■総評 昨年を上回り、各産別・階層と都道府県20からあわせて48曲(昨年13都道府県、37曲)の作品が集まり演奏されました。 反戦平和・9条と沖縄・共に働く仲間への思い・人生の応援歌・子供への眼差し等、幅広いテーマでうたわれました。その中でも“家族”をテーマに取り上げ、“老いること”や“命の尊さ”を子育て世代が切実な思いで歌った「ママにかいたラブレター」等が印象的でした。また、“健康”をテーマにした作品「メ・タ・ボ」「ガンバレわたし」等ユーモアを交えのびのびと歌い共感を呼びました。“ふるさと”をテーマにした作品も多く、その土地で誇り高く生き抜く人々、一方、離れることを余儀なくされ矛盾を抱えた人々が切々と訴える曲等が寄せられたのも印象的でした。その中でも“ふるさと”の言い伝えをモチーフにした「みちのく・夏〜赤つらさん」は、詩・曲とも重い反戦テーマに置き換えられ、その土地の暮らしの中からうまれた秀美で意外性のある作品に仕上がっていました。 他に今年の特徴は、選挙関連を歌った曲で、野党共闘をテーマにした曲やラップで呼びかけた作品「ラップで選挙に行こう」など斬新な取り組みの中で生まれた作品があったことやリディツィェ村の訪問(チェコ)から、戦争のむごたらしさを訴える作品「消された村」やガンジーの非暴力の精神と9条の精神を組合せ、人類の英知を信頼し、壮大な未来へと託した作品「世界を包もう二つの灯」、韓国と日本との友好に亀裂が叫ばれる中、個から発する平和への思いを情緒豊かな旋律に静かに訴えた作品「ワオン・ヘビョンの岸壁で」、お互いの差別意識を取り除こうという思いから生まれた作品「あなたと私のラプソディ―」等、日本人という立ち位置をみつけ、その意識を外から学ぶという視点で、創られた作品が創作のすそ野を広げています。 生きた現場の闘いの中でなければ生まれてこない肌触りが伝わってくるシンプルで歌い易い簡潔な詩と曲が胸を打ちました。(「見上げた空から」)演奏の力が作品の密度を更に高め造詣深く聞き手に与えた作品も見逃せませんでした。(「羽ばたけ鳩よ」「Nagasaki Rain」)他に“リニア新幹線の問題”にメスを入れたのも今年の特徴であったように思われます。 全体的にはそれぞれの持ち味を生かし優劣しがたく、個性的で作品レベルが上がっていて飽きさせず、作曲の視点も、大きな合唱団が専門家の作品を歌う機会が増えている昨今、暮らしと生活からテーマを見つけ、身近な家族を暖かく丁寧にうたい上げる細やかな精神が生かされている創作活動は健在で、足元から歌いあげている姿に感銘を受けました。ただ今回、福島、沖縄の歌が少なかったのは残念でした。また、詩が長く言い過ぎる傾向が有り、誰もが歌い広めていくための要素を持った「シンプルで訴える旋律の力」が掘り下げられた作品が少ないのも今後の課題のように思われます。 鳴海 卓(うたごえ新聞掲載分) 2009年の京都に始まり、10年間(11回)続けてオリコンを聞かせていただいてきましたが、毎年はっとさせられるような力作や名曲、また、年を追うごとにレベルアップをしている作者に出会うたびにうれしくなります。今年は過去10年間で最高の48曲の作品が集まりました。 私は主に、曲つくりに関して講評させていただきますが、正解を言っているつもりではなく、もう一つのアイディア、という程度で書いていますから、そのつもりでお読みください。武の案には納得できない!という時もあるでしょう。それでも、何か一つでも次の曲つくりへの参考にしていただけたらと思います。私の願いです。 武 義和 |
■講評委員
大西 進(作曲家)
武 義和(作曲家)
長森かおる(作曲家)
鳴海 卓(声楽家)
野田淳子(シンガーソングライター)
■講評委員の皆さんによる推薦曲
5票(満票)「消された村〜リディツッェに捧ぐ」「見上げた空から」「Nagasaki Rain」
4票 「ワオン・ヘビョンの岸壁で」
3票 「ふるさとよ」「未来へ」「メ・タ・ボ」「みちのく・夏〜赤つらさん」
2票 「ママに書いたラブレター」
1票 17曲