1.きむらいずみとアバウトキャラバン(山形)    ギター/小林昭義                           

♪生きる!自分らしく (作詞/松木純子 編詞・作曲/きむらいずみ)

石黒 パーキンソン病の闘病を病気と上手く付き合う、と言う純子さんの作詞です。ここで使われている言葉はよく使われている、いわゆる手ずれのした言葉ですが、力があり説得力があります。それは作者のリアルな日常、病気と付き合う中で紡ぎ出された言葉だからです。闘うのではなく付き合うという「ゆるさ」が歌詞に程よく反映しています。

「幸せのタネ〜蒔こうよ」というフレーズが素敵です、自分の力を信じる作者の姿勢がさらりと伝わります。演奏者の力もあるのですが、最後の連「もう少し 生きてやろう」圧巻、素敵でした。心に残る作品です。

木下 自然なやわらかな詩、障害を持ちながら強く生きている人への讃歌を、自分への励ましとして高らかにうたっている。演奏も切実感もあり立派。ただ誰かに歌ってもらうには少し実力が必要。音域もひろい。音域を少し狭める為に、出だしのドの音を使わない改善案を試みた。ドの音はやめて、レも避ける。そして2度音程を下げてみる。ある程度は使えそうだが、原曲より悪くなりそうで止めた。そんな模索をしてみる事も…時には有効なのだが。

木村 自作につき、この場での発言を控えます。

武  きむらさんの作曲作品には、その柔らかな声と同じ色の、突き抜けるようなさわやかさ、透明さがあるような気がします。この歌(特に前半)はその典型ですね。その中で、後半のハイトーンで連呼する「もう少しいきてやろう!」が心に迫ります。台詞になるところは特にぐっときます。そのアイディアもいいですね。

この音の高さ、音域の広さでは、普通の人には歌えない心配はありますが、それはそれとして、この歌の価値を落とすものではないでしょう。いい歌です。

長森 詩の中の「 幸せのタネなら  自分の手で蒔こうよ」と云うところが心に響きます。出だしのフレーズ(5小節) 、また途中の2拍子等に工夫が感じられますが、4小節を基本に作られるとより統一感が出ると思いますがいかがでしょう。演奏の力に説得力がありました。

 

2.ひまわり(広島)      ピアノ/若本真理子                                        

♪広島のおじいちゃん  (作詞/石本直 作曲/隅広智子 編曲/たかだりゅうじ)

石黒 被爆者のおじいさんの表情、喜怒哀楽を上手く表現しまとめています。おじいちゃんという個人の姿を通して被爆者全ての思いにつながりますね。3番の「核兵器」を「核」とするのはどうでしょう?核発電(原発)も含めたいなと思いました、福島で苦しむ人の姿は広島で原爆に苦悶する人々の姿に重なります。

木下 うたは上手です。曲も素朴で気持ちはとても良く判るが,詩の流れがやや、不自然というか、作為的というか…。おじいちゃんの人と成りが にじむような観察がどこかにあってほしい。でないと、心になじまない気がする。

木村 被爆したおじいちゃんが身近にいるという広島ならではの“日常を孫の視点で歌い込んでいったので、無理なく自然に入っていける。一番から四番までの構成もいい。メロディも自然な感じがしてとても良い。

武    よくまとまっていて、歌いやすい歌ですね。ことばとメロディのバランスが良くて、特に私は「明るくまわりを」のところが好きです。その時代を生き抜いたおじいちゃんの、優しい微笑みの裏の悲しみ、くやしさ、怒り、そして同じ時代を生きる私の「共感」、それらが一つの歌の中で溶け合っています。

ただ、1番の暖かさと、2・3番の厳しい現実の内容の違いを考えると、この二つの思いを同じメロディで歌い分けるのは、かなり難しい気もしました。「ソング」の永遠の課題とも思いますが、この曲のテーマはとても良いだけに、もう一度吟味して、全体の再構成をしてみてはいかがでしょうか?1・4は同じで、2・3は違うメロディにするとか。

長森 1番の詩とメロディ、また伴奏のアルペジオも合っていると思います。2番以降の詩とメロディの関係、又はコード付け等の工夫で、言葉がより伝わる様な変化が欲しいと思いました。間奏もイントロと同じではなく、4番の世界に誘う様な音の流れがあったらと思います。

 

3.どすこい(広島)      ギター/栗栖慎一                                                   

♪手をつなげる日を信じて ―川崎 桜本の人々のたたかいによせて―(作詞/二見伸吾 捕詞/どすこい 作曲/栗栖慎一)

石黒 人間を刃のように殺すのも言葉、あたたかく命をよみがえらせるのも言葉。言葉の重みを改めて感じた作品でした。冒頭のMCがかなり長かったです、これも歌詞の一部ととらえました。1番はストレートで説明的な言葉で書かれています、これはMCで伝えればよいのでは。2番で在日朝鮮人のおばあさんを登場させたように、1番でも川崎の市民の姿を書いて欲しいです、聞き手が歌に近づきやすくなりますよ。

サビの言葉はキング牧師の「愛だけが敵を友人に変えられる唯一の力だ」という言葉を彷彿とさせました。「愛よ憎しみをこえてゆけ」は素敵な言葉ですね、タイトルにしても良いと思います。

木下 こんな社会に立ち向かいたい意欲はすばらしい。「やがて、手をつなぐ日を…が」という納めもすてきだ。が、ことばの選び方がとても気になる。この詩は「作者の信念を吐露したもの」ではあるが、それをそのまま歌にするのは無理だ。(オペラの中での登場人物の独白なら、成り立つが…)歌の中には「拒否や非難」のことばで始まるものも少なくはないが、それが「和解」にまで発展するのはオペラのように、ある種のドラマを経て、音楽も力を発揮して…のことなのだ。うたは、感情の現在進行形のところがあって、この歌詞はとても概念的で理屈でなりたっている、という気がする。うたはコミニケーションのツール・通り道だから「誰に向かって、誰が歌うのか」作詞者の立ち位置を見定めて、素直に書き出してほしい。意欲すばらしい、再度挑戦を望みたい。曲はわるくない、魅力もある。が、この種のテーマは本当の包容力がないと伝わらない、とおもうが…。経験にしてほしい。

木村 ヘイトスピーチを取り上げるために学習し作品として仕上げたことにまず敬意を表したい。だが、その意欲が空回り気味になってしまったか。司会が紹介した原稿もコンパクトで素晴らしい内容であった。歌の前の説明は演説としても訴える力があった。だが、この長い前説は歌に対して効果を上げていただろうか。「愛よ憎しみをこえていけ」と言う創作のきっかけにもなったこの言葉が、司会と前説で語られ、歌の冒頭でも歌われた。大事な言葉はもっと効果的に使いたい。前説をなくし、「むきだしの悪意」から歌に入っても十分引き込んで行く作品になっていると思う。大事な言葉を最後の最後(ソングブックp8)で使うとしても、「差別はやめろ」と「愛」との間には相当の距離がある。日韓の間にある憎しみを越えるの形を探り当てて表現したいが、私には難しい。とりあえず「私は叫ぶ 『人は皆同じ』」としてみたらとしか言えないが。

武  今私は、毎日韓国人たちと一緒に仕事も活動もしています。10月には久しぶりに韓国に行き、歌も交えて交流をしてきました。両国の悲しい歴史を超えて、隔ての壁を打ち壊すものは何だろうと日々考える中で、この歌を聞きました。今私たちが最も心を痛めているこのテーマにまっすぐに向き合い、歌に仕上げたことにまず心を動かされました。最初の4小節「愛よ憎しみを超えてゆけ」は人類の最大のテーマだと思いますが、メロディも良くできていると思います。あきらめずに、希望をつないで、歌い続けていきたいです。

長森 想いを伝える曲への着眼点が良いと思います。AmEmFGの繰り返しが多いので展開部でのメリハリがあると良いと思いました。例えば「 いつか あのひとたちとも〜」からは同主調、又は其れまでに使っていないコード展開があったらと思いました。(川崎区での運動は思想信条、民族を超えて大きなうねりとなって来ていますね。「共にに生きる街」として、これからも互いを支え合い、地上から全ての差別が無くなる事を願います。)

 

4.バイオ亭長浜(京都)           ピアノ/橋本典子                                                            

♪憲法9条は世界の宝  (作詞/西田重好 作曲/奥村忠一 編曲/橋本典子・奥村忠一)

石黒 今年も9条をテーマにした作品に出会えました。憲法9条に強烈な嵐が向かってくる今日です、9条をテーマにした歌の大切さを感じます。

「平和の暦を重ねよう」は印象に残る素敵な言葉です。「ノーベル平和賞〜夢をみた」というフレーズがあります、インパクトある出来事でしたね、この言葉を受けて「夢を実現しよう」「咲かせよう」というようなフレーズがあってもいいかもしれません。

3番の「遺言だ」は考えさせられました。確かに9条守る集会には高齢者が目立ちます。「希望だ」とするよりインパクトがありますが、悲壮感を感じます。時々私もデモ行進に参加します、歩道を行く若い人たちの視線が淋しくなる時があります、自分たちとは違う世界に住む人々を見る目です。「私たちは先に死ぬけどあんたたちは生きて苦しめ!」とも思ったりします(なんと狭隘な心だ)。歌で「空元気」をふりまくのではなく、実現すべき「目標」をかざすことの大切さを最近思うようになりました。

木下 詞がいっていることは解らなくはないが、どうも傍観者的で、改憲の風が強められようといういまのご時世のなかでは、いささか頼りない気がする。曲はまとまりはあるがちょっと平板。もっと迫ってくる勢いが欲しい。

木村 九条の夢を見たと言う設定がいい。力まずに淡々と歌っていることもあって楽天的な希望を感じさせる。平和行進を歩き通した地道で力強い生き方が平和の暦を重ねようと言う訴えに重なる。だがラストの「平和の像」が“に聞こえてしまう。音符で処理したとしても「(平和の)像」が微笑む、と言うのは夢の果てとしてはインパクトが弱い気もする。最後はもう一度「九条は世界の宝となる」と歌って夢を現実の目標として歌いたい。その方が題名も活きると思う。

武 「憲法九条がノーベル平和賞をもらう夢を見た」いい歌の始まりですね。私も夢見ています。そこのメロディもぴったりです。来年こそ実現するといいですね。とても良い着想の大切な歌なので一言付け加えるとすれば、曲の最後が下がってしまうので、気持ちが納まらないと感じるのは私だけではないと思います。「重ねれば」(14小節)でCまで音が上がっていくのですから、「九条は」以下は上のDE♭まで上がり、最後は下のB♭ではなく上のB♭で納めるというアイディアはいかがでしょうか?

長森 曲の出だしに同じ音を多用することで、効果的な場合も有りますが、メロディの推進力を保てないこともあります。全体の小節数が14小節ですので、最後の「九条は世界の宝となる」と云うところは 4小節を掛けて纏められたらいかがでしょう。

5.伊佐昭代(京都)      ギター/伊佐昭代                                                                        

♪わたしのままで          (作詞・作曲/伊佐昭代)

石黒 実際にお母さんに対応してこられた方ならではの歌詞です。作者の喜び後悔がストレートに伝わってきます。私も認知症の母と4年間つきあったのでとてもよく判ります「今夜のオカズなにぃ?」「茶わん蒸しだよ!」何度やりとりしたことでしょう。

丁寧に書かれた歌詞です。「ずっと私のままで」という言葉、思いが凝縮した言葉で、よいタイトルになっています。

「そんなら〜書いてみてや」の一行、効果的です。歌を引き上げるリフトアップ効果大です。次回はお母さんとのもっと楽しいエピソードが書けるはずです、ぜひトライして下さい。

木下 観察も丁寧。とても心にしみる、実感に満ちた詩だ。メロディも無理をして叫んだりしないで淡々と言葉を運んでいるのが、お母さんとの身近かな距離を感じさせていい。ただ、低すぎる。そして長い二連の詩が全く同じように歌われるのはつらい。第2連の最後「思いに触れてみればよかった」の行を、例えばaのように貴女の感情がもっと流れ出してくれたら…、(その場合はこの詞を二度繰り返しで、1番はここで終わる)この詞の第三連は(1、2番を一つに)三番としてもう少し表情的に作る。ここは淡々と、でなく(長い音符も交えて)貴女の想いがほとばしってほしい!良いうたになると思う。歌詞の「わたしのままで」と「あなたのままで」の関係がわかりにくい。(aは参考まで)

木村 今ではどの家庭も避けては通れなくなった認知症の問題。体験に基づく描写と心の揺れが、抑えたメロディに乗って語られ共感する人も多いだろう。それらは「奥深くしまわれた思い」と言う表現に集約されている。最後は「ずっとあなたのままで」が「ずっとわたしのままで」に変化し、わたしの無念さとそれを繰り返さない意思を表明している。だが「奪わないで・・・記憶を」と連結しているために1回聞いただけでは気がつかない人も(私がそうでした)。最後も「ずっとあなたのままで」と歌い切ってから「ずっとわたしのままで、どうぞわたしのままで」と繋いだ方が伝わるのではないだろうか。

武  私小説に対して、この歌は「私歌」でしょうか。美しい歌とメロディに載せて、伊佐さんの思いが痛いほどに伝わってきます。台詞になるお母様の言葉や、アカペラになるところなど、作者の工夫されたことが、この曲のなかで生きていると思います。おおよそ16分音符の語りの小節と、音がのびる小節が交互にずっと続きますが、「誰よりも無念なのはあなた」のところで初めてそれが崩れていて、無意識かもしれませんが、そのことで胸に迫るものが生まれた気がします。うまい!と思いました。

長森 詩の中で「帰って 何がしたいの? 誰に会いたいの?」「あなたの昔話に  何度も耳傾け」…と云う箇所も心に触れます。「でも 誰よりも 誰よりも 無念なのは あなた」からは曲に変化が欲しいと思いました。

 

6.仙台合唱団若星Z☆(青年)   ピアノ/小林康浩                                           

♪もういちど (作詞/薮田陽司 作曲/大沼陽子 編曲/小林康浩)

石黒 大切な人を失った心象風景を切実さ、緊張感のある言葉で表現しています。

よくまとまっています。歌は演奏することによって第三者に伝え、共感(反発)してもらい完結します。作者の心象風景ばかり語られても共感しづらいです。作者と喜び、哀しみを共感・追体験する扉を開けて下さい。この作品では「君」の姿が見えてこない、男かな女かな恋人かな。

作者は構成力のある人です、君のシルエットが浮かんでくる作品にもう一度トライしてください。

木下 うたが生まれてきた情況への手がかりがあまりなくて「もう一度,幸せな日々を」のイメージがとても作りにくいのが残念だが、歌としてはとても歌いやすくいいとおもう。ただ、このうたの背後に何らかのドラマがあるとしたら、1行でも書き込んでほしい。

木村 私は、宮城県の合唱発表会でこの歌を聴いた時、ピアノを弾いて作曲もする若手が現れた、何年か前に感動的な詞を書いて感動を覚えた彼がまたやってくれた、とワクワクしたことを思い出す。「なにげないことがいつの日か/かけがえのないものに変わっていく」。明確な目標や生き方は見えていなくても、何でも、とんでも無いこともできそうに思って走り出して行く、そんな青春時代の胸騒ぎを感じさせてくれる。だから、ラストが「幸せな日々をもう一度」というのは、ちょっと残念。メロディもそこだけおじさんっぽいと感じてしまう。「幸せ探しにもう一度」とか、まだ達成していない高みを目指した曲にして欲しいと言うのは、おじさんの勝手な願望かも知れないが。

武  初めのアカペラ、また途中の音の重なりがとても素敵でした。「何気ないことがいつの日か、かけがえのないものに変わっていく」本当にそうだなあと思います。私は特に「あのときの〜」からのメロディの広がりが好きです。いいですねえ。

ただ私なら、もう少しこの歌詞には、ゆっくりした流れのメロディをつけるでしょう。この速さだと詞の余韻に浸る前に次々と進んでいってしまう気がするからですが、それも高齢の講評委員の故、お許しください。「音のボキャブラリー・音感覚」が年齢によって違うのですね。次作、次々作を心から期待しています。

長森 曲としてよくまとまっていると思います。展開からのメロディの流れも自然で良いと思います。出だしのharmonyもいいですね。 その上で曲の核となる様なメロディのインパクトがあったら、と思いました。

 

7.さかちゃんと仲間たち(大阪)           ピアノ/南村知佐恵 ギター/榊原あきひろ                 

♪君と この町で   (作詞・作曲 榊原あきひろ)

石黒 瑞々しい歌詞です、ノリのいいメロディーにぴったりの歌詞です。構成力があり上手に展開させています。きっと作業所の仲間たちに愛され歌われていることと思います。

シンプルな言葉のリフレイン「会いに行こう」「汗流そう」「声あわそう」「がんばろう」歌詞を引き締めて効果的です。

冬に咲く花さざんかは、演歌ではネガティブなイメージで使われることが多いけれど(大川栄作「さざんかの宿」森進一「さざんか」等)、本作の4番では冬の厳しさの中で元気いっぱいに咲く姿を仲間たちに重ねて心にくいばかりです。秀逸な作です。

木下 このうたが歌われる情況をよく考え、若者たちが飛びつきそうな、割り切れた明るさがいい。ただ、この譜面では難しそうに見えるので、三連音符を 単純な付点音符として記し、曲頭にbのように但し書きを書く方法がいいかもしれない。(ポピュラーではよくある)

木村 印象的なイントロと軽快なリズムでだんだん楽しくなってくる。前半の1目を強調したところも面白い。エンディングでもう一度楽しい変化がある。歌詞も季節の進行と花の移ろいを上手に盛り込んでいます。素敵な曲です。

武  4年前にうかがった羽曳野園の人たちの顔を思いだしながら、思わず一緒に口ずさんでいました。暖かくて親しみやすい、いい歌ですね。前半の軽やかな音の形(シンプルですが新鮮でいいです)と後半の伸びやかな音の対比が素晴らしいです。今回特に心に残った歌の一つでした。

長森 リズミカルで自然に口ずさみたくなるメロディですね。よくまとまっていると思います。四分音符、二分音符の流れの後にある三連符が効いています。

 

8.C57(宮城)            ピアノ/小林康浩                                                                  

♪白鳥の歌   (作詞/山本芳恵 作曲/小林康浩)

石黒 オリジナルコンサートではなかなかお目にかかれない叙情的な歌詞です。厳冬の季節の白鳥の姿が見事に美しい言葉で書かれています。しかし叙情だけではなく、作者の生き様、思いを託しています。全編を通じて張りつめた緊張感漂う歌詞ですが、特に3番が心にしみます。「大地と空の約束」とはせんじ詰めれば「希望」ですね、秀逸な作品です。演奏を聞き終えた時、皆さんの心にも白鳥がふわり舞降りたことでしょう。

木下 始まったとたんに、会場の空気がスットさわやかになり聴衆の耳が集中するのがわかる。名歌名演と言う感じ。一聴してロシア民謡とムスタキの土壌を感じたが、悪いわけではない。女声合唱にしてほしい気もした

木村 傷ついた体を癒し慈しみ、再会を待つ。白鳥を歌っているのに様々な想いを巡らせてくれる。実力のある4人の歌い手が小林氏の音の広がりをしっかりと伝えている。小林氏は専門家だから誰の詞でもいい歌になって当たり前、と思う人もいるだろうが、私はそうは思わない。この歌の中に流れる生命への深い疼きにも似た心の動きは、そう簡単に生まれるのもではない。専門家をその気にさせる詞がそこになければ心に響く歌は生まれてはこないと思う。

武  音とことばが心にしみわたりました。いい歌ですね。始まりの4小節のメロディの中で、「み」のCの音の使い方(そしてコードがB♭)がうまいです。しびれました。

これは単なる情景を歌ったうたではなくて、別の何かを暗喩しているのではないかと思いましたが、いかがでしょうか?7と並んで、今回心に特に響いた歌の一つです。

長森 作詞がよく生かされたメロディになっていると思います。展開部からテーマへの流れも良いですね。演奏では、主旋律を際立たせる様オブリガードの音量も調節しましょう。

 

9.福井のうたごえ(福井)        ギター/斉藤清巳                                                            

♪相談したい 〜共謀罪って知ってる?〜     (作詞/山田文葉・伊藤さちこ 作曲/山田文葉)

石黒 日常の暮らしの中からこぼれる言葉「相談したい」。よいタイトルです。ストレートに「危険な共謀罪」とか言わないところが良いです。日々のありふれた風景を描いてそれが奪われていいの?と提起します、しっかり聞き手に伝わる手法です。説得力有りです。

守ろうではなく「明日を作ろう」としたのはより積極性があります。

歌詞の中で「相談」という言葉を使っているのは1か所です。タイトルにしているのですから、「みんなと相談したいよ」という思いが全編貫くために、もう一言あってもいいかと思います。

木下 共謀罪のことにうたで立ち向かう意図はとてもいい。それなりに面白いが、このままでは、説得力が弱いと思う。理屈でない歌で説明するのは、どこに切り込むのかよく調べないと伝えきれない。私見では「共謀罪」は「司法取引制度」「秘密保護法」などとセットで運用されることで、「国民を誰でも拘束できる」悪法なのだ。ここでは、後は書けないが、つづく2の矢、3の矢を期待したい。

木村 共謀罪の問題点をわかりやすく伝えていて、知ろうとするきっかけになる。テーマが難しそうなだけにこういう歌は貴重だと思う。演説であれば、言い足りないところが沢山あるかとも思うが、問題の総てを詰め込まないで“きっかけに撤したのですっきりしている。サビも3番まで同じなのでわかりやすく、歌いやすくなっている。

武  次々と悪法が生まれるので、今やあまり話題に上らなくなってしまってきている共謀罪、その恐怖をもう一度知らしめる意味で、非常に意味の深い歌だと思います。

後半のコードは、斎藤さんが弾いているもののほうがいいですね。アピールの深みが増すような気がします。中間部分、はっきりCm調への転調として、楽譜も作るほうがいいのかなとも思いました。全国に歌い広めたい歌です。

長森 共謀罪って知ってる?と云うサブタイトルが生かされる曲作りになっていると思います。「そんな大事な 時が〜」 からの短調が効いていますが、「大事な」 と云う旋律は 高低アクセントも考えつつ、もう少し訴えかける旋律の力が欲しいと思いました。

 

10.伸介ッターズ(宮城)           ピアノ/小林康浩                                                            

♪大臣様の流行語2017 (作詞・作曲 佐々木伸介)       

石黒 今年も出ました伸介ニュース! 春の創作のバージョンアップです。アナウンスの初めのピンポンパンポ〜ンという音も歯切れよく元気です。作者の着眼点はぶれません。「忖度」は今年の流行語大賞なりました。しかし世の中の動きはめまぐるしく、時事ネタの作者は苦戦するところですね。私は北朝鮮のミサイル問題を期待しましたが。

「カゴイケさんが 〜 あわててオウムに八つ当たり」 歌詞を文字で追っていくとよく判りますが、演奏だけでは分かりづらかったので一工夫あればと思います。

木下 戲作精神旺盛!毎回、佐々木さんのだしものが 楽しみになってきそう。合唱団も従えて、今回も力作と思う。しかし、この種のうたは「作る」とともに「言葉が届く事」が命なので、仲間うちでいいから「演出者」の役割を果たす人をたてて、ポイント毎のチェックをするようにしてみたらどうか。大事な言葉が届かないこともあって残念。

あとは、創作の常道だが、「沢山作って、いいものだけ遺す」その勇気を!

木村 3年連続の「大臣様の流行語」。昨年は平成の啞蟬坊としてシリーズ化を、などと勝手なことを書いたが、曲も歌も、人数もパワーアップしての出演となったのは凄い。4月の全国創作講習会で東北から只一人参加して、黙々とこの歌を創っていた伸介さんの意欲は素晴らしいと思う。彼の周りの人も歌や踊りで盛り上げてくれています。この才能をもっともっと発揮できるようにと願います。時事ネタは時間の経過とともに歌う場面は少なくなるが、忖度問題については国会での議論を逃げているので、喉元過ぎて熱さを忘れるということにならないように、大いに歌いまくって欲しいです。

武  今やオリコンの定番になりつつあるこのシリーズ、待ってました!と、とても楽しみにしていました。今年も笑わせてもらいましたが、ただ、パンチに今一感があったのは、佐々木さんの問題ではなく、籠池さんがすでに過去の人と追いやられてしまうような、政治の現実に理由があるような気がします。この種の歌は、後に出てくる「シンゾウ君」の歌が、提出したものから、歌詞を新しいものにさし替えて演奏したような工夫(生々しさ)が求められるのかもしれません。まったくひどい話ですが。

長森 ニュース性のある話題をユーモア込めて愉しく纏めていらっしゃいますね。口上も楽しいです。最初と最後の「ピンポンポン ポーン」の音程も良かったです。

 

11.合唱団この灯(東京)           指揮/長久真実子 ピアノ/岩崎結                            

♪ぼくの声きいて 〜アフガニスタンより〜(作詞/江森百合子 作曲/慶野未来 編曲/長久真実子)

石黒 秀作です。1、2番の1行目「今もまだ地球は青いままですか」「今もまだ地球は丸いままですか」という歌詞は実に効果的です、作品世界にぐっと引き寄せられます。その後の展開も見事です。3番の2行目は1、2番を受けて「地球は青く丸いです」のほうがいいかな。

アフガニスタンをとりまく状況は、10年以上経過しても好転していません、地雷は完全に除去されておらず、被害が無くなりません。随所で自爆テロも起きています。世界には数多くの矛盾が噴出して昨今シリアの難民問題等に人々の目が引き寄せられましたが、アフガンの問題が消えた訳ではないということを幼き人の声にして伝えています。

木下 江森さんの詩は、人をひきつけるところがある,いい詩だ。曲も丁寧に届いてくる。慶野さんも力量を感じるしとても自然でいいし、合唱団もしっかりうたっている。けれど、全体として何かもの足りない。詩をよんで,三番の主体がそれまでと変わってきているのか?1、2番のアフガンの地から発せられた言葉と、それを受けとめる私たち…なのか?言葉の主体をこの作曲者はどう受け止めたのか?歌い手達はどうか?-三番の後半はもっと切実でもよかったかも?3番で聴き手をもう少し納得さしてほしいのだが…。

木村 なぜアフガニスタンなのかわからなくても、子どもたちの目を通して地球の人々に平和を訴える歌になっていると思います。そういう状態に置かれている子どもがアフガニスタンばかりではなく沢山いるのが悲しいですね。

武  一度聞くと、耳から離れない歌でした。詩も、それに載せたメロディも良くできています。金沢からの帰りの新幹線の中でも、「今でも青いままですか」のメロディがふっと聞こえてきました。「あおく」の、上のFの音の使い方がいいですね。コードの中のF#の音が耳に残っている中で。演奏もすばらしいですね。よく歌いこまれています。

ただ全体を聞いたときに、微妙ですが、やや単色平板になりがちな気がするのは、メロディが3番ともほぼ同じこと、また、ピアノの伴奏が8分音符で(淡々と?)続きすぎることによるのではないかとも思います。そのほうがかえって悲しみが伝わるという考え方もあるので、ここは難しいところですが。

「僕たちの」からは別のメロディになるとか、どうか、からはもっと迫った別の伴奏の形にするとか、もう一工夫が欲しい気もしました。

長森 全体的にまとまりが有りますが、メロディの冒頭など、もう少し吸引力が欲しいと思いました。「今でも 夢みて 信じて」に出てくるA C E D−の旋律が印象に残ります。

 

12.ホームシックス&北の国から合唱団(北海道)   指揮/高畠賢 ピアノ/佐藤幸恵・山田しのぶ  

♪さらば しんぞー君  (作詞/大堀尚己 作曲/高畠賢 編曲/佐藤幸恵)

石黒 トランプ大統領が「シンゾー」と呼びかけていたのを思い出しました! 「安倍」よりも軽みがあっていいですね。権力者を揶揄するには軽さが必須アイテムです。これも時事ネタ創作ですが、新たに冊子に載っていない前原、小池も登場するという速攻性、意欲的です。

合いの手の「ハイツギ」「オツカレ」が効果的でした。演奏者が恥ずかしがらず、堂々とすることが決め手と見ました。楽しかったです。

木下 変転する政局にあわせて歌詞を変え演ずる離れ業にビックリ!日常活動の積み重ねと感じ入る。実は私も大好きで、娯楽版と称して乱作したこともある。さて、これは長い詞をうまくまとめている。気軽につくる良さ、と自由に発想できる楽しさがわかる。がんばってほしい。が、わる慣れしないこともたいせつ。伴奏の隠れた所でもいいから、何か新しい工夫をしのばせる心意気をお忘れなきよう!

木村 こんなに立て続けに去って欲しい人が出てくるのは情けない世の中だが、ソングブックp25の歌詞ではご時世に合わないとしんぞー君の歌詞を変え、その後を前原くん、小池さんと続けて時点修正したのは、時事ネタ創作の真骨頂。原稿を入稿したからで終わらせないところが素晴らしい。しかも全員暗譜でしっかりと歌っていたその意欲もすごい。ダンサーズの踊りも面白い。

武  ひどい政治とひどい選挙結果、せめて歌って嗤い飛ばすしかないような現実の中で、この歌の登場を、待ってました!と、共感する人は全国にたくさんいると思います。ぜひメジャーデビューしてください。「オリコン」上位確実、大ヒット確実です。

10月末の選挙結果を待って、歌詞を刷新したことも評価されます。しかし籠池さんがすでに過去の人になってしまうような現実を、しんぞー君はどう考えているのでしょうね。腹が立ちます。

長森 冒頭のメロディと言葉にインパクトがあります。ユーモアを込めて表現することで より多くの人々の共感を得ることでしょう。皆さんのharmonyが決まっているところが流石です。

♪信頼         (原詩/乳井有史 作詞・作曲/高畠賢 編曲/高畠賢・佐藤幸恵)

石黒 構成劇「エルムに寄せて」の中の一作ということです、他の作品を聞かず講評するので言葉足らずになってしまう部分もありますがご容赦下さい。

堅牢な土台に積み重ねるように構成された歌詞はよくまとまっています。ヘイトスピーチを止めようという趣旨の作品がありますが、それと通じるものがあります。「信頼の言葉を力に変えて」、この言葉は未来を切り開く言葉なのですね。

歌詞が少し説明的になっています、例えば私たちが手を携えていく相手の顔が見えるとリアリティーが生れるのですが。

木下 構成劇からとあるので、この曲が歌い出される情況を推測するしかないが、この詞はいわば「宣言文」で、普通なら「信じ合おう」という言葉を「信頼」にしている。この作詞の姿勢がなぜなのか、構成劇の台本を読まないとわからない。それらから離れてこの曲を聞くと、“親しみ”よりは“威厳”を感じるし合唱も良く出来ているのだが、なにか上から目線の胸に落ちにくいものも残る。これは、四部譜がほしい。

木村 構成劇の劇中歌ということもあり単独での評価は難しい。憎しみと暗闇を友好と連帯に変える絆を結ぼうという訴えの最後に「信頼の言葉を力に変えて」と結んでいるが、その「信頼」の根本が見えない。きっと劇中にその答えがあるのだろう。演奏に集中力があるので、「信頼」することの大切さを合唱団が体で示しているとも感じる。そう言う意味では信頼し合って歌っているのに、「信頼という言葉」の言葉だけが浮き上がってしまう。文字数を無視すれば、「信頼」を力に変えて、「信頼」を未来のために、とした方が北の国から合唱団には似合っていたかも。

武  名曲「しんぞー君」の余韻がまだ会場に残った中での演奏だったことも、この曲の印象を薄くした理由の一つですが、それだけではなく、歌の中に入り切れない理由がどこかにありそうです。

        いくつかの組曲の中の一つだったり、劇中歌であるならばまったく違いますが、単体としてこの歌を聞くと、「標語」を歌にしたような気になってしまいます。詞を再構築されるといかがでしょうか?テーマも含め、もちろん音楽として、歌としてよくできています。16分音符がずっと続く展開から、「さあ手を携え」で、ゆったりとした流れになるところもさすがにうまいと思いました。

長森 イントロは綺麗な流れでしたが、曲調と少々乖離していると感じました。6小節目から、16分音符の流れが8分音符になることで唐突な感じを受けます。冒頭の4小節にメロディの魅力を感じます。

 

13.合唱団きずな(神奈川)        アコーディオン/内田興明                                                 

♪うたのきずな   (作詞・作曲/合唱団きずな 編曲/田中雅子)

石黒 平均年齢を聞き驚きました! Tシャツ姿のみなさんはとても元気でお若いです。しかし人生経験豊富な方ならではの心に響く演奏でした。

短いフレーズの中に必要なことをきりりと書き、しつかり構成している見事な作品です。一見ありふれた言葉なのですがリアリティーがあります、それはみなさんの実体験の中からうまれてきた言葉だからですね。これからもお元気でどんどん創作して下さい。

木下 こんなうたがあってもいいし、うたいやすくできているが、メロディに新鮮味がほしい。高齢化の日々をもう少し観察するといいネタがもっとあり、それは新しいメロディの元になるはず、とおもうが…。

木村 平均年齢75歳とは思えない若々しさ。「腰・膝痛いし、もの忘れ」と歌っているが、青春時代の若さをそのまま保っている演奏になっている。「青春のあの時出会った歌が今日もみんなの心のきずな」と歌い上げている。戦後72年間の歩みを集大成しているような詩だ。だから、表題は「心のきずな」、「きずな」若しくは「うた」とした方がすっきりすると思うのだが・・・。

武  小品ですがいい歌ですね。こころにじんと響きました。私もそうですが、青春の時に出会った歌がこころの絆ですね。あの頃の歌、そこに今の私の原点があるような気がします。 2番への展開が面白くて、失礼ながら思わず笑ってしまいました。どうぞ愉快なお仲間たちと、これからも歌い続けてください。

長森 5小節目の 34を変えたことで、4拍子の自然な流れが出たと思います。2小節目の 「戦火」「もの忘れ」「幸せ」と云うところでは、言葉の高低アクセントとメロディについて考えると更に良いと思います。8小節目から旋律の自然な流れを感じます。 団の愛唱歌があるっていいですね。

 

1413Chika(東京)    ピアノ/宮津日留人                                                         

♪石語り     (作詞/十三与太郎 作曲/山田千賀子 ピアノ編曲/宮津日留人)

石黒 タイトルにまず惹かれました。田舎の道端に並ぶ石仏たち、風雨にさらされた優しいお姿、うららかな陽射し、鳥の声も…イメージがどんどん広がって行く魅力的な作品です。表現も秀逸です「時に流れをしょいこんで石神様は丸みおび」なんて素敵です!

石の仏さんはその土地の文化、生活様式を映していますね、街道ぞいには馬頭観音さんが立ち、養蚕のさかんな村ではねずみを採る猫の石仏があり。作者の故郷は、竜神さん―大きな池があるのかしらん、余韻をたのしめる作品です。

歌詞は定型です。古風な言い回しで効果的ですが、言葉の伸びが切れてしまうのでもったいない気がしました。

木下 おもしろいタイトルだ。縦詩で読んでみたかった。うたはとてもおもしろいが、誰かに聞いてほしい、うたってほしい,と言うよりは、唱え歌(となえうた)のように自分だけで歌い自分だけで納得しているような,素朴なよさとアッケなさ!ピアノ譜はそれを妨げないように、慎重に書かれていて,成功もしている。けれど、この詞の持ち味はもっと面白い曲になる気もする。

木村 石だというのに感じてしまうという最初の吐露が、聴き手を作者と同じ位置に引き寄せることに成功し、作者の心の動きが自然に伝わって来る。歌もさすがの演奏で、素敵な歌曲になっている。

      「この歌の世界は?」まず曲名にひき込まれます。新しい歌ではなく、日本歌曲のなかに昔からあった歌のような存在感があります。なんだかこの詩も心地よくて素敵です。(感覚的ですみません)メロディに3回出てくるE#が(A+5の和音)効果的に、石語りの世界を形づくっているように思います。佳品です。

長森 詞に合った旋律線だと思います。イントロの雰囲気も曲を生かしていると思います。3番まで同じ調子なので、間奏をいれたり、最後の4小節などで変化をつけてみると云うのはいかがでしょうか。

 

15.うたごえオールスターズ(和歌山・教育)        ピアノ/佐古雅哉                                     

♪やんばるトゥバラーマ        (八重山民謡 作詞/浜波薫 編曲/佐古雅哉)

石黒 八重山民謡に歌詞をつけた意欲的な作品です。残念ながら八重山民謡のトゥバラーマを聴いたことがありません。BIGINの「島んちゅの宝」のフレーズに「トゥバラーマもデンサ―節も」とあったなぁ程度のことしか知りませんでした(反省)。トゥバラーマは即興性のある民謡で多くの歌詞が残されていると聞きました。男女の相聞歌あり、美しい自然への詠唱あり、自由にその時々の思いを歌詞にして歌ってきたのですね。どこか朝鮮半島のアリランに通じるところがありますね。

トゥバラーマに託した、やんばるの森の生き物讃歌、作者の着眼点がとてもよく、成功しています。

木下 有名な民謡できっと各地方にさまざまな歌い方が残っているはず。編曲はキーボ−ドのことか、男達の気迫ある声にインパクトがあり、会場の空気を引き締めた。

木村 一番だけの演奏で残念でした。八重山の民謡トゥバラーマは、男女のそれぞれの想いを掛け合いで歌う相聞歌と聞きました。郷愁を誘う民謡に乗せて、やんばるの生命への想いが短く優しい言葉で語られています。

武  この曲は、八重山の民謡に浜波さんが新たに詞をつけたということでしょうか?5番まで聞いてみたかった気がします。歌詞の意味もお聞きしたい気がしました。

長森 八重山民謡の旋律が生かされる編曲になっていると思います。


♪雨の記憶 (作詞/浜波薫 作曲/佐古雅哉)

石黒 トゥバラーマと同じ作者の作詞による作品です。タイトルに雰囲気がありいいです。冒頭の「月桃の花咲く雨の季節」というフレーズで一気に物語の世界に引き込まれます。淡々と70年前の日々を語る口調、感情を抑えた表現が過酷な様子を印象深く伝えてくれます。

「思い出すのもつらい」と表現していますが、別の表現・言い回しはないでしょうか。「つらい」ことは十分書かれているのであえて「つらい」という言葉を避けてほしいと感じました。「心の中に閉じ込めた」「胸の奥にうずめた」のような。

木下 「雨の記憶」沖縄戦でのこのような詳言が出てきたのは、やはり一つの衝撃で、作詩者は当事者なのか無駄もなく淡々と言葉を運び曲もまたあまり激することもなく、だけど想いが届くように丁寧に作られている。詩の第三連にある「夢見る兵隊」が第4連の冒頭で「すぐに打ち砕かれ」の簡潔さが、やはり当事者でなければ出て来ない感覚でないかと推察する。全体に変化がなくやや長いのがつらいが、やはりとても印象に残る作品と演奏だった。作者の事を知りたい。

木村 15歳の少年兵が集められゲリラ作戦を強いられた「護郷隊」の存在。あまりにも辛い体験で多くを語らなかった当事者の方々の少年の想いを目の前に映し出すように描き出した。残虐な言葉を使うことなくその異常な体験を伝えていて、胸に迫るものがある。「辺野古崎の風に吹かれ」のコンビが、また素晴らしい作品を創ってくれました。

武  なんとも悲しい詩の世界ですが、これが現実であり、同時に後世に伝えなければならない使命を持った歌ですね。雨の記憶というタイトル、またその視点も、非常に心に深く響きます。沖縄の音階を匂わせながら、やわらかな良いメロディがついていますが、残念ながら私には、この詩の世界とのバランスに、やや違和感を感じました。すみません。もちろんこれは感覚の問題なので、作品の価値を低くするものではありませんが。

長森 忘れ得ぬ記憶を よく詞にまとめられていると思います。メロディの流れの中に 時折 琉球旋法が使われていますが、F-durの流れの中で唐突感が出ない様、自然な流れがあると更に良いですね。

16.眞柴泰久(京都)      ギター/眞柴泰久                                                                      

♪帰ってこいよ この街へ    (作詞・作曲/眞柴泰久)

石黒 息子に寄せる深い愛、思いにあふれた作品です。小さいころの様子をサラリと書いていますが愛に満ちています。「君と一緒にいるのがうれしい」心にしみる一言。

1連目の「君は何年 この街にいるのか」というフレーズの意味がいまいちよく判りません。帰ってこいと言っている街に何年いるのか…転勤で一時的に居るのかな。

木下 うたは上手だ。曲はほとんど同じリズムパターンですらすらすすむ、さいごの8小節がこかせどころなのだが、このメロディの骨格は、リズム・アンドブルースの名曲にありそう。(厳密にみると違ってはいるのだが)詞の中にある「3行目の「この町」と10行目の「君の故郷・この街」と 同じなのか別なのか? 歌としてはどちらでもいいのだろうが、読んでいてわからない。架空のことであっても、一応のケジメは持ってほしいと思うのだが…。

木村 かつて、さだまさしさんの「案山子」を聴いて、2人の子どもを東京に送り出していた私の母が泣いているのを思い出した。父から子へ語られる歌は少ない。「帰ってこいよ」と率直に語られる想いが心に沁みてくる。

武  眞柴さんの思いが、私の思いとも重なって、心にしみます。タイトルにもなっている、最後の「かえって来いよ、君の故郷へ」のメロディがことばとよくハーモニーしています。個人歌ですから、もうそれで十分で、以下は蛇足にはなりますが、譜面を見れば視覚的にもわかるように、40小節(繰り返しを入れ)全体が、すべて奇数小節で動き、偶数小節で止まる、という展開ですが、少し退屈かなと思いました。おおきくなった、からは別のリズムパターンで進み、かえって来いよ、でまた最初のパターンに戻ると、「帰ってきた!」という思いが増すような気がします。

長森 メロディの流れやまとまりが感じられますが、 同じリズムの繰り返しが続くので、 中間部で 違うパターンを持ってくるのも良いと思います。

 

17.山崎義昌(岡山)    ギター/山ア義昌                                                    

♪舞ちゃんの応援歌      (作詞・作曲 山先ア義昌)

石黒 新人舞ちゃんの姿が生き生きと浮かんでくる、楽しい歌詞です。展開がうまく上手にまとまっていますね。こういう職場からの作品もいいですね。新しい環境に慣れるのが精いっぱいの新人の様子を、はらはらしながら見守る作者のあたたかな眼差しを随所に感じます。舞ちゃんは先輩のことをどう思っていたんでしょうね、書いて下さい、そして3年目の様子もぜひ。

タイトルは「それゆけ舞ちゃん」というのもリズミカルでいいような気がします。

木下 たのしく、愉快な気分になるいいうただ。で、誰に歌ってもらうんか? 聞いてもらうのか? まず作者が歌い、舞ちゃんを囲む仲間が歌い、舞ちゃんに聞いてもらう。舞ちゃんのご両親にも?…となると、これは舞ちゃんのケコン式での出し物かな?

木村 職場の若い人をテーマに歌を創れるということは貴重なこと。歌う場面もあるのだろうか。あるのだったらきっといい職場の雰囲気なのだろう。だが、応援歌としては4番の笑顔和ませるだけではどうなんだろう。彼女の夢や希望にも触れて欲しいと感じた。歌い終わって拍手を受けて「今はガッっつら働いています。」という趣旨の発言をして舞台を下りられたが、その補足発言を必要としない歌として完成させて欲しい。

武  暖かくてほほえましい、思わずほっこりしてしまうような歌ですね。2、3番と、ことばに添って、メロディが変化していくのも、うまいなあと思います。「それゆけ舞ちゃんの〜」のメロディが良くできていて、耳に残りました。舞ちゃんはこの歌をお聞きになったのでしょうか?

長森 新入社員への応援歌として何かほのぼのとした温かさが伝わってきます。冒頭の旋律を7小節でまとめていますが、5小節目のパターンを(音を変えて)2回繰り返してはいかがでしょう。

 

18PPK88(岡山)          ギター/石原みゆき                                                                     

♪スマホに子守をさせないで (作詞・作曲/佐藤千鶴)

石黒 グループのネーミング、ぴんぴんころり88が愉快です。この作品がテーマにしている話題は、最近新聞で知ったところです、リアルタイムなテーマを上手に書ききっています。オリコンでは少なくなった「職場からのメッセージソング」に出会えて嬉しいです。タイトルもインパクトがありますね。

幼いころからスマホに囲まれて育った子はどうなっていくのか心配です。ぜひ色々な場所で演奏してください。

木下 仕事の中で気づいたことをうたったのだろう。大きな明るい声でとてもいい。ただ、いっていることは、もっともだが、全体に近親感がほしい。若い両親を自然に引っ張り込むような「どうして泣いているの?」「さびしいの?」とかのやさしい問いかけがあってもいいかも。スマホいじりの母さんによほど頭にきているのかな?うたはコミニケーションだから相手にどう伝えるのかの配慮が大事。

木村 子育てにはスキンシップやコミュニケーションが大事だという趣旨はわかるが、表題との関係がしっくりこなかった。「スマホに子守りをさせないで」と一方的に押しつけるように聞こえる歌を若い母親が聞いてくれるだろうか…。とここまでは当日感じたこと。帰ってから調べたところ、表題は日本小児科医会が提唱している子育て観で、同名のリーフレットが普及されたが、その考え方には賛否両論ある、ということ。だが、そのリーフレットで提言しているのは「メディア漬けを見直しましょう」という内容であって、やはりキャッチコピーの強烈さがひとり歩きしている感もある。そこでもう一度ソングブックp36の歌詞を見る。「子育てアプリに頼らないで」と言ってはいるがその現象を歌ってはいない。表題やその歌詞を「スマホばかりを見てないで」とした方が若い母親にも響きやすいし、何より赤ちゃんの代弁らしくなるのではないだろうか。

武  今はスマホに子守させている親がたくさんいるんですねェ!はるか昔に子育て卒業したものには、予想はできても、びっくりの真実でした。それだけでも印象的ですが、歌も明るくさわやか、最後の4小節でしっかり締められていて、よくできた歌だなあと思います。導入のテーマソングと併せ、今回印象的な歌の一つでした。日本の健康な未来のために、ぜひ広めて歌いましょう。

長森 出だしから惹きつけられるメロディです。沢山のママやパパに聴いて欲しいですね。「スマホに」と云う箇所、日常会話で「ス〜マホ〜」とは言わないので音節に則したメロディですと 自然な感じが致します。

 

19.岡山市役所エゴラド合唱団(岡山      ピアノ/河内眞弓                                    

♪ありがとうあなた      (作詞・作曲/高畠尚樹)

石黒 パートナ―に対する感謝と愛情に満ちた作品、こんな歌をプレゼントしてもらえるパートナーは実に幸せですね。しかしこの作品からは大切なパートナーの姿が浮かんできません。大切なパートナーですリアルな姿を知りたいです。具体的なエピソードを描いたり、パートナーの癖、どんなとき笑うか、怒るか、何が一番うれしかったか等々を聞かせて欲しいです。

木下 音域が低すぎる気がするが、作り手がバスだったのかな。こんなうたが あってもいいのだが、公に発表する必要があるのかな?。曲はまあ要領よくまとまっている。

木村 何も言うことのない素敵なラブソングです。パートナーを想う気持ちがいっぱいいっぱい詰まっていて聞く方も幸せになります。

武  いいですねェ。お幸せですね。メロディはどこも素直で温かいですが、特に「それは奇跡」のあたりの音の色がすてきです。ピアノ伴奏も工夫されていてよくできています。暗い悲しみ色の日々はなかったのだろうか?あえて無理に入れることはないですが、そんな日々も歌い、それも一緒に乗り越えてこられたことが入ると、もっと世界は深くなるような気もします。

長森 三拍子のリズムに乗ってまとまっていると思います。旋律の流れの中にもう少し起伏があると良いと思います。

 

20.ハンドフォー(大阪)           ギター/山根広之                                                            

♪約束のうた       (作詞/きむらいずみ 作曲/山根広之)

石黒 シンプルで、リフレインの効果をうまく生かし構成された秀作です。この作品を通じて、真理は極めて単純な言葉で語られる、難解な言葉をあれこれ駆使した世界には真実が埋没してしまう、ということを感じました。覚えやすい歌詞です、集会で歌い広めたい歌です。

木下 演奏は軽快でたのしい。「世界中の…」という歌詞の着想はすでに30年も前にフランスかどこかの子ども歌で有名なものがある。ただ、憲法9条と結んだ物ではないので,前作の二番煎じにならぬよう改作してほしい。私には「世界中」にこだわらないで、「約束」にこだわってほしいのだが。曲は面白いがこのままでは、やはり飽きるのでは?。時々、タップリした一節もリフレインでほしくなったりするのだが…。

木村 拙作に曲をつけて歌っていただきありがとうございます。手話も入り、皆さんで楽しく歌ってくれました。単純な言葉の繰り返しですから、歌う側にも思いの持続性が求められますが、最後まで衰えない力を感じました。楽譜の上では変化が少なく地味に感じる曲かも知れませんが、テクニックで音を変化させるよりも大事なことを伝えていると思います。

武  素直なメロディで、歌いやすく覚えやすい、すてきな歌ができました。これをどこで、どうやって、誰と歌っていくのか、そこが次の大きな課題で、大いに期待をしています。感想として、音楽としての課題を書くとすれば、FCの世界だけでこの長さの歌を歌いきるのは、やや退屈ではないかと私は思います。何種類もコードを使う必要はないですが、どこかでGmB♭がはいるとか、D7からGmに動くとか、「きゅっ」と音楽が締まるような部分を挟むと、ずっと音楽としての魅力が増すと思います。

長森 軽快なギターに乗って 手拍子が湧いてきそうですね。1番から4番まで 同じ流れにしているので、1番訴えたいところ( 例えば4番などで) もう少し変化を出すと良いと思います。

 

21.ヤネコシンガーズ(京都)      ギター/今西正直 ベース/山本幸子                                     

♪私の好きな物   (作詞・作曲・編曲/ヤネコシンガーズ)

石黒 ユーモアあり、生活感ありのシニアシンガーズの作品です。長年培ってきた信頼、経験があればこその弾けた歌です。

年齢を重ねればお気に入りも増えます、メンバーの好きな物がリアルにてんこ盛りで登場。私は愛犬チョビの話と仲居君の話が面白くて好きです。しかし欲張り過ぎ!好きな物てんこ盛りではメリハリが弱くなります。この歌の決め所、最終連のオチの印象が薄くなってしまいました、もったいない。この作品、好きな物の数ではなく説明が長いのですね。思い出してください、本歌、リチャードロジャー&オスカーハマンスタイン2C作の「My Favorite Thing(私のお気に入り)」とってもシンプルですよね。今後もご健闘期待します。

木下 アイディアはわるくない。手当たり次第の、何でもアリの、思いつきギッシリのチャンプル。そして、「落ち」はちゃんとりっぱ。でも、ステージは散漫でやや退屈する、これは困る。このようなスタイルは意表をついて面白い事だ。その点では、整理が必要。ご健闘を!

木村 題名通りに、好きな物をこれでもかこれでもかと沢山並べました。この歌を誰に歌わせるのかと問えば、「???」となるかも知れない。それだけ個人の好みやいろんな固有名詞がバンバン出てくる。曲も個性的な箇所もある。この歌はヤネコシンガーズの皆さんが歌うからいいのだ。ヤネコシンガーズにぴったりの自由の歌だ。

武  「なんだか楽しい歌だったのだけれど、あれ?一回聞いただけではわからんなあ?」これが第一印象でした。何度も聞いてみると、楽しいところもいろいろあって、最後はなるほど平和と自由の歌だったのだと聞こえてきました。この着想は面白いですが、さすがに前半が冗長な気がします。そのために肝心な、自由と平和の部分の印象が薄くなっている気がします。詩と曲を吟味・精査し、ばっさりと前半を切り、自由と平和の部分をもっと強調すると、すごく良い歌になると思います。もし、詩をたくさん入れたいとすれば、メロディを工夫して、同じ形にされたほうがいいのではないかと思います。例えばさだまさしの関白宣言のように。(私がこの歌を好きだというわけではないですが。)新しいメロディ(音楽素材)が次々に出てくると、まとまりのない歌になってしまうのです。

長森 楽しそうな雰囲気が冒頭から伝わってきます。好きなものが溢れていてユーモアもありますが、 言葉が充分伝わりきれなかった所があります。メロディの流れの中でもう少しインパクトが欲しいと思いました。

 

22.奈良蟻の合唱団(奈良)        ピアノ/吉田はるみ                                                         

♪希望の鳩 ヴェルダ・マーヨ 長谷川テルの歌     (作詞・作曲/ケイ・シュガー 編曲/水野直美)

石黒 実に久しぶりに聞く長谷川テルの名前でした。平和を語る手法は様々で、それぞれ最大限の手法で追及することが切に求められている昨今、エスペラント語といのは印象深いテーマです。

平和主義を象徴する一輪の花として長谷川テルを描ききっています。

3番はエスペラント語が大量に登場します、身近な英語の単語であっても沢山あると判りにくい、エスペラント語では尚更です。1〜2個の単語をくりかえした方が伝わると思います。エスペラント語のキーワードは「世界を一つにつなげる」です、今この言葉はとても重く大切です、この言葉もっと強調してもいいと思いました。

木下 めずらしい出し物。この作品の成り立ちを知りたい。歴史的事実があって、その物語が誰かによって書かれて、それを歌う曲にした、とうことかな。原曲や編曲も紹介してほしい。が、だとしたら、この長谷川テルさんのこと後世に歌いつぐべきものとして考えると、これだけではわからない物が残る。詞も曲も淡々と纏められていて、それはそれで悪くはないが、背景にある歴史の流れや、秘められたドラマを暗示するセリフや豊かな音楽もとてもほしい気がする

木村 作者のケイ・シュガーさんのピアノ弾き語りで聞く機会があった。1人の女性の生き方を歌い上げている労作だと思う。ソングライターとして語るように歌う彼女の個性的な音の使い方があるので、合唱で歌うのは大変だったと思う。しかも指揮なしだった。合唱団の実力が発揮された演奏とは言いがたいが、友人の作品を22人の合唱にして発表するという深い連帯を感じるステージだった。

武  はっとさせられるような、印象の深い歌でした。長谷川テルさんのことも、そこで何があったのかも、まったく知らなかったのですが、特に3番の、平和はpacoから続くところは、なぜかジーンと心が震えました。今回印象的な歌の一つです。曲の評価感想ではないですが、一人で歌うために作られた歌を合唱で歌うのは、練習を積まないとなかなか難しいですね。この歌は本当に良い歌なので、歌いこんで、ぜひまた合唱で聞かせてください。

長森 曲に起伏があり、流れも自然です。最後の方に2/444・2/4とありますが、44のままで流れると思いますがいかがでしょうか。曲を通して長谷川テルさんの生き方を、多くの人々に伝えるきっかけとなりますね。

 

23.苫小牧うたごえサークルわたぼうし(北海道)   指揮/庄司征士 ピアノ/川上由美子              

♪はじめの文       (作詞/2012苫小牧市立泉の小学校6年生 作曲/たかだりゅうじ 伴奏編曲/長谷川好枝)

石黒 小学6年生の書いた文章はたいへん分かりやすく要点をうまくまとめています。これは日本国憲法前文ではなく苫小牧平和都市条例なのでした、その格調の高さに感動しました。タイトルがいいです「はじめの文」。みなさんはこの条例を誇らしく胸に掲げているのです、かっこいい!

最後「しっかりと心にきめて」という言葉の重み、聞き手にしっかり伝わります。

木下 ステージは明るくてさわやか。言葉の多い歌をよくとどけてくれた。後半が特にいい。とても大事な取り組みでがんばってほしい。

木村 素直に入ってくる詞です。小学生がこの言葉をまとめたというのは素晴らしいですね。

武  まずこんな素晴らしい条例を苫小牧市が持っていることに感動しました。これを歌にしない手はないですね。そして、さわやかで力強い歌ができました。詞を書いたこどもたちの歌声で、次は聞いてみたい気がします。前奏後奏、ピアノもいいですね。ただ、最後のAhの意味だけは、今でもまだわかりません。なくても良いのでは?

長森 小学6年性の皆さんで考えた詞に流れのある出だしと、「核兵器のない平和な〜」に向かってメロディの盛り上がりが感じられます。

♪うたごえ響け この街から (作詞/西谷隆 編詞/2016北海道のうたごえ創作合宿 作曲/たかだりゅうじ 伴奏編曲/長谷川好枝)

石黒 豊かで広大な北海道の風景が生き生きとリアルに伝わってきます。オリジナリティーあふれるシンプルな歌詞です。2番の歌詞「平和な苫小牧」は前作「はじめの文」があったのでよく判ります。3番の歌詞が印象深くて好きです、歌詞に動きがあります。最終連の最後の一行「歌声ひびけ〜すみずみに」、よく使われ手ずれのした言葉ですが、この作品の中では必然性をもってすっくりと立ち上がってきます。秀逸な作品です。

木下 「うたごえ響けこの街から」うたの後段に一工夫が有ってうまく仕上がっている。この歌の雰囲気では、タイトルは‘うたごえ’にこだわらないで、「うたよ響け…」の方がよかったかも、歌詞にはあってもいいのだが。

木村 美しくゆったりとした詩。高田さんの曲も北海道を歌った曲らしくゆったりとしている。北海道の自然を歌い上げているが、最後に「うたごえ響けこの街のすみずみに」と突然うたごえの歌になる。作詞者は“綿毛”=“うたごえと捉えているらしいことはソングブックP48の注釈を読むと理解できる。しかしそれを知らない人には伝わらないのではないか。「綿毛舞い上がる」を「うたが生まれる」とするだけでも違うと思うのだがどうだろうか。

武  個人的な話で恐縮ですが、この歌の舞台となっている場所は、20代のころから何度も高校生と一緒に訪ねたところで、勇払原野もウトナイ湖もハスカップも、歌の風景が次々に目に浮かびます。その風景にふさわしい、いい歌ですね。一か所だけ気になったのが、「え んーとつ」の部分です。ここは「えん とーつに」として、「とー」で高い音がのびるのはいかがでしょうか?「ん」でオクターブ跳んで高く伸ばすのは、歌うほうもちょっと大変かなと。細かいところですが。他はどこもことばに自然なメロディがついていて、さすが高田さんと思いました。

長森 「樽前の〜」「ホッキが育つ」「ハスカップ」「ウトナイ湖」など苫小牧ならではの自然が伝わってきます。メロディも詞を生かした流れが感じられます。

 

24.アネモネ(東京)      ピアノ/望月文博                                                                       

♪向日葵     (作詞・作曲 望月フミヒロ)

石黒 丁寧にひまわりの姿だけを描いた作品です、作者のひまわりを定点観察する観察眼が鋭いです。実はひまわりに甘い香があることを知りませんでした。遠景でしかひまわりをとらえて来なかったからですね(反省)。おしなべて明るい希望の象徴としてひまわりを使いますが、本作はひまわりそのものを描いているのが面白いです。姿だけでなくその内面に迫っています。

文語的な不思議なリズムに貫かれていてそれがとても気になりました。そして気が付いたのですが。これは短歌のリズムに似ている、リズムだけでなく対象への迫り方も短歌に似ています。

立ち枯れの向日葵くらく眼をあげる なやましく手を柵にもたせて(青柳守音)

木下 メロディの流れは言葉の抑揚というよりは作者のなかにある何かにこだわったようなうた。7度をふくむ特定の音型にこだわったのはなぜか。歌詞もかなり独特で口語調でいて、各行はほとんどがか完結しない。これは事実の観察からでた言葉ではなく、作者の中にある観念を紡いだもののようにみえる。かなり凝った間奏といい独特の節回しといい,作者の力量は感じ、かなり気になる曲だが、まとまった作品の印象はちょっとすくない。

木村 詞が見事です。季節の変化と心の移ろいを見事に描いています。しっとりとした曲は、これでもかというほど同じパターンを使っていますが、長い年月の繰り返す様を感じさせる表現になっていると思います。ピアノも素敵だし、凄い人が現れた?

武  曲を作るものとして、大切なものの一つが「こだわり」のような気がします。この歌には、歌としての良しあしを超えて、作曲者のこだわりと独自性が感じられて、うれしい気持ちになりました。望月さんの独特の世界があります。これでもかと繰り出される7度の上行跳躍、普通ではないこのメロディは、相当歌い手泣かせだとは思いますが、とても印象的です。向日葵が高く高く天を目指して立っている様を暗示しているかのようです。

あとから詞をつけられたようですが、詩を書く力も相当おありだと思いました。いい詩です。ことばが向日葵の上の夏空に薫っています。

長森 曲全体に作者ならではの個性が感じられます。旋律線にオクターブの跳躍や7度の跳躍が度々出てきますが、特徴的な流れになるのであまり頻繁ではない方が、とも思います。また弦楽器や器楽曲でしたら無理のない旋律線も、声楽曲にはブレスや発語と音の関係も考慮すると尚良いのではないでしょうか。

 

25.文化集団このゆびとまれ(千葉)        ギター/斉藤清巳                                    

♪パレードのうた          (作詞・作曲 石塚早恵・斉藤清巳)

石黒 近頃デモに行くと―そうそうパレードとも言うんでしたね―すぐに覚えてみんなで歌える歌がありません。 この作品はいいです。シンプルで覚えやすい。同じ言葉のリフレインは力強さを増幅していきます。

何より即興でも新しく歌詞を増やしていくことができる、みんなに開かれた作品です。しかし、この世界にはなんと沢山の「いらないもの」があることでしょう。

木下 集会に出かけて行って、なにかみんなの想いを叫びたい!そんな実感がわかる。簡潔に主張をくりかえすそれでいいのだが、この歌は、実際に使ってみたのだろうか?私の推測では、音の高さがもの足りないのでは?と思う。もちろん、音を外して叫んでもらってもいいような作りなのだが、気持ちが盛り上がって山場でぶっつける、音楽の、メロディの工夫こそがほしい。この着想、心意気は買うが、曲としてはもっとねばって!一節の心に残るメロディ,繰り返したくなるメロディをつかまえてほしい。

木村 単純な繰り返しがだが、印象に残る曲。おそらくパレードにはこのくらいの言葉数で勝負しなければならないのだと思う。歌いながら育てて行きたいうただ。

武  千葉の会の時から、この歌を聞いていますが、少し改変されてよくなりましたね。さらに音が高くても、(そのほうがもっと)良いと思います。外で歌うと低い声は消えてしまうので。ともあれ野外で歌うには、わかりやすくて覚えやすくて、とても良い歌だと思います。いらないものを入れ替えながら、鉄道唱歌のように、次々と歌が続きそうですね。残したい歌の一つです。

長森 パレードの時に皆さんで歌えたらいいですね。覚えやすく、初めて参加の人も直ぐに口ずさめそうです。

 

262017年全国創作講習会グループ・チャリンコ(愛知)     ピアノ/佐藤幸恵                           

♪今日も自転車操業   (原詩/高橋雅子 作詞/山口直子・佐藤俊隆・井上友子・高橋雅子 作曲/高畠賢 伴奏編曲/佐藤幸恵)

石黒 何度も話し合い時間をかけた作品です、こなれた良い作品に仕上がりました。作曲者の高畠さんとは何度もメールのやりとりを重ねたようです。作詞者の高橋さんは創作のキャリアも長く何作も発表している人です。今回ご自分の家業の話をテーマにするのは初めてということですが、地面に足の着いた歌詞に共感を覚えた人も多いと思います。

自転車操業という言葉の持つ悲壮感を乗り越え、明日への希望をつなぐという清々しい展開になりました。最後の「心に小さなあかり灯して」が効いています。演奏時のメンバーのエプロン姿も効果的でしたね。創作はあきらめないで、もう一押しすることが大切であると痛感させられた作品です。(2017愛知の創作の講評を流用しました)

今年のオリコンは日程の関係でしょうか、現場からの作品が少なかったです。そんな中でオレンジエプロンと共に目立っていました。もう少し早めに手拍子を入れると会場と一体感が増したように感じました、というか会場から手拍子が自然にわき起こる演奏が理想的ですよね。

木下 構リアルでそれでいて明るくて、出だしのモチーフがいい。みんなで練った歌詞だけあって観察も丁寧だし、最後の二行がいいね。

街の小さな公演でこんな歌が歌われたら…。これもレパ=トリーにしてほしいな。

木村 産別組織のない自営業の人の歌は少ない。全国創作講習会で名古屋と北海道の参加者の力を集めて創られた画期的なうた。使い古されていた「自転車操業」を蘇らせ、夢を繋ぐ意味も加えた観点がいい。

武    愛知の創作の時にもお伝えしましたが、まさに生活の中から生まれた、うたごえらしい名歌ですね。自転車操業はマイナスのイメージがあるのに、この歌を聞くと、それもどこか楽しそうです。曲としては特に「こぎ続けてなりたつ〜」からの歌の広がりが好きです。だんだん盛り上がっていって、最後の「見たいから」で、全体のメロディの最高音であるEが登場するあたり、何気ないように聞こえますが、うまいと思います。

長森 曲の出だしがいいですね。詞が長い分、メロディの流れにご苦労があったかと思います。全体にまとまっていますが、途中でのメロディに推進力あると良いですね。

 

27.市民合唱団Peace Call(教育)           ピアノ/南村知佐恵                                              

♪咲いた咲いたよ          作詞・作曲/ジュリー川村 編曲/榊原あきひろ)

石黒 憲法9条を花にたとえた作品です。9条の歌となるとどうしても説明的になったり、冗漫に流れる傾向がありますが、本作は簡単で分かりやすい歌詞をキッパリと言い切って、更に広がって行く展開です。よくまとまった秀逸な作品です。

カラー手袋が目立ってとても効果的でした。演奏+パフォーマンスという演出は今後の可能性大ですね。

木下 曲も調子よく出来ていて、そんなに新しくはないが自然な盛り上がりで好印象。歌詞もやや調子良過ぎだがあまり悩まないうたがあるのもいいかも。

木村  やさしくシンプルな言葉だが心に伝わってくる。メロディーも繰り返しが多いが印象的で心に残る。作者の平和と歌への純真な想いがまさに花開いたのだと思う。

   自然なことばとメロディとが暖かく溶けあって、素朴でとてもいい歌に仕上がりました。これまでジュリーさんに聞かせていただいた作品の中で、一番の歌だと思います。みんなで歌っていきたいですね。そしてこの歌を、ただの夢想歌に終わらせないためにも、本当の平和への、具体的な次の一歩も歩みだしたいと思います。ジュリーさんには、深みをさらに増した「次の歌」も期待します。音楽的なチャレンジもしてみてください。

長森  明るいメロディで歌いやすい流れを感じます。簡潔なところが魅力だと思います。「咲いた咲いたよ 平和の花が」「子どもの未来に笑顔をくれるよ」など心に残る詞が紡がれています。

 

28.トランザール(東京)           ギター/大熊啓                                                               

♪図書館の自由に関する宣言 (日本図書館協会綱領より 作曲/大熊啓)

石黒 作者はいつも時代の風を上手に取り込んだ創作をしている人です、図書館綱領に曲をつけるという今回の着眼も面白いです。

全国の公共図書館は財政状況の悪化で指定管理者制などに移行しつつあります。また職員の三分の二は非正規雇用です、東京23区では八割近くが非正規だと聞いています。愛知県小牧市では2年前、公共図書館を民間の「ツタヤ」に丸投げするという市長案に住民投票でNoをつきつけました。こんな状況下で作られた本作品、原点にさかのぼるという視点がいいですね。

     しかし長い英文にメロディーをつけるのは無理があるように感じます(前々から指摘していますが)まず何を言ってるかわからない、Freedomだけ聞き取れました。いいじゃないか、聞き手はそんなにこだわっていないよ、という人もいます・・・気になります。

作者の慧眼に敬意を表しイタリアの図書館アドバイザー、アントネッラ・アンニョリさんの言葉を紹介しておきます。「図書館は民主主義を支える土台である。本を所蔵して提供することは、市民を市民たらしめ社会に参加する為の基本となるサービスである」

木下 戦中の反省から生まれた宣言とか、こんなものがあるのだと知っただけでも、この取り組みの意味はある。その着眼はとてもいい。関係者はきっと知ってはいただろうが、歌にすることによって改めてその値打ちを拡げることにもなるのだから。とは言っても、宣言文をそのまま歌にする事がいいのか?という問題が残る。朗読のママの方がいいという意見も出そうだ。歌われることを前提としていないのだから歌い出すには作り手にある種の情況が想定される必要が有るとおもう。この歌は、その所をどう克服したのか。後半にでてくる強引な4度平行の使用はそのための荒技なのか。この曲のエンディングは、そこを決めかねている迷いが見えるようにも思う。折角の歌だ、ぜひ各地で歌って欲しい。譜面が一人歩きする歌では無さそうだから。

木村 いろいろな宣言を歌にすることには賛否両論あるが、この曲は成功していると思う。一番の理由は、宣言が単純で明快であること。後で調べたら、本文の具体的な記述に曲をつけたのでは無く、章立てされている宣言の各章の表題部のみを用いたのだとわかった。そして題名の英訳を用いてFreedomを繰り返したところも印象を強くしている。

武  恥ずかしながら私は、この歌によって図書館の自由の大切さに気付かされました。そういう人は案外たくさんいるような気もします。そして、これも歌になるんだ!と、私の心の中で、歌の可能性を広げさせられた歌です。

メロディもコードも良くできていると思います。スパッと切れる終わり方もいいですね。ただ、講評する側が私も含め、この音の世界を「感じる」にはやや「若くなさすぎ」かもしれないですが。

長森 「日本図書館協会綱領」に着眼されて作曲をされたところが良いですね。シンコペーションのリズムに乗り切って演奏されたら、インパクトのある一曲になると思います。戦前の暗黒時代、図書館で行われていた迫害を多くの人に知って頂く機会となる事でしょう。

 

29.小春日和(石川)      ギター/北野俊裕・北野早苗

♪ほんとうのしあわせに(作詞・作曲 小春日和)

石黒 昨年に続いて小春日和の世界が広がります。日常のささやかな繰り返しの中で感じる「ほんとうのしあわせ」を作者は言葉とメロディーで丁寧につむいで行きます。背中を包み込むやわらかな陽差しのような作品です。歌詞を総体的に欲張り過ぎ、書きすぎてメリハリがなくなっています。聞いた人の心に小春日和の世界が残る作品に仕立てて欲しいです。1番だけで一曲分の言葉を語っているように思います。

しかし苦労して創造した言葉を削るのはしのびないですね、未練も残ります。削った言葉は別の時に生かせばいいです。大切にとっておいて、ここぞと言う時に使って下さい。

木下 素朴でひたむきなものが、が詞にも曲にも、歌い手にもあって好感。かなり長い歌詞をよくまとめている。言っている事は解るし前向きだが、題材を日常の観察のなかでみつけられると、きっともっと良いうたになるはず。

木村 表題を聞いただけでは、夫婦愛の歌かなと思って聴き始めたが、身近かな話題から幸せの本質に迫ろうという歌であった。大きなテーマを掘り下げようという意欲に敬意を表する。

武  こころに残る頭の4小節をはじめ、それぞれのメロディが、言葉とよくハーモニーしていて、歌つくりに手慣れた感じを受けます。レパートリーがたくさんありそうですね。お二人の澄んだハーモニーもすてきです。そのうえで、ですが、ほぼ1オクターブの中でメロディが創られていて、全体に色合いも同系色で穏やかな感じがしますが、それは同時にやや平板な感じにもつながります。どこか一つでも「突き抜けたもの」「ここぞというコード」「これまで使わなかった新しい言葉や音」こう言ったチャレンジはいかがでしょうか?お二人にはそういった世界に踏み込んでいける実力があるのではないかと思います。更なる飛躍を願って。

長森 伝えたいこと 歌いたい事が沢山あるのですね。作詞が長い分、メロディの流れが少し散漫になってしまったかもしれません。1番訴えたい事や、曲としてのまとまりを考えると更に良いのではと思います。

 

30.白鷹うたう会(山形)           ギター/小林昭義                                                            

♪季節めぐり       (作詞・作曲/ろくろべ 編曲/小林康浩)

石黒 きりりとひきしまった良い作品です。1番の冬にぼたん雪が象徴的に出てきます、情緒があり心憎いです。2番がまたいいです。秋は水割りですか?私はワインだなぁ。このノリだと「人のぬくもり あなたの笑顔」とするより「人の情けは 極上の酔い」として欲しいとこだけれど、それだと演歌になってしまいますね。もう少し季節めぐりを楽しみたいです、4番をぜひ書いて下さい。そうそうグループ名の由来聞いていませんでした。何かお酒の銘みたいですね。

木下 どこにもある風景だが民謡風な歌い出しとあいまって、ひとつの風格、世界がある、それがいい。ただメロディをつけましたというだけでなく歌い手と聞いてくれる人たち、仲間に想いを繋ぎ合いたいという心が出てくる、それがいいともう。タイトルは「それぞれの季節」なんていうのもありかも。

木村 四季の移ろいを短く表現する歌はよくあるけれど、それをお酒で語るのは愉快だ。日々の暮らしの喜びと悲しみには1日の終わりの酒の味が結びついている。「思い通りにならないけれど」という表現が効いている。演奏前の司会からは、生活の根底に「祭り」があるという趣旨の紹介があった。今年、うたごえ新聞でも話題になった戦没音楽家紺野陽吉のふるさと白鷹町。陽吉の音楽もまた、地元の祭りの音がした。暮らしに根ざした歌づくりを極めて欲しい。

武  しみじみとした味わいのあるいい歌ですね。前半と後半の色合いの違いがうまいなあと思いました。四季折々に、のメロディが特にいいのです。

「さくーら」「はなーび」の部分のメロディは、もう少し味わい深く歌いたいところで、全体にテンポがもう少しだけ遅くしたほうが良いかなと思いました。

お酒が4種類出るのもなんだか新鮮ですね。(余談ですが、置賜の冬といえば、私は〇〇ろくです。私事ですみません。)

長森 1番は花や風物詩、2番でお酒謳うところが面白いですね。「あなたの笑顔」という歌詞も心に残ります。メロディも詩に添って温かみを感じます。

 

31.山上茂典とその一座(国鉄)              ギター/山上茂典 ブルースハープ/田中活                

♪JR西日本シニア社員の歌 (作詞・作曲/山上茂典)

石黒 山上節の力強いサビに思わず拳を握りしめていました。まさに職場、現場からの歌です。さぞかし会社側は、こんなうるさい再雇用労働者はいらんと思っているでしょうね。今再雇用される人たちは労働条件が悪くなるのを前提にして、半ば納得して労働契約していますから。しかし、同じ仕事をして責任もとらされる再雇用労働者です。正規も非正規もともに厳しい労働環境に置かれています。  

「まったく同じ」という言葉を冒頭に持ってくるのは意表をついて、うまいです。この一言で聞き手の気持ちをしっかりつかみます。短い言葉でシニア社員の現状を伝えています。次作はシニア社員のリアルな仕事の様子を聞かせて欲しいです。

木下 怒りがあふれている。すばらしいが、が、みんなに伝わるだろうか?という心配もある。「お前はどうなんだ!」などの問いかけがあってもいいかも。しかし、これは山上さんの持ち味、そこからもう一段脱皮してほしいという期待もあるのだが…。

木村 どこかおかしいと思いつつも、再雇用だから仕方ないと思い込まされていたことを明快に切ってくれました。最後に労働契約法で締めたのも印象的。歌い慣れているとは言え、声とギターとブルースハープの調和もいい。

武  歌と、歌詞と、山上さんの怒りが三位一体で、自然な流れのいい歌です。「まったくおなじ」という聴衆を引き込む始まりや、2番3番の歌詞もぴったりはまっていることなど、何気なく聞き、通り過ぎてしまいがちですが、こここそが「芸」なのだと思います。うまいです。

長森 ギターとブルースハープの音色が曲にもよくマッチしていますね。イントロから惹きつけられます。7小節の「ちょっと」の歌い方が効いています。イントロと間奏が同じでしたので、少し変化がありますと3番への期待感も膨らむのでは…。労働契約法 第20条をこうして謳うことで多くの人に訴える力となりますね。

 

32.フリーダム(岡山)              ピアノ/原田義男                                            

♪暑中見舞い       作詞/石黒真知子 作曲・編曲/原田義男

石黒 作詞を石黒がしているので講評辞退します。

木下 良いうただ。かなり低くおさえた音域で混声三部合唱の狙いもいいとおもう。ただ、私だったら最後の一行が静か過ぎて気になる。「こんどどこかで合いたいね」「あの話をしたいね」の想いがどこかにほしい。詩の石黒さんは「言わなくてもわかる」という、が音楽はどうかな?

このエンディングは…とても静かに充足している,と思う。べつに悪くはないのだが、聴き手が一緒に充足してくれるか気になるのだが。

木村 素敵な詩だなと思ったら、石黒真知子さんの詩でした。原田さんの曲も素敵です。切ない詩とメロディーの中に人を愛おしむことの喜びが伝わってきます。

武  ピアノの音の美しさも含め、原田ワールド満開の歌で、ソングつくりの教科書のような歌でもあります。同じようなコードでも、微妙に変化して色合いを変えていくところ、ここは私も参考になります。(例・ビルの背は伸びて、のFM7やCM7の使いかたなど)

また、ギターで曲つくりをされている方には、頭の2小節、ベースがCBAGF→(E)→Dと動くところなども勉強になるかと思います。

長森 「今年の花火に 帰ってきませんか」「おいしくご飯食べていますか」「語部たちは ひときわ老いて」 心に響く詞の力と内容を生かしたメロディを感じます。イントロや間奏、後奏の流れも曲の世界を伝えています。M7( メジャーセブンス)のコードが効いています。

 

33.(み)’s(郵便)        ギター/大熊啓                                                      

♪=新拠点=731ブルース     作詞・作曲/みのちゃん

石黒 タイトルの731は少しマニアックかなと思いましたが聞き手に注意と集中を促し成功しています。郵便番号だということで調べてみました! 広島県高田郡のいくつかの町が731でした。確かに下4桁8799はありませんでしたが、なかなか辺鄙な所と推察できます。

演奏者はエンターティナーで心に迫る演奏でした。ブルースにのせて郵政労働者の置かれた厳しい状況を伝えていますが、民間の物流に携わる労働者の過酷な実態と隣り合せであることが思いやられます。

「よりよい職場求めたたかう」と最後に高らかに歌い上げています、歌にして伝えることはその闘いの一つですね。

木下 元歌はかの有名な3連音符つづくブルースか、それにのっけて職場の苦しみをうたう。歌詞にもならない職場の環境、切ないおもいがよく伝わってくる。とりあえずはここからか、でも作るだけでもかなりの勇気が必要だったに違いない。うた新でルポ記事にしないかな。

木村 演歌にまとめた切なさ、声を張り上げるほど伝わってくる言葉とメロディーと歌い手の不思議なマッチング。何とも言えず心に残る歌です。

武  なるほど、そんな場所、そんな現実があったんですね。大変ですね。確かに731ブルースですね。それを知らしめるだけでも、意味の深い歌だと思いました。歌は素晴らしいと思いましたが、メロディは、やや替え歌の様相もあり、聞き手はどこまで力を入れたらいいのか、力は抜いて笑っていいのか、迷う歌でもありました。

長森 郵便輸送再編の実態を、現場からの声として届ける詩(うた)にオリジナリティを感じます。題名にもインパクトがありますので、作詞を生かした個性豊かなメロディ作りが望まれます。詩を生かせる自分自身の旋律の語法を持てたらステキな事ですね。私自身も学び続けたいです。

 

34.港新婦人コスモスコーラス(東京)      指揮/酒井崇 ピアノ/町澤恵 チェロ/大岡孝之          

♪飲んでもいいの          (作詞/いがらしのりこ 作曲/町澤恵)

石黒 胸につまされる歌詞です。作詞者はこれまでにも世界の片隅で理不尽にも差別される弱者に焦点をあて、いくつか創作してきました。この作品もホームレスの男性にお茶を手渡す作者の温かなまなざしに貫かれています。タイトルになっている「飲んでもいいの、怒らない」という言葉は実際に作者が受け取った言葉だったのでしょう、切ない言葉です。作者の立ち位置を示すのが最後の連「私も隣でふたを開ける」です、ここに魅力があります。

しかしここで終わると歌として少し残念です。その後作者はどう考え、どう動いたのか知りたいです、そのあたりをフレーズに加えると説得力が増します。

木下 前奏のあいだに一言、「ある街のなかでのことです」とでもナレが入ってくれると、歌がすっととどいてくるのだが、しばらくは話が見えなかった。とても心優しいうただ、おじいさんのちょっとした仕草にも観察の目が届いていて、こころあたたまるものがある。

木村 おじさんを見つめる暖かい視線、言葉を活かしつつも落ち着いたメロディー、そしてチェロの深い響き。心に迫る情感がグッときます。ただ、「飲んでもいいの」という言葉の持つ意味が方向性の定まらない風見鶏のようにどこかで揺れています。この短い状況の中に、その人の生活歴の何を感じるのか、その先にどんな言葉をかけてあげるのか。続く「怒らない?」という言葉にますます自分への問いかけが深くなります。私はどんな人にもその人の幸せを願って応援することが苦にならないでできるであろうか?それとも表面だけの偽善者に過ぎないのか?「怒らない?」の意味がわからない私の心が揺らぎます。私たちは、明確な答えを求める歌を創りがちです。こんな罪作りな歌があってもいいのです。

武  聞かせていただくのは東京に続き2回目ですが、それでも今回のオリコンで最も印象に残った歌でした。その現場に立つからこそ生まれる歌であり、うたごえでなければ生まれない歌ですね。音楽的にもしっかりと創られていて、チェロのアレンジも「つぼ」を心得ていて効果的です。つめたいお茶からの調性が揺れ動く4小節が、全体を引き締めているように思います。怒らない?のAで終わる音型もいいですね。余韻の深く残る歌でした。

長森 「思いがけず  やさしい声」「怒らない?  怒らない?」という歌詞に切なさが伝わります。優しいメロディにチェロのオブリガードがよく生かされています。冒頭のメロディ、「残暑の熱が」と云うところ、FisからG2度上行していますが、アクセントを考慮した旋律線も大切と思います。

 

35.名古屋青年合唱団うたの学校101期(愛知)      指揮/浜島康弘 ピアノ/入江文子             

♪ほたる ―ママからお空のさきちゃんへ―     (作詞・作曲/多田紀公子)

石黒 幼い子に先立たれたお母さんの悲しみにおばあさんの悲しみが重なった歌です。深い悲しみを空の星、ほたるに託した切ない歌詞、サビの部分に思いが込められて心に響きます。短い歌詞が悲しみの深さを伝えますね。

少し気になるのは、1、2番の歌詞のイメージが分散していること。1番では星をメインに、2番ではほたるをメインに、はっきり区分した方がすっきりします。ほたるは「ひかり輝き」というより、もう少しはかなげな輝きではないでしょうか?

例 2番 里山のほたる/きらり またたき/闇にきえたあなたと/姿かさなる 

2017愛知の創作の講評を流用しました) 

今回は楽譜がとても見やすくなりましたね。自作を一人でも多くの人に鑑賞、演奏してもらうためには読みやすい楽譜を準備することは大事であると感じました。

木下 単純だがやさしいメロディ、下のパートはひくすぎるが…。さきちゃんのことをあまり多くは書くことは出来ないにしろ。ニュアンスをもう少しでもだしてほしい。

木村 悲しい出来事を蛍に見て、子を想う気持ちを表現しています。作品にしてみんなと歌うところまで現実を受け止めることができた上での表現ですから、強い心が潜んでいることでしょう。作品は言葉もメロディーもゆったりとしていて、「悲しくなく」との注釈があります。豊かで広い心を感じます。

武  名古屋の時から心に残る歌でしたが、今回改めていい歌だなあと感じました。「永遠と輝き続ける星になれたか」の部分が特に好きです。シンプルなメロディですが、簡単そうに見えて、なかなかこんなすてきで奥深いメロディは作れないものです。

ただひとつ課題を挙げれば、この形の2部合唱にした場合、男性が下を歌うと、3度ではなく、実際には10度下を歌うことになります。それだと音が濁りやすいので、特にほたるの軽やかな動きを思うと、男声パートがメロディを歌うか、3度上を歌うアレンジ(実際には6度下)にされるほうがいいでしょう。

長森 優しい詩の内容を伝える3/4の拍子を選ばれたのですね。イントロで使われた「ホタル」のメロディが効いていますので、その雰囲気を生かした旋律線も良いかと思います。 

 

36.緑高校保護者コーラス(愛知)           指揮/藤村記一郎 ピアノ/中村好江                         

♪みちのく(春)     (作詞/神谷恵子・斉藤惠子・佐藤博志・丹羽記久子・藤村記一郎 編曲/藤村記一郎)

石黒 昨年の「みちのく冬」に続いてみちのくシリーズ第二弾の春です。昨年と比較して迷いが無くなり、楽しんでのびのびと作品を書いています。「ちゃぐちゃぐ馬こ」という盛岡のお祭りを素材にした作品。細部まで神経の行き届いた言葉使いです。「おうま」と言わずに「おんま」、ひずめの音は「ぱかぱか」ではなく「ぽくぽく」イメージに合って効果的。言葉に弾力があり聞き手はいつの間にかその世界に引き込まれます。

ちなみにユーチューブで「ちゃぐちゃぐ馬こ」を見てみました。「馬こ」というより「牛こ」でした、馬は足がすごく太くて、大型だった! 競走馬のイメージしか持っていなかったのでびっくりでした。農耕馬として人々の暮らしに結び付いた馬たちに感謝するお祭りなのですね。

ハレの日に美しく飾りたてられた馬たちの様子も歌詞で上手く書かれています。この馬のパレードに遠野物語のオシラサマをシンクロさせる手法、一気に幻想的になります。一味ちがった大人の味に仕上がった秀逸な作品です。(2017愛知の創作の講評を流用しました)

今回の演奏を聞いて、演奏時に何か小道具を持ったりするパフォーマンスがあるといいなと思いました。例えば「馬こ」たちがつける色とりどりのたすきを演奏者もつけるとか。視覚的な緊張感は聞く人の気持ちをひきよせてくれます。

木下 とても面白い。こんな試みをもっとつづけて欲しい。どのような経緯で生まれたのか不明だが、とくに、詩の風格がいいし、笛のような曲調がとても新鮮でたのしい。ただ、演奏は印刷楽譜と違っているようでそれは困る。 

木村 愛知県の高校のPTAの集団創作が、北上のチャグチャグ馬コをベースにしているとは、驚きの作品です。このコーラスの創作の姿勢と蓄積を感じます。

武  オリコンへの参加は9年目になりますが、この種類の歌(音の世界)が登場したのは初めてではないでしょうか。ですから、音の醸し出す世界は古いですが、歌は新鮮でした。藤村さんのアレンジがなんともいいですね。前半と後半のコントラストも見事です。また、「はなを鳴らして」からのメロディが創る世界が独創的で、全体を引き締めている気がします。

長森 作詞をされた方の故郷への想いが感じられます。詩を生かされた曲作り、また「天にのぼりし 白馬も〜」からテンポを変化されたところも良いですね。ピアノの流れが曲をよく引き立てていると思います。

 

37.東海青年のうたごえ(愛知)   ピアノ/尾関記久子                                                          

♪私はさくら       (原詩/黒沢真 作詞/伊藤美穂・稲垣貴恵・金丸理津子・神園和博・黒田遼・佐藤義人・高山文彦 補作詞・作曲/角田優和)

石黒 若い人達が、創作曲に大きなテーマを選び取り組みました。まずその点に敬意を表します。時間をかけて育ててきた歌です、言葉が立ち上がって聞き手に届く秀作になりました。

日本人は桜が好きです。古くから短歌の中にも詠まれ「はな」といえば「桜」でした。(平安時代以降、それ以前「はな」といえば梅でした)昨今のJポップでも桜を歌うミュージシャンは後をたたないですね。よく言えば国民的な素材、悪く言えば手ずれした素材です、その桜を主人公に据えて一世紀に近い物語を堂々と完成させました。

物語を語る桜は樹齢100年ほどの古木でしょうか、桜は自分の周りで起こった事を時代を追って語ります、定点観測ですね、しっかりと歴史の移り変わりを表現しています。手法として、全体を集合写真のように書いていますね、全体の姿は判りますが、個々の様子が判りにくい。次回に書く時は登場人物を特定して、アップでしっかり掘り下げることにトライしてください。個人を通して語る話はリアリティーがあり、歌詞にメリハリが増します。

2番で気になった点。「柩」とありましたが、日本では戦死者が柩で帰ってきたのは国内の死亡などレアなケースです。「遺骨」で帰ってきました。戦争末期、戦場で荼毘にする余裕もなかった人は、遺骨箱の中には石ころとか紙切れが入っていました。出征する青年たちは頭を丸刈りにして、白いたすきをかけて、無言の敬礼を残して戦地におもむきました。3番「日常がもどった」は書き言葉です「普通の日がもどってきた」「穏やかな日々がもどった」等の方が良いと思います。

言葉がこなれていない個所もありますが、今後創作をする中で勉強してステップアップしてください。(2017愛知の創作の講評を流用しました)

今回は演奏者も多く安定した演奏でした。これからも自信を持ち創作、演奏重ねて下さい。

木下 さくらの樹におもいを託したいい着眼です。集団創作でこれだけの内容にまで煮詰めたのはスゴい!です。「さくらはひらりひらひらり」などとても素敵なきかせどころです。ただ、詩の中身が多様でその構成力と曲の構成力との見通しが、ややつらい所がある、と思います。集団創作の矛盾でもあるのですが、これだけの豊かな材料があると、つい詰め込みすぎてしまうのです。これは、すでに立派な作品ですが、桜を擬人化したことの良さと限界もあります。曲はもっと短く桜の樹も寡黙で,聴き手に多くを連想させる方法(このように、語りすぎず)もあったかもしれません。でも、努力作ですね

木村 なかなかの力作です。青年が戦争の歴史を学び集団創作をして仕上げたという、エピソードだけでも感激してしまいます。校庭の桜の木という視点で見たところがいいと思います。ただ、最後に「在りし日の出来事を」、「彼らの思いを」と歌うときに前段でそれを“言葉で語っている。桜が見た事実に徹した表現を貫くともっとアピール力が増すのではないだろうか。

武    力作です。端々に歌つくりにかける情熱を感じます。ピアノ伴奏は良く練られていて、ありきたりではない工夫を感じます。時間をかけて作ったのでしょう。歌としては、なんといっても「さくらはらりひらひらり」の部分が秀逸で、ここがこの歌の魅力です。細かい点ですが、「っ」の処理のしかたがもう一息かなと。例えば14小節、この形だと、聞こえてくるのは「あつまあた」、2番は「たびだあた」となりそうです。21もそうですね。逆に、2636はうまく処理されました。頭から終わりまで、息つく暇もないくらいに音楽は突き進みますが、この長さの歌では、どこかで「緩」の部分が欲しい気がしました。「力作」過ぎる部分があるのかもしれません。次作を大いに期待します。

長森 再度のチャレンジで曲を完成されて良かったですね。冒頭から8小節目までのメロディの流れを9小節目からも生かす事が出来たら更に曲としてのまとまりが出ると思います。Coda以降の流れも自然ですが、最後の和音にピカルディを持ってきますと曲全体の雰囲気とは違う世界を感じますが いかがでしょうか。

38.尾張ぞうれっしゃ合唱団(愛知)        ギター/斉藤清巳                                    

♪三つのたいせつ          (作詞/伊藤さち子・加藤信子・山田文雄 作曲/斉藤清巳)

石黒 世の中を正しく見る目、耳、あたたかな手が大切だという大きなメッセージを簡潔に表現しています。よくまとまった秀逸な作です。2番で沖縄の声を聞く耳を取り上げたのは、今私たちにとって沖縄は大事なテーマであるということです。沖縄を前面に出した歌ではなく、この作品のような提起の仕方もあるということですね。

大切なものを花に例えたのも成功です、歌に親しみ、深みができますね。タイトルはそのものズバリ、少し硬いので何か別の言葉はないかしら、「花のように」では焦点がずれているし…再考して下さい。(2017愛知の創作の講評を流用しました)

   今回は作曲者が演奏に加わりテンポもよくなり、歌の持つスピリッツがしっかり届きました。各連の最後の2行が効果的です。

木下 伝えたいテーマは解る。が、ひまわりとか、たんぽぽとか、擬人化した植物が出てくる歌詞だが、無理があり、あまり成功しているとは思えない。それに、このメロディの骨格は国鉄労働者のかなり有名な歌にあるもので、ちょいと困る。(二小節目の初めの音をレに、三小節目の3拍目をラにしてみると…?!)三段目も気持ちが晴れない,終われない。困った。

木村 今伝えたいことをわかりやすくまとめている。三つのたいせつを花で象徴するのはうまい表現だ。だが、この場合の「あなた」とは誰で、私とはどんな関係にあるのか。歌い方によっては上から目線と取られかねない。例えば、「世の中を 見きわめる目/仲間といっしょに涙する目/大切にしたい 大切にしよう/ひまわりのようなまっすぐな気持ちで」というのはどうだろうか。また、歌う順番は、3番、2番、1番の順の方が入りやすいかと思うがいかがでしょうか。

武  初めて聞いた時よりも、2度目3度目で味わいが深くなりました。目、耳、手、3つのたいせつをうまく詞にまとめましたね。花も、まっすぐな向日葵、沖縄の大きなハイビスカス、やさしいたんぽぽ、それぞれがうまくつながっています。斉藤さんの歌は親しみやすく、ことばに自然でいいですね。ソロで歌ってもいいでしょう。ともすると三つのたいせつが忘れ去られてしまいそうな時代に、ぜひ歌い広めてほしい歌です。

長森  8小節目までの流れを受け止めるには、あと4小節ありますと更に曲としての説得力が生まれると思いますがいかがでしょう。「見きわめる目」「聴ける耳」「差しのべる手」と云う言葉がこの曲の大きな柱となっていますね。

 

39.西三河青年合唱団創作チーム(愛知)   ギター/佐藤淳 三線/北村清幸                               

♪ヤンバルの歌   (作詞・作曲/マンテス北村)

石黒 実際に沖縄、高江に行き支援、連帯の環に加わった人だからこそ書ける歌詞です。歌を聞いていると濃い緑の森が浮かんできます。ヤマガメ、木登りトカゲ、クイナ、これらの動物を通して、ヤンバルの森=命を育むかけがえのない場所を壊すなと呼びかけます、上手くまとまっています。 (2017愛知の創作の講評を流用しました)

   今回「ヤンバル」への思いを創作した作品が目立ちました。それだけ緊迫した状況にあり、うたごえの仲間達がいち早くそれに応えているということです、色々な集まりで歌われるといいですね。

木下 モチーフはいい。第2フレーズが(5〜7小節)が3小節だがなんとかバランスはとれている。が次の第10小節の受け止めがそれまでの良さを消してしまった。歌詞の段落はここで中断だが、音楽はまだ終われないノダ。普通はその前後の歌詞をくりかえしてバランスをとる。ここから作り直してはどうか?訓練としてはその意味はあるし、良い曲に生まれ変わる可能性もおおいにある。

木村 ヤンバルの森を巡る自然破壊の実情を短い言葉で綴られています。破壊の告発が前半の3段、それに抗する闘いが後半の3段で歌われていますが、力の入れ方が対等に聞こえて来ます。メロディーは工夫されているのですが、音の高さが前半の方が高くなっているのも全体の印象を弱くしている一因かと思います。一番の歌詞で曲をつけたと仮定すると、一番の前半は破壊の前を歌っていますから、明るくなっても違和感がありません。三番の歌詞でメロディーを作ってみるなんていうのもありかも。

武  愛知の時の講評に付け加えて書きます。ヤンバルの森、の部分から歌がうまれていったでしょうか?メロディラインがありきたりではなくて新鮮です。そこに4番では「木登りとかげ」がすっぽり入るのも成功ですね。

さんしんの入るアレンジも良くできています。私は「聞こえ来る」からの広がりが特に好きです。繰り返しになりますが、最後の「聞こえ来る」のメロディがいまいちはっきりしません。また、最後の「自然と平和かえせの声が」は、強い願いや私たちの怒りですから、もう少し別のメロディがついても良いかとも思います。上行して終わるとか、自然と平和を繰り返すとか、少し「イレギュラー」にして、どこかにフェルマータをつけるとか。いかがでしょうか?

長森 三線の音色が曲を盛り上げていますね。8小節目からの展開が効いていますので、10小節目からも それに応える流れが欲しいと思いました。こうした曲を作る事で支援応援の気持ちが伝わり、自分自身を奮い立たせる原動力にもなりますね。

 

40.関西合唱団101期研究生(大阪)         指揮/佐藤恵美子 ピアノ/安宅由美                         

♪なまえ     (作詞・作曲/関西合唱団101期研究生)

石黒 シンプルな歌詞がとても上手くまとまっています。テーマに対する着眼点がいい。昨年神奈川県の山百合園で起きた悲惨な殺人事件、犠牲になった障がい者の方々はみな名前で呼ばれていませんね。1周忌の集いで知事が亡くなった方々を「あなた」と呼んでいました。聞いていて辛かったです。ご遺族の様々な思いがあるでしょう、けれど名前はそれぞれの宝物のようなものです。この作品は余分な説明をしないでそのことを私たちに伝えています。「名前を呼ばれると 安心する」「名前をよばれる そこの居場所がある」というフレーズ、オリジナリティーに富んだ素敵な言葉です。

   最後の1行「あなたの名前教えてください」で双方向の歌に着地します、見事です!

木下 歌詞はおもしろい着想だが、かなり大胆きわまりない!各連の間には大きな飛躍が設定され、それが魅力だが、独り合点の危険もある。

       曲は面白いが、作り手の熟考なしに安易に転調に逃げるクセを付けたり、合唱でゴマカス?ことを覚えたり…。集団創作のチューターは苦しいが、楽器に頼るのは(一般的には)やめてほしい。詞も曲もいい思いつきを“奇抜な思いつきに”おとしてしまった、のでなければいいが…。(集団創作は、なんでもとにかく曲をやっつければいい、のではないのだ!)

追補(私は、「集団創作の作品」と限定して、この曲の転調を チューターの原田さん個人の発想だ と おもって「にげるな!」といいたかったのです。私の直感ですが、思い込みでした。ただ、このすてきな詩の着眼は粘ればもっっと面白いものになったに違いない、と残念だったのです。それに、巧く纏まらないとき、その中心点を探さないで、転調で「環境・背景を変えて」切り抜ける時には、必要なテクニックではありますが集団創作の場では、原則禁じ手だからです。個人の作品ならこの意見は当然、場はずれの不当な批判です。また、私の邪推だったら、あやまります。以上、念のため)

木村 名前をモチーフにして、詞も曲も上手にまとめられている。研究生第101期という歴史を感じさせる。だが、名前と数字という極端な対比なので、理解は得られやすいが、尊厳の機微に触れるまでには伝わらないのではないか。

武  とてもいい着想の歌で、心に響きました。前半の16小節、1、2番の対比がうまいです。何気なく聞いていると作者の意図通りに2番でぎょっと、はっととします。ただ一つのマイナーコード、12小節のGmが生きています。以下は、細かいことですが、さらなる発展を期待して記します。

その後は一回もマイナーコードは登場しないのですが、(即それが悪いのではないですが)終わりまですべてがメジャーコード(長三和音)で、ややメリハリがないような、若干の冗長感が残ります。やや印象が薄くなる気がします。17小節からの転調は新鮮で戻り方も自然でうまいのですが、このメロディ・転調が大切な言葉を引き立たせているか、と考えると少し疑問が残ります。あなたの名前を教えてください、(ここがこの歌の一番いいところですね)もちろん本譜で悪いことはないのですが、例えば、あなたの→B♭ 名前を→D7 おし→Gm えてく→E♭ ださ→E♭m い→ B♭ のような色合いはいかがでしょうか。(これは一例です)また、最後の4小節のコードはこれでいいとして、どこかで伸ばすとか、切るとか、少しイレギュラーな要素を入れるとどうでしょう?

他にも可能性はたくさんあるので、もう一度この辺りを再吟味再構成されると、もっといい歌に化けるかも知れないなと期待しています。

長森 親の想いが込められた「なまえ」に着眼して作詞されたところに、皆さんの想いも感じられます。冒頭の自然な流れから、15小節16小節のメロディに もう少し(応える力の様な)まとまりが欲しいと思いました。 此れからも様々な作品にチャレンジして下さい。

 

41.吹田おらが町コンサート合唱団(大阪)           ピアノ/南村知佐恵                                   

♪やんばるの森の小さな命    (作詞/小野寺芳子 作曲/鬼崎良弘)

石黒 本作品も現地に訪問して創られた作品だと思います。やんばるの森に住む生物をいくつも登場させて興味深いです、めずらしい聞いたこともないような生き物たち、作者のしかけは成功しています。言葉は冗漫に流れることなく上手くまとまっています。掲げられた絵も効果的でした、良く見えるようにプロジェクターで写して欲しいくらいでした。

   やんばるの森をテーマにすれば登場するのは、動植物です、どうしても類似してしまう部分がありますね。他作品と差別化するには一工夫必要だと感じました。

木下 東京で聞いたのだが、まったく面目を一新していた。出だしのモチーフもかわいく、さまざまな小動物の名がいきいきと飛び出てくる。ただ、第3連の後半の詞をどう扱うのか工夫の必要なところで、いまの曲はこの詞をもてあましている、…一番伝えたいことが届かない。

1番2番をうたった心が自然に第3連に広がって行くような設計をはじめから意識して、おかなければならない。(今はこのことは別にして)この曲の魅力は3連の内容を変えて、素敵な自然を讃えきる、ことでいいのではないか。そこに聴き手の共感がつくれれば、オスプレイは言葉で伝えてもいいし、森の素晴らしさをつたえる表現で完結する(3番を短く改作する)ほうがいいとおもうが、どうだろう。

木村 次々と出てくる普段聞き慣れない動物たちの名前。現地に行って作り上げただけあって、小さな命の大切さが説得力を持って迫ってくる。「このやんばるの森にヘリパッドはいらない」、「このやんばるの森にヘリもオスプレイもいらない」と歌う。恐らくは最も言いたいことなのであろう。しかし、スローガンをそのまま用いた方が伝わるのか、考えてみたい。例えば、「ヘリパッド造られる毎に/ヘリやオスプレイ飛ぶ度に/やんばるの森が消えていく」。これでも不十分とは思うが、「○○はいらない!」「○○はくるな!」という私たちが得意なスローガンのようになっただけで思考が停止しその先に入って行けない人びとにどう届けるか、が重要になって来ていると感じている昨今。この作者も全体としてはそのようなことを意識して書いていると思ったので、たった2行の箇所にこだわって、敢えて考えてみました。

武    頭の8小節の言葉とメロディ、自然で、胸に響いて、とてもよくできています。次のいろいろな生き物の登場もいいアイディアですね。映像でその姿を見ながら聞きたい気がしました。私も昨年今年と2年続けてヤンバルに行きましたが、美しい良いところですね。この森を守ろう!という願いには心から共感します。ただ、いい歌、大切な歌であり、音楽の作り方は言葉に自然でよくできているのですが、今一つ歌全体の印象が薄くなるのはなぜだろうと考えてみました。(曲のみですが)

頭の28小節で、音楽は6回「終止」しますが、(音楽の終止は文章の句読点のようなもので、4813172228小節)28まで一度もCで終わることなく、一回(Em)を除き、すべてGで終わっています。(和声学では半終止と呼び、文章では「、」の感じでしょうか。)「。」のない文章のようで、これがやや冗漫な感じを生むのではないかと感じたのですが、いかがでしょうか?例えば、17小節、守ってほしい、では上のCで一回終わるのはどうでしょうか?D♭調に行ってからも、まったく同じです。特に強い気持ちを伝えたいここでは、A♭やD♭ではなく、B♭mで終わるところを作るとか、またもっと別のコードが「意表をついて」登場することで、その強い気持ちを高める効果が出ることがあります。蛇足ではありますが、ご参考までに。

いい歌で、大切なテーマですので、再吟味再構築されて、より良い歌にしてほしいなと願います。

長森 高江に駆けつける中で作られた作詞に 自然を守れとの叫びが伝わります。やんばるの森の生き物たちも詩の中で生かされています。「棲みよい 場所だから」と云うメロディは、それまでの流れから もう少しパワーが欲しいと思いました。子供たちと共に歌うことで、曲に込められた想いを共有出来たらいいですね。