1.     かとうまさよ(保育)                        ピアノ/小林康弘 

遥かな未来へ 作詞・作曲/かとうまさよ

石黒 保育の現場から生まれるべくして生まれた歌詞ですね。構成がしっかりしています。キーワードは“手”です、手の表情で作品を引っ張っていく秀作。歌詞を書く時、いかに対象をしっかり把握しているかが分かれ目ですがこの作品は良い意味でのお手本とも言えますね。タイトルは手に由来するものの方がいいように思いましたがどうでしょか?遥かな未来は少し抽象的かなと感じました。

 

大西 親子のテーマとして、新鮮で細やかな音の運びから作者の心情が読み取れます。良い歌です。リフレインの「あなたの遠い遥かな未来までも 私の手は届かないけど」がメロディも含めすばらしい。歌唱も聴く人を集中させ見事でした。メロディの1番、2番の書き分けは作者のこまやかな風情の表れと思いますが、例えば4小節目の「1 わたしはねがう」「2 あなたをまえに」は、どちらかに合わせ同じにするのはいかが。「わたし」と「あなた」を別メロディにしたい気持ちをわかった上でのことですが。「このままずっと」は、「大きくなーれ」の気持ちが底にあると思うのですが別のことばもあるのでは、と思いました。

全体評:詞・曲の統一感がすばらしい。演奏もよかった。

 

木下 わかりやすくやさしい詞、音も無理の無い自然な流れ、気持ちはとても伝わってくる。歌唱力も悪くないのに、もうひとつ味わいが薄いのは何故か?音域もかなり広いわりにそのほとんどは下のAからのオクターブだけの地味なメロディライン。後半やっと旋律が動き出したと思ったら、飛翔しきれずに終結。せめて、「やわらかな」以降をくりかえして1番とするのがいいか。後は、タイトルがやや固くて違和感もある。「とどかないけれど」のメロディ譜面が違うかも。

 

武  ことば、メロディ、和音それぞれがとても自然で、よくまとまっています。遠い昔に、私も母にこんな歌を歌ってもらったのだろうかと、思いをはせながら聞かせていただきました。随所に暖かさがにじみ出てくる歌ですね。メロディが和音を伴って書かれていったことが、例えば9小節を見るとよくわかります。このメロディのA#は、F#のコードを意識しないと書けないものです。一方、曲の課題とまでは言えないですが、あまりにもうまくまとまりすぎているので、印象が薄くなる点がちょっと残念でしょうか?

 

増田 作者のやさしさが伝わるあたたかい作

                D       F#m

1 笑顔になること〜                           1番    D    F#7

                D       F#m   は、前半の     このままずっと〜

2 この悲しみも〜                              2

と同じように、コードがF#7 となるようにしたらどうか?

 

2.     佐々木伸介(宮城)                         ピアノ/小林康弘 

大臣様の流行語2018 〜それほんとー?うーそだねー!〜 

作詞・作曲/佐々木伸介

石黒 今年も伸介節を聞くことができました! イントロの増田Cは面白かったです、しつこいおじさんですと真面目な顔で自己紹介したのが楽しかったです。総理のことを書きだしたら、ネタに不自由しませんね、それを取捨するのも大変な作業だったと思います。また時事ネタは鮮度が命ですからこれまた難しいですね。佐々木さんの言葉の奥にある怒りがしっかりと伝わった演奏でした。ぜひ入れてもらいたかったのは朝鮮半島の民族に対する戦後補償の問題です、次回お願いします。

 

大西 副題の「それーほんとー? うーそだね!」は、曲中にも「セリフ」で出てきますが、これこそメロディにしてもよかったか、と思います。多くの人がこの言葉をうたって参加する形式のものに出来るかと思いましたが。どのような形式にするか、ですね。

全体評:うたい伝えたい一曲。

 

木下 このところ、楽しみになってきたゴラク版。良く努力して考えられているわりに、演奏効果がでないのがとても残念。1番のあとお客に一声歌わせる「お囃子部分」までつくって即興参加をもとめるとか、ある部分はピアノ伴奏を全部やめ、いい声をナマで聴かせるなどまだ工夫の余地もありそう。(傍白、うた新で「娯楽版の募集しないかな」)

 

武  オリコンの定番の流行語シリーズ、今年も楽しませていただきました。歌唱も相変わらず素晴らしいですね。ただ、政治の悪さが原因とは言え、言いたいことが多すぎて、ちょっと冗長感が残ったのが残念でした。涙を呑んで歌詞は少し削ぎ、「あそりゃ、それほんと?うーそだねー、うーそだねー」のような繰り返しの部分を作り、それぞれの節がその部分で終わるような構成はできないでしょうか?ソロの部分と合唱の部分をつくるような感覚です。会衆もそこに来ると手拍子したり口ずさみたくなるような。

 

増田 「それーほんとー? うーそだねー!」 にメロディーを付け、2番、3番、各所で皆んなでうたえるような工夫をしたらどうか?

 

3.     北海道合唱団(北海道)                指揮/高畠賢 ピアノ/岩井沙織 

ある若い兵士の一生 作詞・作曲/高畠賢 編曲/高畠賢・佐藤幸恵

石黒 兵士が舞台に倒れている、という演出が効果的です。敬礼する姿もインパクトがありました。シリアの反政府軍の若者の姿をほうふつとさせる出だし。ストーリーが展開すると、えっ、これ隣に住んでたあの兄ちゃんじゃないの! 戦争はTVのニュースの中でしか知らないよという人たちへの強烈な一撃になります。

24歳の若者の、生まれてからこれまでを端折らずに順追って述べているので、いささか冗漫な印象はぬぐえないですが、力作であることは間違いありません。

 

大西 詞、曲共に完成度の高い作品。演奏、演出もよく作品を生かしていてよかったです。出だしの2小節、いわゆる「動機」の言葉の選び方、休止符の印象的な使い方に作者の力量を感じます。終りにもう一度登場し、長い物語をしっかりしめくくっています。ソロ曲も考えられますし、定形曲にもなると思いますが、どのような形を選ぶかは、作曲者の領分は言うまでもありませんが、その合唱団活動によるところも多いかと思います。誰のために何のために

全体評:随所に深い表現がありよい

 

木下 このような長い詞に取り組むには、それなりに強い動機と作品を最後まで持 続する推進力があったはずで、まずその核がどこにあるのか興味を持つ。譜面ではピアノ部分が無いのでその力関係は不明だが、出だしと終結部に短く印象的に、倒れた若い兵士の姿が描かれ,後はその若者の一生が語られるが、その視点は彼自身(セリフは一人称)になったり、第三者になったり一貫しない。おそらく作り手にその自覚はなく、「普通のありふれた人生が時の政府のサジ加減一つで悲惨な死に直結する恐怖」をたんたんと描きたかったのだろう、と推察するが、この長さと細部の羅列が必要だったのかは疑問。この手法はありうることだが、物語の起伏をささえる音楽に工夫が無いと、どうしても額縁(イントロと終結部)の世界でことを運ぶことになり単調さはまぬがれない。作者の成長は先が楽しみだが、自作詞には言葉への妥協がおこりやすく(私の自戒をこめて!)共通の目標のためにガップリ組合える作詩者と作品を仕上げてほしい。合唱編曲には経験の積み上げが伺え、和声も自然だが内容にそくしてもっと冒険もほしい。先輩たちの作品に学ぶこともありそうで、シャンソンの「兵士が戦争に行く時」のような手法もあるのだから

 

武  今回のオリコンで最も印象的な曲の一つでした。衝撃的だった七尾旅人の「兵士Aくんの歌」の合唱版、高畠さん版のような気もします。2年がかりで作ったとお聞きしましたが、細かいところも実によく考えられています。このように一つの曲に仕立てる方法と、34曲に分けるアイディアとがありそうですね。必要なら若干の校正をして、北海道合唱団だけではなく、他にもぜひ歌い広めてほしい歌です。

 

増田 長い曲の進行する中で、構成がしっかりしていて、話し(言葉)がしっかり伝わって来る。

 

4.     北の国から合唱団(北海道)              指揮/高畠賢 ピアノ/岩井沙織

 

あなたがいたから 作詞・作曲/高畠賢 編曲/高畠賢・佐藤幸恵

石黒 亡くなった仲間をしのび、思いを込めて作られた作品です。タイトルにもなっている「あなたがいたから」という言葉が幾度も、波のように繰り返され思いが深まりますね。「あなたは」演奏する人、受けとめる人それぞれのイマジネーションを掻き立てます。対象は仲間でも、また両親でも。

   同じ言葉を何度も繰り返して印象を深めていく手法は割と昔からあるのだと思います。思いつくのは芭蕉の俳句に松島を読んだ作品がありますね、17文字のうち12文字を松島にあてています。山村暮鳥という詩人の「風景」という詩(1915T4)は「いちめんのなのはな」を20回以上連呼していますが、本当に目の前に一面の菜の花畑が浮かんできます。近いところでは笠木透がアメリカ民謡に歌詞をつけた「青い海」でしょうか、これも青い海を連呼してますね。これらの作品はみな「名詞」を重ねることで、豊かさと鋭い切れ味を表現していますが、今回の作品は「あなたがいたから」という長いフレーズを重ねています。演奏で繰り返しの効果が発揮されて、言葉が立ち上がってきました。秀逸な作品です。

 

大西 良いうたです。あなたと私のテーマは、歌の永遠のテーマです。この言葉だけで一曲つくってしまう。これも才能。「平和と愛」は、うたごえのもつ大きなテーマですね。「愛のうた」良いですね。二人の愛は、決して二人だけのうたではないから。書きのこした言葉はありませんか?何か「一言」加えても良いか、と思いましたので、「私」は、ここで何を……

 

木下 単純で素朴な一行を充分に生かしておもしろい表情の作品に仕上げた秀作。演奏用にはすてきなハミングでもあとにつけたくなる。

 

武  誰にもそれぞれの「あなた」がいます。この曲の極端なシンプルさが、シンプルであるがために余白の広がりを生み出し、この歌の深さを醸成しているのではないでしょうか?名曲です。

 

増田 単純な詩ではあが、聴く人それぞれにいろんな「あなた」「ここ」が浮かび上がってくる。

 

5.     苫小牧うたごえサークルわたぼうし(北海道)  ピアノ/川上由美子 ギター/渡辺日郎

 

アイアールがやってくる?! 

作詞/苫小牧うたごえサークルわたぼうし 作曲・編曲/長谷川好枝

石黒 近頃外国語、特に英語の頭文字で表現する言葉が増殖していますね。鉄道はJR、私が住んでいるのはUR、みなさんIRの意味を正しく知っているのかしらん。そんな思いをこの歌詞は要領よく説明してくれています。こういう歌はキレが一番ですね。4番と5番が類型的なように思います、一つにまとめた方がきりっとします。演奏時、楽譜の背中はスローガンを書いたバナーになっていましたね、効果的でした。小さなことですが演奏に演出は大切ですね。

 

大西 カジノ反対です。自然も家庭も国も破壊するカジノ。この詞の通り、ですね。います必要なうたです。「曲想」はどうか。今回は明るく、軽快的まとめました。これでもよいのですが、「カモになるのは わたしたち」このフレーズ、各番共通ですから、この心境をもっと印象的なフレーズにしてみませんか。考えた末ここに到達したなら、あえて、というわけではありませんが。

 

木下 この種の判り易い、マンガタッチのうたがもっと欲しいこのところの政治屋さん。はじめの4行とそのあとの二行の繋げ方がとても気になる。言葉として判るだけに、その選び方、繋ぎ方をもう一工夫してほしい。たとえばだが「鴨になるのは ごめんよね」でもつながると思うが

 

武  多くの人たちに、まもなくきたり来るカジノの黒雲、私たちの新しい課題を知らしめる宣伝の歌として、よくできていますね。カモにならないように、悲劇を生みださないように、甘い罠のその裏の仕組みを暴いて、歌っていきたいです。

 

増田アイアール、許せない!カモになるのは、私たち

 

6.     函館トロイカ合唱団(北海道)                    ピアノ/作道幸枝

 

大間原発大間違い 作詞/M武田 作曲/K武田 改編/藤村・中坪・堀口

石黒 掛詞も混ぜ、リズムにのせた作品です。すでに色々な場所で演奏されているのでしょう、とてもこなれていました。福島第一原発事故から早8年、エネルギー源としての原発は世界的には破綻しているのに、我が政府は時代に逆行して原発稼働を進めています。地域から原発に反対する作品が生まれることの大切さをこの作品は教えてくれます。各連に書かれた町の表情がリアリティーがあっていいです。

       海を隔てた青森の「アサコハウス」の話は以前から聞いていましたが、これをテーマにした歌もできるといいですね。

 

大西 「おおま げんぱつ」/「おおま ちがい」 の発想、着想が歌の構成を決定したこと。うたいたいテーマをどう歌にするか、着想をどう形にするか、作品構成上成功作品といえると思います。M武田さんの今後に期待します。

全体評:演奏は活動の反映ともききとれました。

 

木下 これはタイトルの面白さがすべて。歌詞の前半と後半のタッチの違いを演奏でおもしろく聴かせる工夫が必要か。ただし、次の作品を生み出す努力もほしい。

 

武  軽快なサンバのリズムに乗って、原発反対の叫びを明るく爽やかに歌ったところがいいです。前半の16小節の、音域が4度の中での動きと、大間原発からの伸びやかな音の展開とのコントラストが実にうまいです。感心しました。「古い町並み」でのFのコードの使い方もとても参考になります。このコードによって、狭い音域での16小節を生き生きとつないで飽きさせないのです。絶対絶対NO!のメロディも良くできています。タイトル、またいかが怒っているところも思わずニヤッとします。座布団ですね。

 

増田 1番〜3番まで前半の大間の町の風景と後半の原発反対の思いがあいまって、素朴でもあたたかい作品となっていると感じた。サビの「マグロもイカもいかっている」シャレを使って面白い表現と思われたのだろうが、どんなもんだろうか?(3回もつづくと……)

 

7.     はじめの一歩(愛知)                       ピアノ/尾関記久子

 

ははうた 作詞/高橋雅子 作曲/尾関記久子

石黒 子守歌です。短いフレーズで自分、娘、孫の世界を描き切っています。2番は特に印象深い連です、雪の朝の情景まで見えてきます、「娘はとても誇らしげだった」という歌詞は短い言葉の中に深い思いを込めて素敵です。タイトルも面白いです。ここで言う“はは”は自分であり、娘であるという構成です。できれば娘に対する思いがもう一言欲しいところです。演奏に少し元気がなかったのが残念でした。

 

大西 タイトル「ははうた」。考えましたね。この歌の出だしは日本の古いうたを基に全曲の構成の大きな部分をしめています。休止符も音楽ですね。手で拍子をとってる感じがまずうかびます。5小節目の第一音だけ変化がほしかったのですね。寝る=休止符、が曲を育て大きい心にさせているように感じます。メロディは「あなたの笑顔は世界一」のところが特に良いと思いました。現代の生活感があたらしい生活感を感じます。

 

木下 うたも、演奏も可憐な ういういしい感じ。ピアノもふくめ ひかえめで 気持ちがとどいてくる。曲としては どこかに ,ピアノのパートでもいいが、こころに染み入る美しいメロディがほしいな

 

武  ははうたというタイトル、休符をうまく使った音楽のなりたちも、新味があって良い素材だなあと思いました。ただ、それをやや生かしきれなかったか、という気もします。このままでも、アレンジや歌い方次第で、もう少し豊かな歌になりそうな気がしますが、例えばもう少しゆったり動くような、別の音素材を加味するアイディアもありそうです。元気に育ての部分など。

 

増田 ねんねん ねんねん おころりよ〜 ねんねん ねんねん おころりよ〜 のメロディから次への変化がほしい。

 

8.     国鉄かあさん合唱団つゆくさ(全国)                 ピアノ/堀井泉

 

海明けのうた 

原詞/澤田裟誉子 作曲/佐々木伸介・佐藤幸恵・高瀬久仁子 補作/国鉄母さん合唱団つゆ草

石黒 なんといってもタイトルが素敵です、歌詞の世界を一言で表現、伝えています。イメージを高める魅力的な歌詞が満載ですね、しかし欲張りすぎているので全体の印象がかえって希薄になってしまいます、力を持った言葉が自己主張しあうとでもいうのでしょうか、もったいない。もう少し言葉の整理をしてください。書きなれている方でも原点に立ち返り、起承転結を頭の片隅において、再構成することも大切だと思います。

 

大西 「どんなに遠く離れても 心でつなぐレールがある」このフレーズの発見がすばらしい。18小節までの各フレーズのまとめ方は独想(ママ)的で個性的。19小節〜22小節までの変化がきいています。メロディー構成上の点から

) 動機と発展は、ことばのアクセントを主にしたメロディーラインですね。

) 1音動かすと全体がかわるものですが、出だしの「かもめむれとび」「つかのまのなつ」は、どちらかに統一しても良いかと思います。また、「かもめ む」「む」から一音上げてもよいなど、この2点だけでも何通りもあります。次作の参考に。

全体評:フィナーレも演奏、盛り上がり、感動が伝わりました。

 

木下 人数の割にしっかり声が出て迫力充分の演奏。歌詞はやや一般的な情景で,後半の決意らしいものとのつながりはやや不十分だが、演奏の集中力を評価する。作品が成長するためには いい演奏がかかせないのだ。

 

武  タイトルがいいですね。若い日に釧網本線の窓から見たオホーツクの海の青さが目に浮かびました。

どんなに遠く、の部分と、北と南に、の部分のメロディが好きです。心でつなぐ、のFコードの使い方もうまいですね。これ以外にはないというような、ぴったりとした和音です。一方、例えば「こどもたち」から「白い手袋」までの3小節全部がDコードというのは、色あいが乏しいか。家族のいとなみからこわされて、までも同様です。もう一工夫!あと、個人的な好みもありますが、Cm6からD7へのコードのつながりにはやや違和感を感じます。それはさておき、流氷とお花畑を包んで走るような美しい鉄路を残してほしいですね。

 

増田 母さん合唱団だから仕方なかなとは思うけれど、女だけではなく、もっと男がいたらなと思う。きれいなメロディの思いのこもった曲。

 

9.     南部合唱団(東京)                         ギター/竹岡敏雄 

品川を守ろう 作詞/南部合唱団集団創作 作曲/小島啓介・大井かつ江

石黒 反対集会でもすぐにみんなが歌える、シンプルで説得力ある歌詞です。東京タワーが「333メートル」としたのは具体的でよく分かります、効果的な使い方です。これと同じ意味において「引きっ切りなしに」を数値化できないでしょうか?5分に一機とか。「轟音騒音ひどすぎる」はテレビの音も聞こえない、電話の声も聞こえない、のようなリアリティーある表現にした方が伝わりやすいと思います。品川の町の魅が「静かな町 豊かな町」ではちょっとつまらないですね、品川らしさを伝える言葉ありませんか?

 

大西 知ったこと、知らせてこのテーマを共有したい、この着想が出だしで言えていて、よいと思いました。強く印象づけられました。333メートルは耳に残りました。リズム設定がよかった。メロディ以外でこのように印象づけるのはむずかしい中でのこと。テーマ問題をすかさず、みのがさず、作品化した創作姿勢がとてもよいです。じっくりきかせるフレーズもほしい。全体がシュプレヒコール的

全体評:作品と演奏が一つで良かったです。

 

木下 街頭での宣伝行動にうってつけの作品。問題点をわかりやすく並べたてシュップレッヒコールの連続。演奏は要心しないと疲れそう。詞の最後の2行「私たちが暮らす町」などが良いかも。いきなり「静かな」につながるのは違和感も残るので

 

武  東京タワーの高さから歌が始まること、Shoutを入れるところ、どちらもアイディアが大成功ですね。「なるほどそうなのか!」と私も初めて知ることができました。このようなはっきりしたテーマを、無駄ななく表わした歌は存在の価値が高いです。ギターでは難しいですが(ピアノなら可能か)飛行機の轟音を思わせるような伴奏部分があっても良かったか。タイトル、品川を守ろうでは何の曲かわからないので「低空飛行はやめろ!」とか、「東京タワーより低く」では?

 

増田 東京タワーは品川ではないですよね!もっともっと品川の良いところ、我々の知らない素晴らしい状況、景色、なども取り込む中でそれを守ろうという思いが聴者に伝わるのではないかな?

 

10.  名古屋青年合唱団うたの学校102(愛知)    指揮/浜島康弘 ピアノ/武藤佳子

 

ホタルとの約束 作詞・作曲/水谷栄三

石黒:恒例の合宿でホタルとの出会いを喜ぶ作者の気持ちが素直に表現されています。簡潔な言葉が効果的です。いい年をした大人が「あっホタル!」と単純に喜んでいるわけではないのです。ホタルとの約束「来年も会いに来る」という極めて単純なことですが、来年をまた迎えるためには、何より自分と家族が健康でなければならない、歌のモチベーションも持ち続けなければならない、何より世の中が平和でなければならない。若者がじゃまた来年ねと軽く手をふるのとはだんちに違います。2番「毎年今しか会えないあなた」は「年に一度しか会えないあなた」のほうがすっきりしませんか?(愛知の創作発表時の講評流用)

 

大西 作者の持つ「大衆性」が、短いけれどしっかりした作曲に仕上がっていて、良かったです。小品で音の数が少ないだけに、どの音を動かすか、さらに研究してみて下さい。

   3小節目 動いているのは、も  ですね。逆の発想だってありですね。短い曲だから動かす音に心に問うてみて下さい。

詞では、2行目、「はげしい雨」ですが、ホタルの季節は、しとしと雨です。あなたが訪れた日はたまたま異常気象のはげしい雨でしたか?

全体評:いのちのうた

 

木下 素朴な味をそのままに大事に育てたメロディ。10小節からの4小節を一番も繰り返して音楽を定着させたい。2番では、繰り返していたがその1回目(to codaの小節)をG音でなくH音に変更。繰り返し時に譜面とおりG音にする。ピアノは控えめで悪くはないがもう少し表情的なものもあっていい。

武  名古屋で聞いたときから、この歌に心をつかまれてしまったようです。いい歌ですね。この世界好きです。前にも書いたかもしれませんが、「ひとすじのひかり」ここが何ともすてきです。伴奏も工夫されましたね。本筋ではないですが、歌がいまいちだったのがすこし残念。

 

増田 四七ヌキのメロディーがやさしい。「あなた」の言葉、ホタルであったり誰かであったりとうたを聴きながら、その場の情景が絵になってうかんで来る。

 

11.  さかちゃんとアラフィフの仲間たち(大阪) ピアノ/南村知佐恵 ギター/榊原あきひろ 

50 作詞/おとくら史明 補作詞・作曲/榊原あきひろ

石黒 人生100年時代、50歳はちょうど折り返しの地点ですね。この地点に立った時人はどんな気持ちになるんでしょう。作者はじつにポジティブな人です、叶わなかった夢もあるけれど明日の希望を信じています。人生をこのようにとらえるのは大切なことだと思います。自分の周囲半径5mくらいの世界を飄々と歌にするのも時には必要ですね。ちなみに私の50歳地点での思いは、仕事が益々きびしくなるなぁ〜 親の介護がありそうだあなぁ、みたいなネガティブなものでした、希望なんて何も考えつかなかったです。

 

大西 今までに聞いたことがなかった歌、50歳、作詞のおとくらさんの思いはきく人にそれぞれの人生をみつめるうたとなります。作曲も細部までよいですね。いろんな〜のところ演奏もgoodでしたね。

全体評:とてもよかったです。

 

木下 歌い手はなかなか見事でよくまとめている。50才の誕生日には使えるかもしれないが、ふつう、忙しい世の中この思いにお付き合いする時間はなさそう。

 

武  しみじみと心に響くいい歌ですね。サビの「もう五十歳なんだなあ〜、まだ〜」のメロディがこの歌詞にぴったりです。すぐに覚え、私も思わず口ずさんでいました。なるほど50歳、私もそうだったかなあとは思いますが、50歳が遠い昔になったものにとって、共感度が今一つ薄くなるのは仕方がないか。もう一点、全体に歌詞もメロディも「もう50歳」の回顧しみじみの色合いが強い気がするのですが、それはそれとして「まだまだ50歳、これからだよ!」というエネルギーがもっとあふれ出てくると、さらにいい歌になりそうです。

 

増田 50歳という言葉だけ、やけに強く伝わる。もう少し工夫して欲しい。

 

12.  市民合唱団Peace Call(教育)          ピアノ/南村知佐恵 ギター/宮崎悟

 

最後の卒業式 作詞・作曲/前田光男 

石黒 MCを巻頭にもってきた方がよかったかなと思います。この歌詞のもつ重さを受け止める気持ちが整います。卒業する生徒にとって卒業式はおしなべて最後のものなのですが「僕らで最後の卒業式」にはドキッとします。2番の「後輩のいない〜響いている」は切ないですね。言葉が精査されて無駄がないので一行に重みがあります、説得力ありです。卒業式に桜ではなくてたんぽぽを持ってきたのがリアリティーがあっていいですね。

大西 最初の8小節のもつ楽想が良いですね。イメージが広がり、次の言葉を待つ気持ちも持たせてくれます。「無駄な音がない」これはすばらしいことです。音の動きの方向と受け方にさらにご研究を。作者の気持がメロディにあると感じられてよい。

全体評:作者の人間性まで感じられます。

 

木下 子どもの少子化で各地の町まちで学校の廃校や統合がおこり、地域の様子がどんどん変化する。その問題を敏感にとらえた佳作。この地域の実情はわからないが、この事実をどう捕らえどう歌うのか、歌の主人公を「最後の卒業生」にするのか、「校舎」にするのか、かなり広がりの違うものになりそう。次はそんな視野も持って望みたいもの。

 

武  私の子どもたちが通った山奥の小さな小中学校も廃校の危機といつも向き合っていますから、小中学校の統廃合のことにはずっと関心がありましたが、高校でもそうなんだな!とこの歌で気づかせていただきました。ただ、文化祭やたんぽぽや体育館だけではない高校生しかない現実があるはずで、その「なにか」があると、学校を残したい気持ちがさらに強く迫るのではないかと思いました。曲はしみじみとした親しみやすい良いメロディですね。

 

増田 なぜ教育委員会は「学校をつぶす」と言っているのか?なぜ「学校をつぶさないで」と声を上げて

いるのか?詩の中にもっともっと織り込んで欲しい。聴者に伝わる内容の言葉!

 

13.  白鷹うたう会(山形

                                  

北山夫婦そば 作詞/金田茂也・ろくろべ 作曲/ろくろべ 編曲/小林康浩

石黒 タイトルからもう演歌の世界ですね。コマーシャルソングでもあります。オリコンにこういう歌でエントリーする心意気がいいですね。演奏が少し残念、もう少し元気よく朗々と演奏して欲しかったです。3番「半割丸太のテーブル 〜」がうまい、目に浮かぶようです、味のある言葉です。ちゃらいグルメ番組では絶対取り上げて欲しくない隠れそばです。

 

大西 良いうたができました。「うたごえ」の創作の源泉は、「たたかい」と共に、「働くうた」、「くらしのうた」ですね。これを機会にこの視点でまわりのくらし、働く人のことをもっとつくって下さい。今、人はどこでどんな思いで生活し働いているか、「うたごえの目」で書いて下さい。

 

木下 民謡風のいいうただ。2部合唱にしていたが、かなりあやしい演奏で旋律だけでも充分いい。歌詞をみるといわくありそうなそばやさんだが、どうぞ持ち歌に。

 

武  この歌を聴く人はみな北山夫婦そばを食べたくなります。生まれてからの歴史や店の様子も歌の中に短くうまくまとまりました。メロディにそれほど新味はないのですが、サイドカー、ツーリング、半割丸太、全国行脚(ここはメロディがほとんど隠れてしまいましたが)といった新鮮なことばが、このメロディにうまく乗ったのも成功でした。今年は私も行って食べてみたいです。

増田 カラオケ伴奏だったためなのか、うまく合っていなかった生伴奏で聴いてみたい。田舎の風情がしみ出てくる、あたたかさのある作品だが、そば屋さんの状況だけをうたにするのではなく、そばの味、そばを作る人のやさしさ、あたたかさも店の味となるのだろう。そんな言葉を折り込んではどうだろう?

 

14.  ヤネコシンガーズ(京都

                                    

あ〜恋がしたい 作詞・作曲・編曲/ヤネコシンガーズ

石黒 講評委員の間で話題になりましたよ。古希過ぎても恋がしたいか、というテーマが。元気で体力があるからそんな気分になれるんだろうねという意見が多かったですが。そういえば新聞の人生相談で「私は60代ですがグランドゴルフで会う女性に恋してます、変ですか?」というのがあり上野千鶴子さんが「変ではないです、恋することで元気になれれば最高」と答えてましたね。輝くための方法は幾つかあるけれど恋は手近です、60過ぎたら何をいっても恥ずかしくないという図々しさも見え隠れします。

   ヤネコシンガーズのクスッと笑えるユーモア路線の創作はいつも楽しみですが、いつも言葉が欲張りすぎの傾向にありますね、今回もぜひ言葉の整理を。

 

大西 ギター、リコーダーを混じえ、たのしい明るい演奏でした。人間を愛し、平和を愛する「うたごえ人間」集団ですね。うたごえのテーマは、平和と愛と友情ですね。創作過程ではきっと笑いが多かったのではないでしょうか。そんな創作風景を思いうかべてききました。コント風な感じが良いかと思いました。

 

木下 うたは、殆どが女声がうたい,男声は「それはもう恋」と囃すだけ。その仕掛けは不明だが、表現の自由はあるとしても、こんな本音を聴かされても、ねえ

 

武  明るさと元気にあふれる歌ですね。恋がしたい思いに私も共感はしますが、こんなに直接的に歌われると、あっけにとられます。この発想で、別の切り口はないでしょうか?連れ合いがいて孫が3人いて、今の暮らしに不満がないなら、もうそれで十分お幸せのような気がしますが。メロディがほとんど和声内の音(CコードならCEGFならFAC)でできていて、それはそれで一つの世界ですが、音楽の深さを求めるのならば、それだけではない作り方(コードは例えばCであっても、他の音も使ってみる)も研究されると、次のステップへ続く、もっと良いものが生まれる気がします。

 

増田 みんな二十歳の頃だけど意味が伝わらない、わからない。恋がしたいのだけでいいのか?他にしたいことを具体的にうたうことが恋。

 

15.  Aoiファミリー with E(京都)        指揮/富森琢也 アコーディオン/木戸史 

守りたい 原詞/「京都民医連看護部アピール」より 編詩・作曲/富森琢也

石黒 看護の現場に立つ人ならではの作品です。シンプルですが力のある言葉が立ち上がって来ます。フレーズに「憲法変えないで」「何もあきらめないで」と表現していますが第三者的、もっとストレートに「変えない」「あきらめない」とはならないでしょうか?第3連は患者さんの具体的な姿が少し書かれてオリジナリティーを感じます、「強い願」いとは具体的になんでしょう?リアルな姿をもう少し書いて欲しいところです。

大西 大切な内容の詞。@A番形式と新しい形の後半部で構成され、しっかりとした形がよかったです。「届かないその声を私たちは届けよう」が中心です。

イ「とどかない」+ロ「そのこえを」+ハ「わたしたちはとどけよう」

ここをどうつくるかを考えてみますと 弱拍から入って  「と| かな | こえ を」を次にも続けてみてはどうでしょうか。

|たし たち | けよ う」そうすると、現在の、「よう」が最高音になっている音形が 「とどけよう」が美しくもり上る形も考えられるのではないでしょうか。

 

木下 とても、真面目な詞にマジメにとりくまれた作品。歌っている事はしごくもっともで大賛成! しかし、音は歌詞にそって丁寧なのに、メロディの印象が薄く想いが迫って来ない。「この詞の重点をどこにおいてどう歌いあげ 聴き手にとどけるのか」そのポイントを見つけ出して光をあててほしい。二連の出だし「何もあきらめないで」や四連「届かないその声をとどけよう」などの詞の流れも不自然な所も多く、完成前にみんなの意見も聞いてみたのかどうか?言葉の選び方でもっと流れがよくなると思うが

 

武  現場で働かれる方でなければ生まれないような、貴重なことばがあふれています。みんなで歌い継がれるようないい歌になりそうです。でもこのままだと、なぜか歌としての印象が薄いのです。残念です。再吟味して、ぜひより良い歌に仕上げてほしいと願うので、以下はそのための一言です。また、一つの案を考えてみました。(譜例:次ページ)参考にしてみてください。

➀ 全体の統一感がない。メロディの素材がたくさん出てくるのですが、どれもみな悪くないのですが、みな新しい要素で、全体としてのまとまりがないのです。このメロディ素材を少なくとも半分に削ってみませんか。例えば頭の「いのち守りたい」このメロディはよくできているので、繰り返しだけではなくて、別のところでも使いたいです。譜例参照

A 13小節から16小節は1小節余分ではないか?譜例参照

B だから憲法以下も、このメロディ素材を使えないか?譜例参照

 


増田 くり返し部分  家族と平和を〜 守りたい の「守りたい」のぶぶん、言葉とメロディーのアク

        セントに違和感。最後にもう一回くり返し部分をうたったら〜?

 

16.  洛北青年合唱団(京都)            指揮/富森琢也 アコーディオン/木戸史

 

ありがとう きみたち

原詩/佐藤朋哉 作詞/佐藤朋哉・木戸史 作曲/小林央絵・清水和子 編曲/富森琢也

石黒 人は人との関係によって大きく変わっていける、そんな瑞々しい気持ちが伝わってくる作品です。1,2番は具体的な情景が浮かんでくるようで素敵です。しかし歌詞が散文的です、言葉の整理をしてください。もっとスキッとすると説得力が増しますよ。「石の地蔵さん」という表現には面白みがありいいですね、地蔵さんからみんなの先生に変身した様子をもう少し知りたいです。

 

大西 詞は良いですね。3連に書き分けられていますが、全体の曲メロディラインの一番大事なところが印象づけられるように。私は、「もっと いっしょに たのしく あそぼう」のフレーズかと思って聞きました。

一つのヒント5小節目、6小節目を 出だしとリズムを合わせると、またあたらしい発展もみえ

てきます。そうすると、13小節目リズムが今までにない新しいものとして提出できますね。音楽は形式を重んじます。

 

木下 生きいきとして臨場感のある詞に明るいメロディ!歌の情況がまっすぐ入ってきてすてき。ただ、こども歌にしては音域がひろいこと、曲のモチーフの下に「アンパンマン」のうたが見え隠れするけど、しかたないよね。ただ、タイトルはこのままで良いのかな?「ありがとう! みんな」のほうが良いかも?

 

武  ことばとメロディが調和した良い歌ができましたね。「こころも」「ワクワク」とか、「みんなで」「さけんだ」、「もっと」「いっしょに」などのメロディの作り方、バランスが自然でうまいなあと思います。終わり方も明るくてさわやかですてきです。ひとつだけ、音域が12度(1オクターブ+4音)あり、ちょっと音域が広いのが気になります。高い声の人には、1行目・3行目は明るい音で歌うには歌いにくいかも?

増田 明るくたのしい作品となっているのだが、1.5.9.13. サビの17.21.小節のコードがCとなっているので、曲調に変化がなくなっているように思う。サビの17.だけでもコードをかえて再考してみて下さい。

 

17.  ちばりよ〜沖縄合唱団(大阪)             指揮/伊藤知 ピアノ/安宅由美 

いのちの海よ!永遠に 作詞/鬼埼良弘 作曲/たかだりゅうじ 

石黒 これまでに何作か辺野古を歌った作品に出合いましたが、その中でも群をぬいて完成度の高い作品です。目の前に辺野古の海が浮かんでくるようなリアリティーある作品です。スイサーサーの掛け声、合の手効果的で決まっています。2番はジュゴンの姿を歌っています、以前TVの映像で見たジュゴンの様子がよみがえりました。海藻が生い茂る中を悠々と泳いでいました。「草原のなかで」は紛らわしいので別の言い方はないでしょうか? 辺野古に自生する海藻の名前とか。

 

大西 豊かな沖縄をふみ込んで書こうとみつめる目、視点がすばらしい。3連の中に言いつくされた感じです。音楽もその思いをのせています。コーダのはやし言葉は、作曲者が加えたものと思いますが、とても良い発想だと思います。作曲イコール演出でもありますから。演奏では、アイヤ イヤサカが活きなかったのは、時間の関係だと思い、日常このエンディングは、もっとくり返されているものとしてききました。

 

木下 沖縄の辺野古に心寄せた一連の作品のなかで、一応しっかりと詞のデッサンがある感じで流れも自然。曲も後半に沖縄のかけ声が嫌みなく生かされ、力強い演奏とあわせて、印象的なステージとなった。合唱編曲もあまり大きすぎず各地で役立ててほしい。

 

武  印象に残る曲の一つでした。ことばとメロディもうまく溶け合っていますが、何より全体の構成が良くできています。ハマサンゴ、リュウキュウイソバナなど、珍しい名前がうまく音楽の中に溶け込んでいて、新鮮さを感じます。最初の16小節の後「サンゴの海に抱かれ」からの展開もいいですね。ありがとうからの重なりも良いアイディアでしたが、この部分、CGコードの繰り返しで少し短調になるので、(それが狙いかもしれませんが)たとえば39小節はAmにしてみるとか、40小節の前半はDmとかFなどの和音ではいかがでしょうか?

 

増田 ピアノ伴奏とうたとのズレが気になる。ありがとう ゆたかな海よ〜ありがとういのちの海よ の部分が良い。

 

18.  うたう会歌輪(静岡)                        ピアノ/西野早苗 

八月のあの日 作詞/中島ちゑ子 作曲/菅ケ谷巌

石黒:ヒロシマの原爆投下をテーマにした作品はこれまでに多くの作品が存在します。言い換えれば「先に書かれている」わけですからその条件下で同じテーマを取り上げるのは難しい作業だったと思います。本作品は73年前と現代の86日を対比するという形で平和の尊さを表現しています。しっかりした組み立て方が成功していますね。終連の4番に少し違和感を感じます、「好き」という感性の視点で平和を評価するのは分かりやすいですが、軽さを否定できません。あの日のヒロシマ、現代のシリア等戦争の続く地域では、平和と命は同義語だと思います。

73年経過してもこの地球上から戦火は消えていません、その辺りを具体的な言葉で表現して、現代にヒロシマを語る意味をハッキリさせることも良いかと思います。

大西 「ドーム」がなければ災害すべてに通ずるうたとも共通するでしょう。精いっぱい言葉を選び構成もとても良いと思います。美しいメロディー、調和がよい。

 

木下 詞はいつ頃の作品なのか、やや今日性に欠け一般的な限界もあるが、自然な抑揚の歌で好印象。1番の最後、「濁った空」の表現が気になる。

 

武  前半の語りの部分から、後半の「川辺の道行く」への移り方がなんとも素晴らしいですね。濁った空におおわれて、の終わり方も、余韻をこころに残す絶妙の終わり方です。うまいなあ、いいなあと思いました。ただ、コンサートでは最終章の歌がないので、そこもお聞きしたかったのですが、一か所だけでも違う音の世界で、もう少し強く迫る部分があっても良いのでは?と思いました。そして、最後にまた静かな終わり方に戻るという構成はいかがでしょうか?音域が9度(1オクターブと一つ)で狭いので、上のE、あるいはFまでメロディがのびる可能性を秘めています。

 

増田 1番、2番の3行目、4行目、

あの日咲いてた赤い花

今も咲いてる夏の花

同じ言葉を二回使うのは意味があるのか?あの日咲いてた赤い花 あの日咲いてた〇〇〇〇〇と実名を入れたらどうでしょう?3番の部分は同じ言葉でもOKだと思います。

 

19.  パレアナ(千秋&二三)(大阪)                      ピアノ/森二三 

今日も働き歌ってる 作詞・作曲/千秋昌弘 編曲/森二三 

石黒:個性的なデュオでした。最近は少なくなっている職場からの貴重な創作。「下腹に息をこめて」じつにリアルな味のある言葉です。「厳しい職場」とありますがどんな職場なのでしょう、どんな仕事なのか具体的に表現しないと説得力がありません、仲間の職場をそれぞれ上げていくのもいいかもしれません。厳しい仕事の後の歌う楽しさを十分伝えるために聞き手の共感を呼ぶ表現を模索してください。

 

大西 「働き歌う」という、まさにうたごえの主人公のうた。ここを源泉にみつめつづけ、ここを掘り続けていって下さい。これはその第一曲。「働く姿思い」はどんな言葉でしょう。「きびしい」状況を「一言で言うと。」その結果、からだが悲鳴ですね。

「仕事のあとはうた」「私は今日も歌ってる」が光ります。コーダ部分は合唱曲スタイルのように

高音終止にこだわらず、職場のみんなの声を一つにする音形を考えてみるのもよいかと思います。メロディラインは個性ですが、感情を表わす音の動きは言葉を深く感じたところらうまれます。

 

木下 なかなか良い声の独唱。作詞者ご本人の演奏とあって感心。うたの二小節目の二分音符、譜面はF音だが、G音でうたっているのでは?どんな御仕事をされているのか何か手がかりを詞に探すのだが、もう少し職場のことや仲間の事が合っても良さそう。この根性を堂々とうたう迫力に拍手。

 

武  うたごえのテーマソングにしたいような歌です。「がんばるなかまと今日も」の、どこか発声練習を思わせるメロディが特に印象的でした。ピアノの演奏とアレンジがいいですね。微妙な和音の使い方が自然でしゃれていて、参考になりました。そしてもちろん歌唱が素晴らしいですね。これからも働き歌い続けてください。

 

増田 自分の思っていることをうたにすることは良いことだと思うけれど、そのうたで聴いた人と想いを共感することが大切だと思う。

 

20.  東京青年のうたごえ(青年)             指揮/共田鐘貴 ギター/木村陽介 

つなぐ kokoro no te  作詞・編曲/東京青年のうたごえ 作曲/仲里幸広 

石黒 冒頭作品の説明の中で「握手ではダメです」とありました、なるほど!日本をはじめ各国の政治家がにこやかにカメラの前で握手している姿は嫌になるほど見てきましたよ!手をつなぐことにこだわったシンプルな歌詞ですが、うまくまとめています、覚えやすそうですし。言葉の醸す雰囲気に寄り掛からないで、背筋のしっかりした自分の言葉でこれからも皆に愛唱される作品を発信してください!演奏に元気がなかったのが残念でした。

 

大西 出だしの8小節(リフレイン部分)が光ります。今までられうたわれているうたの中に「手をつなごう」が入ったうたをたくさんきいてきましたが、これは新しい感性を感じました。2番の詞が特によいと思いました。軽快なようで重い。

 

木下 国会前など様々なところで実演ずみとのことで演奏を大いに期待したが、期待はずれの感。伴奏陣がそろわなかったのか、歌い手たちの気分もノリもわるかったか。せっかくの 特徴的なステージ,会場を沸かせてほしかった。

 

武  残念ながら演奏がいまいちだったので、コンサートの時にはあまり心に届かなかったのですが、聴きなおして譜面を見て実際に歌ってみて驚きました。ほんとうによくできたいい歌ですね。歌いやすいし覚えやすいし、きっと広く歌い継がれていくと思います。蛇足ではありますが、いまいちだった理由を一つ。この曲に限らず2部へのコーラスアレンジについて一言。メロディを女性が歌い、例えば3度下(メロディがGならEの関係)を男声が歌うと、実際には10度の幅になります。これですと、かなり濁った響きになってしまいます。明るい輝いた響きになりにくいのですね。歌が死んでしまう危険もあります。それならむしろユニゾンのほうが効果的でしょう。一方、男声が3度上を歌うと、ぐっと響きは良くなります。(トワエモアとか。例が古くてすみませんが。)ぜひ実体験をしてみてください。

 

増田 手をつなぐことで何がしたいのか、何が出来るのかを具体的に表現することが大切だと思う。手をつなぐことで見えてくる多種多様な可能性を!再考をのぞむ。

 

21.    いのちをはぐくみ平和をねがう合唱団ほっと・夜明け(愛知)指揮/浜島康弘 ピアノ/入江文子

 

雨の日に 作詞/高木日南子 作曲/高木日南子・伊藤百合子・間瀬滝子 

石黒:創作のきっかけは作者にお孫さんが誕生し童謡を聞く機会が多くなったからとか、確かにこれはわらべ歌の世界、雨の日の一人の世界をグングン広げていくイメージの展開がいいですね。ピットン、ポンコロ、ポロリン等のオノマトペも効果的です。言葉を整理してシンプルにしてください―童謡は分かりやすく短い言葉で小さな人にも心に残る歌詞ですね。

冒頭に「よだるい」という三河のお国言葉が出てきましたね、わらべ歌を意識されたのでしょうか。歌詞にお国言葉を使う時は世間によく知られた大阪弁のような言語以外は、よくよく吟味しなければ成功しません。お国言葉で語る憲法9条はまず憲法9条を知っている前提で書かれているので可笑しみがあり成功しているのですね。方言は奥が深いです。(愛知の創作発表会講評流用)

大西 良いと思う。1)詞の持つ音楽感にふさわしい音と音とのつながり、多すぎず、少なすぎず、必要な音だけが構成されていること、23連の詞に書き分けられているが、このメロディーで幅広い表現が出来ていること、39小節目から部分転調を使うなど心のこまかいヒダにせまろうとしているところもよい、4)オノマトペ新鮮、5)演奏もgood

 

木下 わらべうたの抑揚で一貫しながら、ホンの1ヶ所だけ新鮮な ものを生かす、心憎い小品。歌詞のもっているなんとも切ないものを、うまく掬いとっている。ピアノはもう少し雄弁でもいいのでは?

 

武  地方の方言を使うことには賛否両論があるでしょうが、私はこの曲ではそれが生きていると感じました。よだるい、の意味がよくわからないので、自分で想像できるからかもしれませんが。名古屋の時にもお伝えしましたが、詩が面白いのと、3行目、ピットン、ポンコロのところのシ♮の使い方が絶妙です。終わり方もいいですね。何度聞いても好きな曲です。

 

増田 「まだるい」方言の使い方は良いと思うが、いきなりよだるいではどうかな、と思う。他にも方言を使ってみては。ピッコロからのメロディーがすき。雨の日の心の動きが表現された作品。

 

22.  国鉄四国トレインズとその仲間(全国)       ピアノ/山本克子 ギター/斎藤清巳 

負けないぞ 作詞/田口俊郎 作曲/山本克子 アドバイザー/たかだりゅうじ

石黒 構成も的確でよくまとまった作品です。コメントの通り職場における不当差別と闘う仲間たちに、作者自らの経験を重ねて生み出された歌詞です、一言ひとことに重みがあります。しかし闘う仲間の姿が浮かんでこない、総論から攻めるのはなかなかむつかしいですね。具体的にどなたかの姿を思い浮かべてください、元気な声、手などリアルな一言があると歌は生き生きしてきます。

   つい最近かもがわ出版から「電力労働者のたたかいと歌の力」という本が出版されました。今から30年以上前に闘われた、東電、中電、関電の人権侵害・差別闘争とその中でうまれた歌、そして歌声の持つ力がまとめられています。うたごえの原点に迫る一冊です、ぜひご一読ください。

 

大西 新曲は、過去の名曲を引き継いでできることが多く、またそれは重要な一面でもある。全く同じでも、4小節までは公認である。(著作権上も)何かに似たな?と思ったとき、新しい自分の感情、感性を持てるものいっぱい出しきって、それでもこうするしかないと決めたらそれで良いのです。今回は国鉄闘争の中でうけたうたのリズム、気持ちを重ねたいと作曲されました。16分音符の場合は言葉を一かたまりとして扱うわけですが、私の場合、「こらえ きれない いかりを」 のアクセントラインは、「こら きれい」(下線部を強調)です。私の基本アクセントを生かしてつくると(五線参照)後は「動機(モチーフ)」の発展です。

 

木下 かなり有名な国鉄の歌が、いきなりシッカリとでてくる。この職場のたたかいにあの歌が食い込んで離れられないのだろう、と推察するが、創作曲というより副題に「〇〇への讃歌・オマージュとして」と書く方法もあるかも。演奏には力があり、舞台を引き締めた。

 

武  ことばとメロディ、コードがぴったりと溶け合って、力強く、印象深いいい歌です。「揺れる気持ちと」からの展開、サビの「仲間のから」の広がり、全体のバランスもいいですね。この種類の歌には、うたごえの歴史の中に同工がありそうなのがやや不安か。

 

増田 働く者たちの闘いのうた、としての力強さは人に力を伝える。共に闘ううたとして表現されている。

 

23.  ひまなスターズ(奈良)              ギター/ダンディ今井・ジュリー川村 

大好き郡山 作詞・作曲/加藤信治 編曲/ヒマナスターズ

石黒 郡山の応援歌、テーマの設定は面白いです!サビがいいです、まな息子を、出来が悪くて困るんですょ、と話す親の気持ちに通じるものがありますね。サビの部分をもっと生かすためにはその前段にもう少し工夫があってもいいと思います。私は野球に精通していないので「阪神タイガース〜」の意味がよくわかりませんでした。少し凝りすぎか?「山がなくても郡山」「観光客がスルーする郡山」「郡山は数々あれど大和郡山」みたいなフレーズどんどん浮かんできました。私は奈良で開催されたうたごえ祭典の時初めて郡山を訪問しました。落ち着いた素敵な町でした!

 

大西 類似曲を思いうかべたが思い至らず。やはり独創的なのだと思った。地名をきくとすぐ福島を思ったが、阪神タイガースのような郡山、とこれは関西の郡山。お城と金魚と阪神タイガース。リフレインは印象にのこります。

 

木下 気持ちは解らなくもないが、三番などは印刷してこの詞を紹介するには「わるふざけ がすぎる!」感。好きだからこそいじめるにしても、もう少しユーモアや知恵をつかってほしい。

 

武  ほめているのか、けなしているのかどっち?と途中までは訝りますが、「好きよ」からのメロディが伸びやかで温かいので、タイトルどおりに郡山がやっぱり好きなんだと伝わります。阪神タイガースのような?とか、初めて聞いたときにはけったいな歌やなあと(失礼ながら)感じてしまったのですが、録音を何度も聞くと、不思議な魅力がある歌だったんですね。失礼しました!

 

増田 ―――郡山、とつづくパターンだけでは〜と思う。やぼったい町がなぜ好きなのか?時代おくれの町がなぜ好きなのか?障害者の方が作られたということだが、再度作り直しを希望する。

 

24.    どすこい(広島)             ギター/栗栖慎一 鍵盤ハーモニカ/二見伸吾 

山と川 作詞/二見伸吾&どすこい 作曲/栗栖慎一 捕作曲/たかだりゅうじ 

石黒 昨年の大洪水の記憶も冷めやらないときに創作された作品です、歌詞の全編を通じて自然への敬意とそれをないがしろにする人類への警鐘が通底しています。タイトルはシンプルで面白いです。歌詞は漢文調で詩吟の一節みたいだなぁと感じました。一番の言葉は凝りすぎ、後の連との言葉の格のギャップが気になります。言葉が冗漫なので2〜3番をまとめて再構成して3番までにした方がすっきりすると思います。

 

大西 「山のうた」「川のうた」は数多くうたわれてきていますが、このうたに今までにない新しさを感

ずるのは、鳥の名など生き物が登場し、それらが生きつづけられることは人間にとっても大切だと改めて思わせること災害が多くなった地球温暖化への警告をメインに人と自然の共存の大切さを示している

オオルリさえずり を読むと出だしの音群を高音から入る発想がありますが、曲の出だしの低い音列を選んだのは、23連の内容を主に発想したのだと思います。4番を共通のメロディーでうたう歌の場合、出だしの選択も良いと思います。定形にこだわらず、前半部は5小節、6小節でまとめていますが、この感覚がこの曲の良さでしょう。様式・構成をととのえることは音楽のいのちです。

 

木下 出だし格調たかい詩句がならび、自然の大きさや峻厳さをあらわすこんな歌があってもいいとおもった。ただ、三連の主格が急に人間になってしまうなど緊張が砕けた感があり残念。もっと短く線の太いタッチで自然を歌いきるのがよかったかも?

 

武  このテーマで曲を作ろうという発想がすばらしいと思ったので、少し分けて、感じたことを記します。

〈この歌の良い点〉

@    前奏のすばらしさ美しさ

A    山と川というタイトル(着想)

B    しみじみした心に響くメロディとコード

C    歌の中でのいくつかのチャレンジ 

〈残念ながら狙いがそれほど効果的ではなかったと思われる点〉

@「空高く、舞い上がる」また、「泣いている」の部分の歌い分け 

〈課題と思う点〉

@    2部になるところのアレンジ→音を重ねることは、そのことの効果が見込まれるから行うわけですが、残念ながら逆効果になってしまっています。これならユニゾンのほうがずっと良いでしょう。

A    1番から4番までの内容豊富な歌詞を、同じメロディに載せようとしたこと→「沢蟹であそぶこどもたち」と同じメロディで「水は溢れて沈む町」は、やはり無理があるのではないでしょうか?1番と4番、2番と3番という二つのグループにして、別の音の世界を構築したほうが良いと思います。あるいは2曲に分けて。

 

増田 自然の大切さ、豊かな恵み 〜そんな素晴らしさの表現とこわれゆく自然、その根源にあるものの表現、その二つの違いの表現方法(うたい方、伴奏のあり方)もふくめ再考!

水は」と「溢れて」の間にブレスを入れないと「MIZUHA AFURETE」が「MIZUHAHURETE と聴こえる。(前のAと後のAが重なっている)

 

25.  ミルキーM2(大阪)            ピアノ/堀江麻里子 トランペット/大原守生 

組曲「いのり」より第1章私のふるさとひろしま 作詞・作曲 堀江麻里子 

石黒 組曲ということなので全曲を聞いてみたいと思いました。戦争を体験していない世代が平和の尊さを伝えていく歌の序章です。少し観念的、少女たちの姿が明確にならないまま3番の結びに向かうので残念です。

今回のオリコンでも広島をテーマにした作品は幾つかエントリーしています、この作品も含めて、大きく困難なテーマに取り組む姿勢に敬意を表したいです、それぞれの立ち位置をしっかり定めて力をもった言葉を発信し続けてください。

   演奏するおふたりの衣装がとてもおしゃれでした!改めて演出の大切さを痛感しました。

 

大西 組曲の第一章だけで「詞」を評しにくい点もありますが、自らの体験をベースに書かれたものかと推察しました。演奏を通し、伝えたい思いは伝わりましたし、共感できました。出だしの2行も新鮮です。語りつぐ、歌いつぐ作品として注目。歌の出だしの音の配列、「へいわ」にどう音づけするのか。指でなぞった文字が「カナ」(ひらがな)か「漢字」かのちがいで音の動きがわかります。(私の場合)

 

木下 組曲全体が不明なので、この詩のタッチにまず とまどってしまう。出だし「平和という字をなぞったら少女がいた」は比喩だとしても、二番のはじめも「叫んでみたら広島がそこにいた」は理解をこえる。ただ、めずらしいフリューゲルホルンとのくみあわせの音楽を聴いているとそんなに違和感はないし自然な説得力さえある。ある種の体験が書かせたという解説もあったがぜひ全体像をしりたいものだ。

 

武  意外性に驚きながら聴かせていただき、音楽の可能性やひろがりを感じさせてくれる佳品だと感じました。例えば「朗読2」の部分では、トランペットならではの世界を感じます。楽器とピアノ歌のコラボが、歌の2重唱になるところもいいですね。(歌がうまいからでもありますが)ただ、ひろしま、ながさき、沖縄の部分での不協和音は、その部分だけ聞くと良いのだとは思いますが、その前の曲の流れから行くと、そこだけがやや唐突な気がしないでもありません。次の作品をぜひまたお聞かせください。楽しみです。

 

増田 1番〜2番〜ナレーションから後の3番への流れ方が私にはわからない。組曲とする必要性があるのだろうか?

 

26.  カオル(教育)                             ピアノ/佐藤香 

君といっしょに〜特別支援学級での出会い 作詞・作曲 佐藤香

石黒 実際に体験した人でなければ書けないリアリティーに富んだ歌詞です。構成も巧みでうまいです。言葉をもう少し精査して剪定してもよい部分がかなりあります。全部あれもこれも説明すると余韻がなくなります。例えば1番「でも僕は知っている 君にはそれが精一杯だということを」という部分は「君の一番のコミュニケーション」だけでいいです、僕は知っていると連呼しなくても伝わります。君は僕の名前をなんと呼んだんだろう?「サトー」かな「カオル」かな、具体的に表現したほうが効果的です。3番はとてもよくて、なんか泣けてきました。演奏あっての歌詞だと痛感しました。

 

大西 共に育つ先生と子どもが細やかに優しく書かれています。教師と生徒をきみとぼくで表わし、同じところに立っています。聞き手は二人の主人公になれる歌となっています。最後の一連の、僕一人は君と同じ生徒たちと一緒に歩いていく 、とすべての学級生にそそがれています。生徒の数だけ歌がありますね。終わりのないうたがここにありますね。シンガーソングライター、すてきな個性です。ご活躍を!このスタイルは作者の個性ですので、一般論としてきいて下さい。詩は言葉をにつめる、選ぶ。俳句、短歌、和歌など、日本で伝統文化と芸術歌曲ばど名曲を参考に、日本の伝統文化の良いところを学ぶ、音も無駄な音符は使わない、必要な音だけ。

 

今回、このように一つの作品から私の基本的考えを時々書いています。この作品にだけでなく、すべてにむけています。評の書き方としてよくないかも知れませんがお許し下さい。

 

木下 ある出会いを、作者らしい克明さで丹念に記録した独唱曲。その観察にはこの仕事にしかないつらさと誇りがあり、曲の長さをわすれて聴かせる歌唱力もある。しかし、やはりこの長さは必要か

どうか刈り込めないかどうか、の点検も必要と思うが

 

武  佐藤さんの貴重な出逢いの物語を、朗読だけでもきっと心を打つものになるでしょうが、これを音楽

に載せたことで、さらに深く、さらに豊かに、胸に迫るものになったのではないでしょうか?離任式の情景など、手に取るように見えてきます。音楽の可能性を感じました。

 

増田 言葉が多く、説明的な詩、障がいを持つ人たちの様子がよくわかるけれど、もっと言葉をまとめた方がいいかも。

 

27.  トゥルシージョイ(新潟)           キーボード/井野口敏子 ギター/サトシ

 

19の叔父 原詩(短歌)/岡崎康行 作詞/服部泰 作曲/井野口敏子

石黒 短歌からのイマジネーションで創作するというアイディアがいいですね。アイディアに脱帽!岡崎さんの短歌の大きさに乗っかって成功している部分もあると思いますが、何よりも岡崎康行さんの短歌をとても上手に料理しています。短歌朗詠も気が利いていてよかったです。メロディーが明るければなおさら悲しみが増すものなんですね、演奏も素敵でした。

 

大西 短歌は心に深くしみ入ります。心音と時を刻む音が動きつつ沈み、やがて止まる。過去と現在をこの四首を頂点にした構成感も良し、です。14の書き分け方も良いですね。無駄なく語っていて、特に曲となった場合の各番の冒頭12はカタカナ、34は、「眠れぬ夜の」、「志願せぬまま」とあとに続く流れがあって。

参考に歌、曲にする時、もし、私がつくるとするとき私なら

1.じっと動かぬ魚

2.魚雷の照準船

3.叔父と遊んだぬくもり

4.意気地なしだと

からメロディー学級生まれます。アクアリウムもサブマリンも音が生みにくいと思うから

 

木下 何十年もの昔の事件を切り取って、とても臨場感のある生きいきした情景を描ききっていることに、まず感心する。もちろん短歌の力がおおきいのだが、それを現前の水槽によびこみ若い叔父の生涯を重ねるこの飛躍は音楽にしか出来ない、作者の高い能力と思う。演奏もよかったし、私はこの曲は作品賞にあたいするとおもう。ただ、短歌の朗読の最後の行にはピアノをつけない方がインパクトがあると思うが。

 

武  びっくりしました。完成されたすばらしい作品です。10年間続けてオリコンの講評をさせていただいていますが、その中でも1、2の心に残る歌です。この詞にぴったりの、胸にしみ入るヨナ抜き(ファとシのない)音階を基本に使って、メロディは単純だけれど深い世界を表現しています。南の海に沈んだ若い少年の無念の思いが伝わりました。短歌の朗読を入れた点も、またソロのかたの歌唱も秀逸でした。歌い広めていただきたいですし、他の作品もぜひお聴きしたいです。

 

増田 短歌の朗読は四つ一緒にではなく、分けた方が良いのでは。戦で死んでいった、19歳の若さで死んでいった叔父のことをキッチリうたったことで、その時のことや、それを思う作者の今が見えてくる。良い作品。

 

28.  合唱団北星(東京)                 指揮/山田千賀子 ピアノ/毛利正 

奉納踊り 作詞/十三与太郎 作曲/山田千賀子 編曲/毛利正

石黒 福島に思いを寄せた作品です。エントリー作品に福島が取り上げられることがめっきり少なくなった今回、この作品は光を放っています。よくまとまった構成力のある作品です。町の人々が三々五々と集まってくる姿が浮かんできます。人々の喜び、苦しみ、怒り、希望を包んだ歌です。このようなハイブリッドな作品で福島に繋がっていくのが、うたごえならではの表現活動だと思います。

 

大西 3連共良い詩だと思います。旋法は、伝統的な日本のものを選んだ。良い発想ですね。はやしことばは全くなく、前奏と出だしのフレーズ4小節と9小節目からの2+3小節の感じから、踊りは単調な2拍子のくり返しを想像します。作曲は、出だしの2小節思い切って動いていて良いですね。

 

木下 歌詞は福島の復興を意識して書かれているとおもえるが、曲は徹底した陰旋法、つまり昔風ご詠歌の流れそのもの。このタイトルか曲に元歌らしいものが有るのかどうか?このタイトルも完全な創作なら、なかなかのいいセンスで、(たとえばだが)三番の最後の方の二行をつないだ「戻れよ 集え 奉納踊り」のような一行を各番の最後において納める、そして、おどりもつけてくれると、「奉納踊り」の願いがきわだって、きっとその方が喜ばれると思われるが

 

武  このお二人の作品を今年も楽しみにしていました。この詞のテーマにふさわしい色の世界が実現しています。14小節から、和音を入れないユニゾンにしたのも効果的だったと思います。浪江のかたたちは、どんな思いでこの歌を聴くのでしょうか?

気になった点は、演奏が今一つだったと、2声に分かれる部分の意味付けが理解しにくかったことです。例えば78節を2つに分ける理由はどこにあるのでしょうか?メロディの音が高いから?

細かい点ですが、Dmは間違いです。DFA♭ですから、コードで表現するのは少し難しいですね。あえてつけるならDm-5でしょうか。Fm65音省略)というのもあります。

この種類の曲には、(西洋音楽の道具である)コードという縛りを入れないほうが良いような気がします。

 

増田 津波に流され、原発に汚された哀愁ただよう日本民謡調のしっとりとした作品。(1行目〜5行目までとてもいいのでは)

 

29.  ザ・イスカンダル(長野)                      ピアノ/田島由子 

太陽は輝いた 作詞/日野弘毅 作曲・編曲/田島由子

石黒 実は今回のオリコンで一番演奏をきいてみたい作品でした。ハンセン病裁判が熊本地裁で勝訴し、原告のもと患者たちは国の控訴を断念させるべく活動されました。日野さんの言葉が時の小泉首相の心を動かし控訴断念させた(2001)、裁判闘争の立役者と言われています。その時朗読されたのが「太陽は輝いた」でした。この詩は発表当時と少し言葉を変えて全国に知られるようになりました、とても有名な詩です。この作品を選んだイスカンダルの皆さんに敬意を表します。宮崎生まれの日野さんは14歳で発病し、鹿児島にある星塚敬愛園で54年を過ごしました。裁判に勝利ののち宮崎で8年間愛犬とともに暮らしましたが病気になり敬愛園に戻り2017年に83歳で亡くなりました。太陽がまぶしい南国の地にあっても、日野さんは暗闇の中にいたのです、「太陽は輝いた」という言葉の重みをしっかりかみしめ受け止めたいものです。

   ハンセン病元患者さんには優れた詩人が多くいます、シンガーソングライター沢友恵さんはいくつかの作品に曲を付けて演奏しています、塔和子「かかわらなければ」桜井哲夫「父への手紙」等です。

 

大西 九十年という長い年月に言葉にならない多くの日々を想像します。一言書けば、止まることのない思いがあふれてくることを想像します。この出だしの2行の他は、光を見た!光にむかって歩く、です。太陽が表われたのです。曲は題名から作曲されました。すべて明るい方向へ、希望を表わしたくて、ながいくらやみも、すべて明るい方向へむかう音選び、リズムが使われています。「C#」音にこめた思いはありますが。光が走った |はしっää| この休止にすべてこめたのかとも思いました。

 

木下 曲に書かれた詞と縦書き詞の一行目が少し違う。一つの勝利がとても重過ぎたこの裁判で、このタイトルの言葉が全体をつらぬく核心だとおもえるが、それにしては地味な音づくりになっている。作曲者にはそれを描ききる力があったろうとおもえるのに歌詞が、簡潔に過ぎたのかもしれない。決して易しくはない譜面だが、演奏もととのっていた。良い曲だ。もっと、いきいきと喜んでくれてもいいのに、まだ心が晴れないたたかいの重さなのだろうか。

 

武  このテーマで歌を作り、それを若い皆さんが取り組んで合唱曲を作り上げたことにまず何より感動します。歌もピアノも、長い長い暗闇を突き破り、鮮烈な光となって現れた希望を若々しく、うまく表現されていると思いました。ただ、作詞者が最後に入れた、タイトルでもあることば「太陽は輝いた」を冒頭に持ってきたチャレンジは悪くないと思いますが、最後にもう一度か二度このことばを持って来てほしい気もしました。8分の6で表記されていますが、(もちろん間違いではないですが)音楽のスタイルを考えると、8分の12表記もあるかなと思います。

 

増田 長い差別の中でやっと一筋の光が見えた時のうれしさ、もううつむかなくていいと感じたよろこび、もっと明るく、これからの未来に向かって生きることの素晴らしさを表現して欲しい。エンディングのAhーは、そんな雰囲気とは違うように感じたが

 

30.  肥田尚音(国鉄)                          ピアノ/瀧澤ヒトミ

 

父の置土産 作詞/田畑つる子 作曲/たかだりゅうじ ピアノ編曲/三好敬子 

石黒 歌はこの様にして繋がっていくのかと思わせる歌詞です、ドラマストーリのような展開、言葉に無駄がありません。「鉄の味する汗のうた」は心憎いフレーズです。起承転結がはっきりしたお手本のような展開をしています、安定がある秀逸な作品になっています。何よりも演奏が瑞々しく、見事でした。

 

大西 親子のうた。父も息子もよく詩になっています。父の言葉、父の伝えたい思いをセリフの形で詩にしたところが特に良いですね。「鉄の味する汗のうた」よく発見できたと思います。作曲はそれをしのばせるものでリズムを重視しています。詩曲共印象深いのは本人の演奏におうところも多。

 

木下 故人をよく知る友人達が心を込めて作ったその遺児たちへの贈り物。親父ゆずりのしっかりしたバリトンで良い演奏だった。詞も曲も作者の心情を託して力も広がりもありすてきだが、3連から4連への間奏部分にやや迷いがあるのか、もっと長くなることもあっていいのでは。誰もがうたえるわけでも無いだろうが、これはやはり故人雅宏さんのちからが生み出したものと思う、秀作。

 

武  今回のコンサートで、最も感動的な演奏でした。独唱でありながら亡きお父さんとの共演を見た気がします。作品としても、息子さんの音域に、また気持ちのぴったりの歌作りは、やはり身近な作詞作曲者であるからこそできることなのでしょう。中間部のメロディにも心を打たれました。

 

増田 勇気と力づよい決意の表現が良い。組曲としての構成が気持ちいい。

 

 

31.  大熊家(東京)                             ギター/大熊啓

 

みんなのぶん 作詞・作曲 大熊家

石黒 まず家族で参加できるって、いいですね、最高!読み間違いをして「パンダ一家だ!」(大熊猫)と喜んだのですが・・・あたたかくなる歌です、ぶんちゃんという仲間の結婚をお祝いする歌とのこと。“分”という言葉も味のある言葉です“ぶん”という名前にそれを引掛けてうまくまとまっています。少し気になったのが「なんて言うか」という言い回しですが「どちらかというと」「はっきりいうと」のほうが的確ではないかと思いました。

 

大西 みんなの中で「みんな」の心を自分の心と重ねてつくり手となった人らしい作品とみました。「ぶん」がすべての源泉でそれを各所にぶんしていて良いですね。さらに深くもっと深く「わらべ」と共につくって下さい。日本の各地のうたい継がれたわらべうたや民謡を分析研究を続けて下さい。ー親子のうたをつくる折の私の視点からーでもやはり大熊一家のリズムはやはりこの作品ですね。

 

木下 歌詞を見ていてとても期待して聴いたが、やや冴えないのは、最後のフレーズになにかたりないのでは。折角、「たぶん」というニュアンスに富んだ詞を生み出しているのに、これを生かしきることばのセンスかもしれない。

 

武  こんな歌をプレゼントされた新婦は幸せですね。どんなに素敵なかたなのかが歌からも伝わります。メロディの作り方は手慣れたもので、完成されたいい曲です。残念なのは、大熊さんがどんなにお忙しかったかを象徴するような調弦の甘さと、ハモリパートの時々の足引き(メロディを壊す側に)でした。サブメロディにも細かい配慮を。(私にも言えそうですね)

 

増田 サビへの入り方を早くした方がいいのでは?

 

32.  福井センター合唱団(福井)           ピアノ/中村はるな ギター/斎藤清巳

 

ここで歌おう 作詞/清水雅美 作曲/清水雅美・平井克己

石黒 うたごえで生まれた名曲を織り込んで構成した大変良くまとまった作品です。季節ごとにそれぞれの歌の個性を上手に表現しています。ここまでしっかりまとまった形にするのには、ずいぶんご苦労されたと思います。うたごえのレジェンドを胸に、ここで歌おうと高らかに歌い上げる言葉には力がこもっています。

     演奏はもっと自信をもって元気よく歌って欲しいです!

大西 うたごえ賛歌」的。まさに、うたごえ運動の中で得たものをこの形、演奏に。詞、曲、演奏良かったです。うたごえ運動の曲のところ、みんなの愛唱歌を入れかえるなどの発想も湧いてきます。あの日、夏の日、とつなぐフレーズが生きています。春夏秋冬のアクセント、メロディづくりも良いですね。

 

木下 よく纏まってわるくない。ただ、惹き付けるインパクト、歌っていての新しい発見がほしい。着想をもう一息ひろげて,歌わない人にも働きかけるものにしてほしい。14小節目の付点二分音符の音は譜面がちがっている。歌はH音でうたっていた。

 

武  劇中劇のように、詩に「歌詞」を入れた企画の秀逸さ、それを滑らかに自然に包みこむメロディとハーモニー、なんていい歌でしょう。うたごえ70周年の記念の歌とも言えそうです。このアイディアに欲が出て、なんとか本来のメロディを挟み込めないか、と考えてしまいました。(無理そうですか)

 

増田 さわやか感有り。夏〜秋〜冬〜春と、進行もおもしろい。が、何かいまひとつの工夫を望む。

 

33.  宮城教職員合唱団ひまわり(宮城)         指揮/村田美枝子 ピアノ/石垣就子 

楽しい学校創りたい 

原詩/皆川多喜子 作詞・作曲/皆川多喜子・桐生恵子・伊藤典子・藤村記一郎 編曲/石垣就子

石黒 教育の現場は年を追うごとに厳しさを増していると聞きますが、本作品はそれを十分に伝えています。しかし真正面から真面目に取り組むあまりでしょうか、チラシのアピール文のような印象は避けられないです。表現にもう一工夫欲しいところ、生きた言葉が欲しいですね。例えば2番、「日本語の基本 〜 時間が欲しい」という部分ですが「英語で”together”というよりも “いっしょに”という私たちの日本語 大切にしたい」みたいな。頑張って再トライしてみて下さい。

 

大西 うたごえ運動の創作曲として、今、それぞれの職場で何が起きているか、働く人はどうか、を「うたの形」にすることは「伝統的」に必要だと思っている一人。方針もそうなっている教職の現場の今がこれです。「大切なうた」と思います。この歌は、今学校で起きていることを伝える大切なうたです。

各合唱団一曲、各地一曲の現状で、各地の職場も含め実際はもっとあるのだと思います。今年は、どの職場のうたがどのようにつくられたのか、総会にむけて集約してみてはいかがでしょうか。この場をおかりして。うたごえは歴史をきざむ

 

木下 職場のうたらしい具体的な要求がうたとなっていきいきして面白い。だが、リフレインの二行はやや仲間内のはしゃぎ方で、楽しくはあるがこの内容を広くしってもらうには別の納め方もあったかもしれない。先生が楽しいことは大切だが、それだけに聞こえかねない,ご時世ということもある。

 

武  明るくて、主張がしっかり伝わって、爽やかに怒っている、いい歌が生まれましたね。私は何といっても、何度も繰り返される「もっと大事なことがある」の5小節が素晴らしいと思いました。いいメロディ、いい伴奏・和音ですね。曲の終わったころには口ずさんでいます。そこで閃きました。この曲のタイトル、「楽しい学校創りたい」でも悪くはないですが、「もっと大事なことがある」ではいかがでしょうか?このほうが聞く前に「なんだろう?」ってワクワクしますが。

増田 もっと大事なことがある もっと大事なことがある  とかいいね いいね いいね  のくり返しは1回でいいと思う。(このパターンはうたごえの中に多くあるパターン)

 

34.  中央合唱団(東京)                           指揮/服部安宏

 

抗う者たちのうた 作詞/美濃圭子 作曲/服部安宏

石黒 英語の部分がひらがなで書かれていて面白いなと思いました。メロディなしでこれで完結してもいいよ、と思いました。ひらがな表現の魔術とでも言うんでしょうか・・・しかしこれはソングなので歌詞としての評価をしなければ。繰り返される英語は2016年8月に解散したシールズが叫んでいた言葉ですね「民主主義ってなんだ」「民主主義はここにある路上にある」、歌の歌詞としてはまだまだ市民権が獲得されていませんね。We shall overcome みたいに英語が日本語化されるには歌い続けられなければならないです、それと短くて簡単な英語でなければ。日本語の歌詞は躍動感があり素敵です。とりわけ「大きな波に 〜 群れが途絶えないように」の連は見事。解散して全国に散らばった若者たちはあちこちで権力の堅い岩盤にくさびを打ち込んでいます!

 

大西 冒頭の強いリズムの演奏が印象的。いきなりせまってくる強い意志。詞はたたかう者の国際連帯を劇的にえがいている。作曲はその意図を音で表し力強い響をつくっていてよい。圧政隷従が示

す、たたかう世界とのスケールの大きな作品、良いです。

 

木下 歌詞のアイディアも、曲も作品としては、なかなか大事な挑戦。だが、それにしては演奏が中途半端な感はなぜか、もっと吹っ切れてほしい。リズムをたてて指揮ももっとシャープなステージングで聴きたい。

 

武  賞を与えるとすれば、この曲は何といってもチャレンジ賞でしょう。(詩も曲も、この曲にとり組む中央合唱団にも)この詩を曲にするのは難しそうですが、よく考えられていて、力作だと思います。演奏にも拍手です。初めて聴いた人にはちんぷんかんぷんの歌かもしれないですが、必ず心には残ります。当たり障りのないメロディしか浮かばない私のような「歌つくり」には、刺激とエールを送られた気がします。

 

増田 リズムからの入り方がおもしろい。今までのうたの中で、ある意味ビックリのリズムを基調とした作品。もっとリズムにのって元気よく!

 

35.  ひまわり(広島)                           ピアノ/山本克子 

わたしの決意 原詞/石本直 作詞・作曲/隅広智子 サポート/たかだりゅうじ 

石黒 作者の瑞々しい気持ちが伝わる歌詞です。おじいちゃんが涙ながらに語ったという、重くインパクトのあるフレーズで聞き手はこの作品の世界に引き込まれます。自分の弱さを自覚しつつ、それでも繰り返してはならないとキッパリ言い切る気持ちのよい展開で終わります。歌にして自分の気持ちを多くの人に届けるには、何よりも分かりやすい歌詞が大切です。この作品では作者の決意が少し唐突にも感じます、それには起承転結をはっきりさせることです、できればもう一度自分の気持ちを再構築して、おじいちゃんをもっと生き生きと伝えてください。

大西 わが国の戦争体験を語り継ぐうたごえのうたとして、今とても大切にしたいうたと思います。その思いと日常のうたごえ活動がうかんでくる。良い作品と思います。作者の感性に学ぶものがあり、時の流れ、時代を感じます。

 

木下 広島などの戦争の日々をうたったものと思われる。無理にまとめようとせずに、「受け継ぐことなど出来はしない」など正直ではあるが「何の覚悟も無いままに」はわかりにくい1行。「あの日を繰り返してはならない」のはそのとおりだが、すこし尤もすぎて気持ちが伝わってこない。おじいちゃんの若い頃に想いを馳せたりして、同じ事をあらためて新鮮にこころに溢れるように工夫してほしいと期待する。

 

武  昔話で終わらせてはいけない、繰り返してはいけない事実をどう歌って伝えていくのか、これは私たちに課せられた大切な役割ですね。良い歌ですが「昔話で終わらせないで」からのメロディが特にこころに響きます。ただ、これはこの歌だけの課題ではないですが、「町が焼かれ、人が焼かれ、助けを求める手を振り払って逃げた」のフレーズが、このメロディで耐えうるのか、ギターの伴奏で表現できることと、不可能のこととがあるのではないか?批判を覚悟で言えば、その現実の悲惨さを甘くしてしまうことにはならないのか?

ただ一方、もう少し直接的でなく、でもそのことを表現できる言葉なら可能なのではないか、などとあれこれ考えさせてくれる歌でもありました。大切な題材であるからこその直言をお許しください。

 

増田 1番の私に〜2番は私は〜のところの2/4がいい。

 

36.  緑高校PTAコーラス(愛知)  指揮/藤村記一郎 ピアノ/中村好江 ギター/筒井佳子 

勇気の歌 原詞/筒井佳子 作詞/緑高校PTAコーラス 作曲/藤村記一郎 

石黒 現地辺野古に行った人ならではの作品です。やはりリアリティーがちがいます。人は本当に怒りに燃えた時饒舌ではなくなります。刃のような言葉を理不尽な相手に突き立てます。装飾のない言葉の強さを感じる作品です。サビの歌詞「歌おういきるために」というフレーズが実感をもって立ち上がってきます。タイトルもいいです、私たちは「勇気を持つ」ことです、「勇気をもらった」ではないのです! (愛知の創作発表講評流用)

 

大西 いかりを伝えたい思いがいっぱい。ひしひしと伝わる詞、曲です。曲は、ことばを心よくくみとって無駄もなく、音と音とのつながりも新鮮です。

 

木下 歌詞はかなり密度の高い集中が感じられ、久しぶりにマイナーのすかっとしたマーチかと、演奏に期待した。が、もうひとつ晴れない感じ。曲はよく工夫もされているが、前半の終結に迷いがでたのではと推察する。もう少しきびきび歌われるとよかったかも。

 

武  この歌は、どこかで聞いたようで実は新鮮で、平凡なようで、実は工夫されている歌です。「歌おう、涙溢れても」からの高まりがなんとも言えずいいですね。辺野古で高江で、みんなでこの歌を歌いましょう!

 

増田 詩の内容だけでは沖縄をイメージできない。曲の中に沖縄をイメージできる部分が欲しい。

 

37.  幸せKIDS(愛知)                  指揮/藤村記一郎 ピアノ/夏目順子

 

夏が来た! 

原詩/浅見和空 作詞・作曲/浅見和空・高橋愛佳・比留間蓮・比留間優子・加納尚美・藤村記一郎

石黒 少年時代の夏を迎えるドキドキ、ワクワク感が伝わってきます。初夏の公園を駆け回る姿も浮かんできます、楽しい歌詞になりました。もう少し周囲をじっくり観察して言葉を発見してください、どんな風が吹いてるの、鳥はいないのかな、池で音をたてたのは何者?イマジネーションの世界に足を踏み入れてください、楽しいですよ。例えば「太陽が光のリボンを胸に留めてくれるよ!」とか。最後が言いっぱなしになっているのが残念、オチが欲しいところです、「夏をお腹一杯味わうぞ」みたいな。(愛知の創作発表講評流用)

原作者の和空君はノースリーブの縞シャツで元気に演奏しました、やはり若くて元気一杯ですね!改めて演奏を聞くとあまりにも短い、もっと演奏を聞きたいと感じます。今年の夏にもう一度作品の長編化にトライしてください。

 

大西 図書や映像でなく実際に生きている虫や植物をみつめた出会いの子どもの言葉を大人もいっしょにみつめている。こ一瞬が切りとられた作品。ここに止まらず、ここから次の出会い、また次と足をふみだしてー。そして、どうして?なぜ?と進めてほしい。これはホンの入口ですから。次作に

        期待!子どもたちのうた、ステキでした。

 

木下 思い切ったひらめきと,曲想の展開でいきいきした良い曲になった。このままでも充分悪くはない

が、別の虫達や花々に少しだけ置き換える事で二番までつくり、短くても一つの曲としての情緒を生み出し曲として定着させたほうがいいかとおもう。(以下は二番の思いつき「とのさまカエルが

でたぞ、かまきりがいるぞ、小川はちょろちょろ、風はさわさわ…etc.

 

武  名古屋でもとても印象的でしたが、何度聞いてもすてきな歌ですね。始めの「のこぎりくわがた」から「セミの抜け殻」までのワクワクする夏と、後半のゆったりと池や花々が登場する美しい夏の対比がいいですね。できればもう一度、16分音符のワクワクの世界で終わりたい気もしましたが、欲張りでしょうか?

 

増田 あたらしい夏言葉の使い方がいい。もっともっと言葉をふやして、もっともっとあたらしい夏の発見をおり込んで欲しい。