積極性が現れたフレーズです。9条に対する思いが高まるのに比例して言葉が増え説明的になります、言葉の剪定をお勧めです。「広がれ世界に」と表現するよりも、私たちのプライド9条を世界に広げよう、のような主体的な表現がいいように感じました。
大竹:楽譜と違う部分が何箇所かあったのが気になりました。広がれ、というタイトルのようにサビ部分をもっと盛り上げて広がる感じにできるといいですね。最後の手を挙げるポーズは男性は逆の手の方が美しいのではないでしょうか。
黒坂:憲法九条を守りたいという思いが強く伝わってきます。九条を守る集会で歌ったら盛り上がるでしょうね。ただ、「日本を守るには武器が必要だ」とか「九条なんて絵空事」と言っている人、そして多くの無関心の人たちに、ほんの少しで良いから「やっぱり九条は必要」と思ってもらえるような九条の歌、欲しいですね。
武 :初めの8小節が新鮮なメロディで印象深いです。広がれ世界に、からもとてもいいですね。歌い手作り手の皆さんの思いやねがいに私は100%共感をするものですが、音楽として課題に感じたことを2つ。中間部、16分音符の「語り」の部分が、この和音の世界の続きでいいのか?という疑問。(これは作り手でもある私自身への問いかけでもあります)たとえば音をとって、語りではいけないのか?和音をとるのはどうだろうか?次に、最後の「守るよ」の和音。これは普通ではなくて新鮮なのですが、この部分、この「守るよ!」にふさわしいか、という点。音楽がふわっと柔らかい(あたたかい)感じになってしまわないかと思うのですが、いかがでしょうか?
(41)チャレンジャーず(東京) ピアノ/峯崎道子
「創作構成『旅立つ前に』から『いいかもしれない』」(作詞/サッちゃん 作曲/平道江 編曲/青山義久)
木下:全体的にはかなり改善してきているようで、まことにごくろうさま。ただ。この自衛隊像は「古い!」と異論もでた。災害のときの信頼度は抜群で単にアザケル対象にするのはちがうという。これには私も兜をぬぐ、この指摘は受け止めた方が良い。石黒:自衛隊の特質というか特殊性を、軽く、しかしぎくりとさせる言葉でシンプルに表現しています。そういえば昔勤めていた職場には、大型免許が取れるから自衛隊に入っていたという運転手さんがいました。創作構成の中で、必然性のある表現だった推察します。自衛隊は、前身の警察予備隊として誕生した50年以来、武器を持った軍隊という性格は変わっていないのですが、震災時の復旧活動、とりわけ東北大震災以後、国民の自衛隊に対する見方は変化しています。若い人が自衛隊に志願する動機は災害時の活躍を念頭に置いたケースが多いようです。しかし安保法制成立で武器を携帯し海外に出ていくことが現実味をおびた今、自衛隊員の中でも複雑な思いがあるようです。次回創作される時にはこのような視点でも書くことをお勧めです。
「創作構成 『旅立つ前に』から『頬ずり』」(作詞/たいらもとむ作曲/三浦孝 編曲/青山義久)
木下:これを入れたのは賛成。いいと思う。ただ、国家権力の総動員、総戦力体制の中でのできごとで「おばあさんの個人責任ではない」ことをどこかでフォローしておきたいね。
石黒:創作構成の中で重要な位置を占めている作品だと思います。70年前の身を切るような辛さが伝わります。「いくな 〜 孫を渡さない」声を上げることのできる今、新たな誓いのような言葉が印象的です。
「創作構成『旅立つ前に』から『夢をすてないで』」(作詞/たいらもとむ 作曲/三浦孝
編曲/青山義久)
木下:これはタイトルが一番問題でないか。「平和憲法をもつ現実を守り発展させよう」というべきで、この詞の文脈で「夢をすてないで」はピントがずれている感がある。演奏は全体にしっかりうたってよかった。
石黒:街角の集会等でも歌いたい作品です。わかりやすい歌詞は覚えやすい歌詞でもあります。戦争と戦争につながる事象にNOをつきつける歌詞です、最後に「夢をすてないで」と結ぶのは飛躍がありすぎ、唐突に感じるのですが。
(3曲一括での講評)
大竹:全編見て聞いてみたいと思わせるステキなステージでした。戦争時の軍隊と現在の自衛隊の姿はここまで重ね合わさない方が良いかなとも感じました。「夢を捨てないで」のエンディングに向けてもう少し盛り上がれると更に良いでしょう。
黒坂:たぶんもっと長い「構成詩」からできていて、そのほんの一部をここで上演されたのだと思います。断片的では少々掴みにくいところがありました。ただ平和への思いが強く伝わって来ました。全てを聴いてみたい、と思いました。曲としては、今は亡き青山義久さんの、編曲が生きています。編曲が面白いので、誰だろう?と見たら、青山さん。青山さんの「どぶ川の歌」は名曲です。是非、歌ってください。
武 :力のこもった、大変な力作に対して、失礼な感想になることをお許し下さい。基本的な考えはもちろん共通だと思いますが、「いいかもしれない」は、音楽としては、アレンジも含めよくできているのですが、自衛隊員を揶揄するような感じがしてしまって、まずそこから音楽の中に入れないでいました。「ほおずり」は前奏から歌への入り方がいいですね。ただ、「いくな」以下は、この言葉にしては音楽が平和すぎる、美しすぎるのではないでしょうか?最後の「夢を捨てないで」これが一番好きです。Noからが特にいいと思います。細かい点ですが、自信をもって、の「っ」の処理の仕方、(私もいつも苦労していて、うまくはできないのですが)このままだと、「もーて」と聞こえてしまうので、再考の余地がありそうです。ともあれ、省略のない形で一度全曲を聴いてみたい組曲です。
(42)南部合唱団(東京) 指揮/鶴岡恵 ピアノ/北谷由美
「いつの日かきっと」(作詞/南部合唱団集団創作 作曲/小島啓介)
木下:歌詞にも曲にも合唱団の意欲と行動がみごとに実ったすばらしい演奏。創作としても特に「めぐみの土がはぎ取られる」など、現地の重いことばを発見してきた事など、称讃に値する。作曲も大前進。こじんまり纏めようとせず、全力でとりくんだことが曲のすみずみに溢れている。前作の「日航のたたかいの作品」からの集中力がもたらした成果だろうともう。「いつの日かきっと」と余韻をもって終わるのも現地とのしっかりした交流と団内の討議があってのことと推察する。しかし、これで終われないのも事実、現実は一段落はしていない。つぎにどんな行動を起こすか、団の活動方針でもあり、創作方針でもある。私個人は戦後史の勉強からはじめた。でないと的を絞れないと考えるから。がんばって前進してほしい。
石黒:実際に福島を訪問しなければ書けない歌詞ですね、構成も上手いです。請戸小学校、浪江の新聞店、本当にこの歌詞の通りでリアリティーを持っています。はぎとられた惠の大地が悲しいです。増え続けるフレコンバッグも。エンディングで「いつの日か きつと」といってその後に続く言葉をあえて書かなかったのは、現状の厳しさと直面されたからでしょう。でも私たちがその後の言葉をイメージできる終わり方です。
大竹:動きがあっていい曲作りをされています。CとDのOh—の部分をどう解釈すれば良いのかわかりませんでした。少し間延びしてしまう感があります。Pの部分は掛け合う、重ねる、などをするともっと主張が出やすいと思います。最後の和音が主和音なのはもったいないですね。
黒坂:果敢に「福島」に挑戦され、現地取材を行い、高度な合唱曲として完成させたエネルギーに感服します。福島の情景が映画のシーンの様に浮かび上がってきました。固有名詞を大胆に入れ込んだことも成功していると思います。ただ、リハーサルマークNからO、Pへの転換にちょっと違和感を持ちました。ここにどうしても何かが欲しい。悲惨な現実から希望へと転化させるものは一体何か?リハーサルマーク「O」をもう少し長くしてもいいので(勿論4小節でも良い)、そこに何か大切なものを入れて欲しい、みなさんでそれを必死に考え、追求して欲しい、そうしたら福島以外の方達をも励ます素晴らしい合唱曲になるでしょう。
武 :力作です。小島さん渾身の作品だと思います。和音の使い方もありきたりでなくて新鮮です。最初のすがすがしい旋律、CからDにかけての音の世界、Gでは胸に迫るものがあり、Jへの移り方もすばらしいです。(私も勉強になります)「恵みの土が剥ぎ取られている」は、ほんとうにその通り!このことばに歌もぴったりです。小島さんの心が伝わります。ただひとつ、そこまでの音楽に比して、終りのPからRが、やや平板な感じがするのは私だけでしょうか。特にふくしまの連呼は非常に微妙です。私にも問われていることですが、このへんはデリケートで難しいと感じています。
(43)埼玉合唱団(埼玉) ピアノ/加集希世子
「いつになったら」(原詞/大野悦子 作詞・作曲/大野悦子・藤原幸子 編曲/佐藤幸恵・藤村記一郎)
木下:現地での小さな観察眼がひかる詞で、さりげない言葉のなかに鋭い現実をとりだしている。曲もむりに歌い上げようとしない対処に好感を持つが、1ヶ所下から3段目の第二小節はC音に直したい。今のA音では現状を認めてしまうように思えるのだが、どうだろう。これを歌いそしてまた、つづきの作品に挑んでほしい。
石黒:この作品も実際に福島に行った作者がその場所で創作したもの。(42)の作品とは対照的にシンプルな言葉で語られています。美しい自然とその中にある「ここから先へは入れません」の立札、この相容れない状況が日常的に続き無反応になることに警鐘を鳴らしています。メリハリの弱い作品なので作者のハッキリした思いを書き加えることをお勧めします。
大竹:最初の散文詩のような歌詞、繋がりすぎていて散文している感じがしませんでした。「ここから先へは入れません」の部分はもっと毅然とした雰囲気と響きが欲しいです。
黒坂:「福島」に果敢に挑戦されて、詞もとても面白い。「さあどんな展開になるだろう?」と思ったのにすぐに終わってしまいました。2番、3番を是非、創ってください。もっと聴きたい。もっと浪江の情景を、もっと「人間をさえぎる言葉を」を表現してください。浪江を歌う責任として。そして最後にはやはり、どんなちいさな一歩でも「希望の一歩」を歌ってください。そうでないと、福島と同じようにどん底にいる子ども達がこの歌に出会ったら「一歩」を踏み出せません。それと、最初の4小節、すごくキレイなメロディなのになぜもっと使わないのだろう?勿体ない、とも思いました。遠慮せず自信を持って主題(テーマ)とした旋律はドンドン使った方が良いと思います。それと、悲しい場面を必ずしもマイナーで表さなくても、逆に詩の深刻さをメジャーで表現することにより、詩と曲が対峙しより言葉がより引き立つと言うこともあります。フォークシンガーの横井久美子さんが歌っているアイルランドの歌「私の愛した町」(フィル・コーター詞、曲)などはそのとても良い例です。戦車と銃剣を美しいメジャーのメロディで表現してより強く言葉を伝えます。是非、この歌「いつになったら」をさらに広げてください。
武 :短い曲の中が3つに分かれていて、それぞれの音楽が良くできています。特に22小節目からの展開が心に「ずん」と響きます。いい歌ですね。細かい点ですが、やぎの後の休符、22小節の衝撃の伏線としての、16小節からの柔らかなメロディもうまいです。欲を言えば終わり方、とってつけたような美しいことばは要らないですが、厳しい現実、一歩を踏み出せない現実の中からでも何か希望につながることばが一つ、最後にあるとうれしい気がしますが、いかがでしょうか?
(44)創作部企画3(2015西日本創作講習会好評曲)(全国)
「生命の海 瀬戸内海」(作詞・作曲/四国トレインズ 編曲/山本克子 補詩/藤村記一郎)
木下:一応まとまっているが、前半部分のリズムが同じように進行するので、どうしても間延びする感じになる。歌詞が整いすぎていると良く起こることでもある。このうたの性格からすると歌詞の長さはこの半分ほどにして全体を短くおぼえやすくして、できれば原発への想いをどこかに滲ませておきたい。
石黒:海は命を育むものだと改めて感じさせる作品です。瀬戸内海の風景の丹念な描写も無駄ながく適切です。サビの言葉がいいです。ふるさとに寄せる深い思いがたっぷり込められた作、愛媛うたごえ祭典でみんなに歌い交わされる作品になると思います。
大竹:24、25小節目のDm/G7 Cがくどく感じました。28、29とは違う方が良いのではないでしょうか。
黒坂:みんなで、瀬戸の美しい自然を歌い、そこに原発のことも織り込んで、心ひとつにする。うたごえの原点ですね。肩を組んで歌いたい気持ちになりました。
武 :ことばとメロディが自然で無理がなく、いい歌に仕上がっています。来年の祭典でも、大勢で歌いたいですね。前半の4行ですが、リズムも節も、フレーズの終わり方もほぼ同じスタイルなので、ヤヤ冗長感があるような気がします。一工夫何かないでしょうか?
エントリ−曲(楽譜からの感想)
以下、木下そんきさんによるエントリー曲への講評です。
「北国の四季」(作詞/金田一仁志 作曲/高畠賢)106頁
やさしい美しさもあり良い曲と思う。ただ、運動的に見てほかの作品を紹介したほうが…との判断で番外となった。
「この街で」(作詞/桑田康徳・高嶋弘・伊林みち子・高畠賢 作曲/高畠賢)108頁
これも安定した魅力に溢れている。歌詞にやや新味を欠いていることはある。
「絶対に平和」(作詞・作曲/骨髄バンクを支援するやまがたの会・鈴木裕子)109頁
骨髄バンクを支援するやまがたの会、とても面白い。断固としているのが良い。歌ってほしい。
「うたってゆこう」(作詞・作曲/文化集団このゆびとまれと山本忠生)110頁
楽譜ので出し、印刷ミス!音符ひとつ歌詞ひとつヌケ。やや習作の感がありまだ経験が欲しい。ただ、コーダになって「うたってゆこう」のくりかえしは同じような音型が望ましい。いまのでは似ていて微妙にちがっていて、その意味はなさそうだから…。
「底力」(作詞/十三与太郎 作曲/山田千賀子)111頁
いい着想の歌詞で、もう少しだけ攻め込んでほしかった。私なら二番は「こころのありよう」でなく「一人ひとりの小さい決意」三番は「たおやかさ」でなく「憲法にまかせっきりの安逸さ」えの反省なのだと思う。簡単ではないが、外に言葉を見繕うのではなく、本質にむかって努力してほしい。曲は悪くはないのだが…。
「永久の風船」(作詞・作曲/佐々木晶 編曲/池田忠久・佐々木晶)112頁
タイトルと歌詞の関連がとても判りにくい。歌詞にとりたてて不都合があるわけではないが、やや独り合点の感。曲は前段と後段のつりあいに少し不安定さが。
「いつもげんきに」(作詞・作曲/鈴木明男)113頁
健康センターのうたとして、おぼえやすくとても有益と思う。
「風の電話」(作詞/西川みえこ 作曲/一村好郎)115頁
メルヘンチックなタイトル。読み手にいろいろ想像させるのが魅力の歌詞かな。はじめの4小節にもどって、これがエンディングにもなる仕掛け。それはすてきだが、それにしてはもう少し幻想的な魅力がほしい、とわたしには思える。
「娘よ」(作詞/石原みゆき 作曲/鈴木幹夫)116頁
よくある話でとても面白い。歌詞にそれぞれ意味はあるのだが、こんなに長くなくてもいいはず。もっと短く、書き方もソングのように、短めに書いてほしい。そしてどこかに政府の福祉切り捨て政策への鋭い批判もひろってほしい。また書いて下さい。
「子どもの笑顔が見たいから」(原詩/強矢朝子 作詞・作曲/池田清美・田中けい子・福島千恵美 共作/藤村記一郎 編曲/長井学)118頁
仕事と暮らしのようすが見えてとてもいいが、やはり長い。これはこれで意味はあるが、結局だれに聞いてもらうのか、誰に歌ってもらうのかを突き詰めてゆくと「どうしても残したい言葉と、無くてもいい行が見付かるもの。書いてからまた煮詰めることから逃げないで、がんばればもっといいものがうまれるはず。次回もがんばって下さい。